最終決戦~酔いどれ
ズガアァァァンッ!!!
ふいに大音響が響き、ジジイは即座に
身を屈めた。
ズガアアアァァァンッ!!!
次の爆発は、より近い場所で起きた。
砲弾の破片が、後方から操舵室の壁をぶち破る。
それらは、高速でジジイのすぐ側に飛んできた
「くっそ、くそが、現代兵器と戦うなんて
やっぱり馬鹿げてやがるぜ!!!」
しかし、毒づきながらも、
ジジイの口元はニヤリと口角を上げていた
「だが、俺を狙いやがったな!
俺を狙いやがって.....お前等の負けだよ」
そう、今のボフォース船には、
アンカーを引き上げて、エンジンを始動させて、
移動する時間なぞ無い.....
『ボフォース57ミリ砲』で迎撃するしか、
奴らが生き延びる手段は無いのだ。
そして、奴らは『つぎはぎ丸』ではなく、
この『漁船タイプ』を撃ってきたことで、
最後の数刻のチャンスをフイにしたのだった
ドオオオオオオオオオンッ!!!!
バアアアアァァァァァンッ!!!!!!
ズドオオオオオオオオンッ!!!!!!!!
唐突に響く、耳をつんざく凄まじい轟音....
屈みこんだままのジジイは、
驚愕の表情で左舷の窓を見た。
「やりやがった...
うちのヨッシーが、やりやがったぜ!!」
なんと、ボフォース57ミリ砲が、砲塔ごと
真上に吹っ飛んでいた。
あまりにも見事すぎる光景に、ジジイは
変なテンションで笑い始めた。
「ヒャヒャッ....ヒャッハーー!!!」
しかし、すぐに真顔に戻ると、
立ち上がって右舷の窓を開けて顔を出す。
急いで後方の『つぎはぎ丸』を確認すると、
薄くたなびく黒煙の向こう....
孫のヨッシーがこちらに手を振っていた
「よしっ、無時だな....
神様、心から感謝します」
窓から顔を引っ込めて、操舵室の内部を確認
舵輪の近くに置いていた”タブレットPC”と、
”通信スマホ”が割れている。
飛んできた破片が直撃したらしい....
さらに、
エンジンルームの異常を知らせるアラーム音が、
さっきから鳴っていた。
そして、背後から漂う黒煙と焦げた匂い....
「ふむ、操舵室から後ろは火を吹いているのか?
通信も出来ないが、もう、その必要はねえな。
おっと、まだくたばるんじゃねえぞ、
エンジンよ!
俺は今から、阿呆な孫の代わりに、
神様にこの身を捧げるからよ!」
今から始まるのは、”孤独な戦い”だ
ジジイは、ロングコートのポケットから
コンパクトミラーを取り出した。
それは、ウメさんから貰ったヤツだ
コンパクトミラーを何気に口元に近づけながら、
ジジイは狂ったように独り言を呟いていた
「ウメさん、今後も末永く、うちの孫たちを
可愛がってあげてください....
俺と違って、
あなたは長生きをしてくださいね」
ずらした椅子の上に置いてあるのは、
『メーカーズマーク』という
美味いバーボン・ウイスキー
こちらは、砲弾の破片を免れて無事だった
ジジイは、バーボンを手に取った。
腰のベルトには『コルト M1911』が差してある。
ぶっちゃけ、もう、コイツらさえあればいい
「ヒヒヒッ...それと、海賊共へのお土産だ」
そして、
床の粗末な手提げ袋の中に入っているのは、
『120ミリ砲弾』と、『遠隔スイッチ』
長身に禿頭と白い髭のジジイは、
ニヤリと笑って言った
「さてと、これから
”もうひと花”咲かせようじゃないの!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
海賊共の『水上交通船タイプ』は、2階建ての
細長い船だった。
1階部分は、船首近くから船尾まで、ズラリと
窓が並ぶ客室エリア。
2階部分は、前半分が操舵室&船員エリア。
後ろ半分が、屋根&手すり付きの解放デッキだ
黄色と黒のふざけたツートンカラーの船で、
かつては東南アジアとかで、文字通り
水上交通船として使われていたのだろう。
今は豊富な内部スペースを使って、
略奪品の運搬と、海賊共の居住区として
使われているのだろう
そして、なんと『水上交通船タイプ』は、
この海域から逃げ出そうとしていた
「呆れたねえ....
陸の仲間を置いて逃走するつもりかね?
逃がすわけねえだろ!!!」
今にもぶっ壊れそうなエンジンを
フル回転させて、
ジジイは『漁船タイプ』を走らせていた
大爆発を起こし、
轟沈しつつある『底引き網漁船タイプ』
その背後から、ひょっこりと出現した
『水上交通船タイプ』に、『漁船タイプ』が
迫りつつあった。
すでに戦意を喪失した海賊共にとって、
その光景はさぞ悪夢だろう.....
道連れに飢えた”狂気の翁”は、
まさに地獄の死者だ。
そのジジイは、片手に持ったバーボンを
瓶ごとラッパ飲みしていた。
「ぐはああー、ぐぷはあああーーー、
一度やってみたかったことの一つだぜ!」
それは、あまりにも狂気に満ちた飲み方だ
アルコール度数”45度”のウイスキーを、
水のようにゴクゴクと喉に流し込んでいるのだ
もはや、後先考えていない飲み方だが、
もはや、後先考える必用が全くない....
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『つぎはぎ丸』では、
ヨッシーが立っていることが出来ずに
勢いよく床にぶっ倒れていた。
左側の感覚が無い.....
”ニーチェ的超人モード”は無くなり、
今の彼は15歳の少年だった
金髪美女の姿は消えている。
遠くでは、
火を吹いたジジイの『漁船タイプ』が、
海賊共の『水上交通船タイプ』に肉薄している
「ジジイ....命を投げ出すつもりなんだろ?
まあ...俺も、
後を追うことになりそうだけどな」
自分の”左側”がどうなっているのか、
確認する勇気がない。
そして、『つぎはぎ丸』は、
どんどん沈んでいた。
57ミリ砲弾のタングステン・ボールが、
船底に穴を開けたのだろう。
しかも、
120ミリ艦載砲を発射した時の爆炎で、
船首部分が吹き飛んでしまっている。
おかげで、
床に倒れながらも見晴らしはいい(笑)
半壊した『つぎはぎ丸』は、ゆっくりと
沈みながらも、海流に乗って進み続けていた。
目の前には、
轟沈しつつある『底引き網漁船タイプ』
まさに、そこに向かって進んでいるのだ。
「おやおや.....
生き残り共が、こちらに向かってくるぜ」
そう、沈みつつあるボフォース船から、
3人の海賊共が
こちらに向かって泳いで来るのが見える
遠目からでも、
その表情は憤怒に満ちているのが分かった
「まあ....そりゃあ憎いだろうな。
こんなガキに船が沈められるなんて」
今の自分は、満身創痍の無力な15のガキだ
しかし、ヨッシーはハッと思い出して、
カーゴパンツの膝ポケットをゴソゴソとした
取り出したのは、
『スミス&ウェッソン M360J SAKURA』
短銃身の警察用リボルバーだ。
なんだかんだといって、
この銃は最後まで良き相棒だった
ヨッシーは、右手にリボルバーを持ったまま
ニヤリと笑った
「さて、死ぬ前に
”もうひと花”咲かせようかね.....」