最終決戦~土手っ腹にナイフを
出航した時からずっと、ヨッシーの目の前には
『漁船タイプ』のケツが見えている。
その屋上デッキからフェアリーダーを通して
曳航ロープが伸びており、
『つぎはぎ丸』の船首ピットに繋がっていた。
すると、今まで左舷に見えていたボフォース船、
つまり『底引き網漁船タイプ』が
見えなくなった。
要するに、この3隻は今、
”一直線上”にあるということだ。
ちなみに、少し遠くには、
こちらに船首を向ける『水上交通船タイプ』が
未だに見えている。
...と、ついに通信スマホから
ジジイの声が聞こえた
「ボフォース船との距離、約500m!!
今だ、リナ、リサ、飛びこめ!!!」
即座にリナからの返答が来る
「よっしゃ、飛びこむよ!
スマホの電源を切るね。
それじゃあ、絶対にまた会うんだよ!!」
ついに始まった.....
「ヨッシー、浮き輪を投げ入れろ!!」
ジジイの言葉を待つまでもなく、
ヨッシーの身体は動いていた。
『つぎはぎ丸』の操舵室を飛び出す
「リナ、リサ、2人ともサンキュー!!
海賊共にとっては致命的な、
俺たちにとってはチャンスの時間を
作ってくれた」
独り言をつぶやくヨッシーの目の前には、
船首に向かって伸びる120ミリ艦載砲。
そして、30メートル程先に漁船タイプのケツ
さらに、漁船タイプの準二階建てのデッキから、
海に向かって飛びこむ”天才水泳姉妹”の姿
ヨッシーは、ドア脇に立て掛けていた浮き輪を
二つ、海に投げ入れた。
リナとリサが、『つぎはぎ丸』の脇を
流れていく
「ヨッシーーー、がんばーーー」
「後は頼むーーーー」
二人の声援がすぐに遠ざかる....
ヨッシーは、すぐに操舵室に戻ると
通信スマホに向けて言った
「ジジイ、船の速度を上げたのか?」
「ああ、今から俺は、最大速で面舵一杯にする。
そちらは、
ロープを外してからすぐに操舵室に戻れ」
「了解!!」
『漁船タイプ』の操舵室では、
ジジイがアクセルをぶん回しながら
右一杯に舵を切った。
船が少し傾きながら、右に曲がる.....
しかし、牽引されている『つぎはぎ丸』は、
そのまま直進している。
2船の間に張っていた牽引ロープが、
大きく緩んで真ん中が海中に没した。
ヨッシーは、操舵室から出た。
大砲の横を走って船首のピットに向かい、
そこに引っ掛けているロープの輪っかを
取り外す。
・・・これで、
『漁船タイプ』と『つぎはぎ丸』の連結は
外れることになった。
ふと、こすからい鋭い目で前方を見据える
「再び見えたぜ、糞ボフォース船が!!」
約400メートル先に、
こちらに船首を向ける『底引き網漁船タイプ』
すぐに操舵室に戻って通信スマホに言う
「ジジイ、牽引ロープは外したぜ」
「いいか、今から、最大速で舵を右に切って
俺のケツにピッタリと付けろ」
ヨッシーは、クラッチを前進に入れて
アクセルレバーを押し出した。
ブオオオオンッ、ブオオオオオッ
『つぎはぎ丸』は、元々が機帆船であり、
今は帆とマストが取り外されている。
現状では、
貧弱な推進機関しか持たないショボい船だ。
しかし、別の船からレストアしたエンジンは、
煙突からモウモウと黒煙を吹き出し、
唸り声を上げて船を加速させた。
「面舵いーーーっぱぁーーーいい!!」
叫びながら舵を右に切るヨッシー
目の前の『底引き網漁船タイプ』と
『水上交通船タイプ』、
さらに、その背後の『島』の風景が
左側に流れていく。
わずかに傾いた身体が、
右側に持って行かれそうになる
その事で、自船が右に進路を変えたことが分かる
ヨッシーは、舵をわずかに左側に切って
当て舵をすることで、船の旋回を調整した。
ジジイの『漁船タイプ』のケツに、
再びピッタリとくっつく
2隻は、連なりながら最大速度で走っていた
まあ、どちらとも鈍足な船なのだが、それでも
それなりの速度だ。
やがて、ジジイが言った
「今だ、ヨッシー!!!!!
アクセルを戻して取り舵15度で固定
アクセルを戻して取り舵15度で固定だ
その後は、一切、船を操作する必要は無い
俺を信じろ、いいな、信じるんだ!!」
ヨッシーは答えた
「了解、アクセルを戻して取り舵15度で固定。
信じるぜジジイ!!」
ヨッシーは、アクセルレバーをデッドスローに
戻した。
そして、舵輪をグルグルと左側に回し、
『舵角指示器』が15度を示したところで
舵輪を固定した
そして、通信スマホに向けて言った
「ボフォース船の....あのクソの
土手っ腹にナイフを突き刺すんだな?
分かるぜジジイ」
ジジイが答える
「ああ、”帰り潮”と、かすかな”追い風”....
絶対に、”腹にナイフの軌道”を取るはずだ
いいか、俺は、半世紀も
この海域を航海している。
だから、俺自身も俺を信じているんだ」
ヨッシーは、操舵室の窓から左舷方向を
見つめた
まるで、ジジイの『漁船タイプ』が
隣を並走しているようだ
青と赤のツートンカラーの不格好な海賊船だ
(ジジイ、ボフォース船からの
盾になってくれているんだな....)
ヨッシーには、すでにジジイの意図が
分かっていた。
今、ジジイの『漁船タイプ』は、
『底引き網漁船タイプ』と『つぎはぎ丸』の間を
走っている状態だ。
つまり、ヨッシーの”盾&目くらまし”として
機能してくれているのだ。
当然、とてつもなく危険だった
(でも、もしも自分も同じ立場だったら、
同じことをするだろう)
やがて、『つぎはぎ丸』の船首が、
『漁船タイプ』の右舷に向くようになった
....ヨッシーは、ジジイに言われた通り
船の操作を全くしていない
舵が固定された『つぎはぎ丸』は、
惰性と潮の流れと追い風によって、
左側に大きく弧を描くような軌道を描いているのだ。
通信スマホからジジイの声がする
「よしっ、いいぞ、思った通りの軌道だ。
操舵室を出て、攻撃の準備にかかれ!
........
幸運を祈る、ヨッシー.....」
『つぎはぎ丸』の船首が、『漁船タイプ』の
右舷の腹に衝突しそうになっている....
つか、あと30メートルほどで
2隻は衝突するだろう
しかし、ヨッシーは操舵室から出た
すぐ目の前に、
『漁船タイプ』の準二階建てのブリッジ
そこの窓越しに、ジジイが横を向いて
こちらに手を振っているのが分かる
「おや、もう変装セットは取ったのかね?」
独り言を呟きながら、
かすかに分かる禿頭と白い髭の姿に手を振り返す
「そんじゃあ、出来れば生き残ってくれ、
俺の愛するジジイよ」
すぐに、ジジイの姿は流れていった
”後、5メートルで衝突”
....と思った瞬間、
『漁船タイプ』の船尾が通り過ぎた
「レッツパーリィーだぜ」
自然とヨッシーの口元がニヤリと口角を上げる。
無理もない、彼の目の前に出現したのは、
”こちらに無防備な横腹を見せるボフォース船”
だったからだ.....
距離も約200メートル、超至近距離だ。
まさに”土手っ腹にナイフを突き刺す”とは
この事だった