ワタリガニのパスタ
「ザミガーのスタパー」
ワタリガニの良質な出汁と、カニ味噌の濃厚な
風味が絶品のパスタを生み出す
ユッキーは、スルメイカを細長く切った
イカソーメンを軽く炒めてパスタに加えていた。
タンパクな味のヤリイカは
ワタリガニの風味を邪魔することなく、
パスタ麺を増量しているかのような効果を
生み出していた
そして、伊勢海老汁にヒラメの煮付けに
アジの刺身にゲソの塩焼き
「わくわくポート」の2階の食堂は、
魚油で灯したほのかな光で照らされている
そこには、ジジイと子供たち9人が居た
5人が座れる一番大きなテーブルには、
少女4人とプリンスが座っている。
3馬鹿少年たちは、2人用の対面テーブルを
2つくっつけて固まっている。
ジジイとヨッシーは、対面テーブルに
向かい合って座り、黙々と食べていた
ちなみに、ジジイ以外の大人は3人居るのだが、
彼等は一隻の機帆船に乗って
港の入り口付近に駐留している
交代制で見張りをしているのだ
一応、ジジイは「わくわくポート」と
子供たちの統率を任されていた。
作った食事は、後でジジイが
フィッシングボートで
届けにいくということだった
とにかく、子供たちのテンションは高かった
少しふくよかな少女であるユッキーの料理は
皆を快活にさせた
フワリとしたセミロングの髪に切れ長の目、
Tシャツとジャージのボトム姿のリナが言った
「凄いよユッキー、こんなに美味しいパスタ、
私の地元でも無かったよ!
それに、ヒラメの煮付けも凄く美味しい」
フワリとしたショートボブの髪に
パッチリした目、姉と同じ格好のリサも
同意する
「うん、もしもユッキーが
旅館の女将になったら大評判になると思う。
いや、いっそのこと
料亭をやったほうがいいかも」
ウェーブのかかったロン毛をセンター分けした
嫌味な外見のプリンスも、会話に参加した
「生クリームを入れてたら、
もっとまろやかさが増すのにね。
例えば、本場ロサンゼルスでは....」
ユッキーとリナとリサとスミレの4人の女子が、
一斉にプリンスを睨んだのだった
・・・・・・
風が強いのだろうか?
外からかすかにガタガタと音が聞こえる
ジジイは、ヨッシーに言った
「ヨッシー、食事が終わってからでいい、
スタッフルームの奥の部屋に来い。
取水場で手に入れた拳銃を手入れして
お前に持たせる」
唐突の言葉にヨッシーは驚いた
「あ?拳銃?あの、人型が持ってたやつか?
俺が持ってていいのかよ」
ジジイは、早くも食事を平らげていた。
そして、立ち上がって言った
「今から俺は、沖で見張りをしている連中に
食事を届けてくる。
俺が帰ってくるまでに
食べ終わっているだろ?
拳銃の手入れの仕方と撃ち方を教えてやる」
撃ち方だって?実弾を撃つのか?
一体どこで...
しかし、ジジイは席を立つと
用意してあったテイクアウト用の食事を持って
下に降りて行った
それからも長いこと、子供たちはワイワイと
たわいもない会話を続けていた。
いつの間にか、
ヨッシーとジジイの姿が無かったが、別段
気にする者はいなかった
まるで、修学旅行のようなノリだった....
こうして、美味い料理を味わい、
楽しく会話することで子供たちの心は
救われていた
ふと、子供たちの中の一人が、換気をしようと
窓を開けた。
窓の外は一寸先も見えない漆黒の闇、
......そして
一斉に鼻をつまむ子供たち
ユッキーが言った
「これって、人型の匂いだよ!!」
異質な腐敗臭のような匂いが、子供たちを
容赦のない現実世界へと引き戻した。
どういう方法でか、
人型は生きている人間の存在を察知して
集まってくるのだ
プリンスが言った
「ど、ど、ど、どうすんだよ!
島には海賊が居て戻れねえし、
ここにも人型が押し寄せてきたら
俺達はどうすんだ!!
もう、チョコボーラーの所に行って
保護してもらうしかねえよ」
漁港の王子様は錯乱状態にあった
しかし、一番年下のスミレが言った
「もしも、チョコボーラーの傘下に入ったら
私たちがどういう目に会うのか
知ってるでしょ?
臨海工業地帯の工場で働かないと
いけないんだよ
それも、自分達の為にじゃなくて、
自衛隊やアメリカ軍の為の製品を生産して、
代わりに与えられるのは少ない食料だけ!
冗談じゃないって!!」
ストレートの長髪を後ろで無造作に結び、
こすからい鋭い目に、
Tシャツとショートパンツ姿のスミレ
腰に両手を当てて、鋭い目で
プリンスを睨みつけている
リサも同調した
「ジジイさんが、この建物は大丈夫だって
言ってた。
ちゃんと、今後のことも
話し合ってるみたいだし、
なんで、立ち向かわずに
すぐに逃げ出そうとするの?」
プリンスは、ウェーブしたロン毛を
搔きむしって泣き出した
「周りの現実を見てみろよ、
ちっぽけな島に何が出来るってんだよ!
海賊にも人型にも
手も足も出ねえじゃねえか」
プリンスの嘆きは、3馬鹿少年たちにも
伝播した。
情けない男4人のすすり泣きが、
情けない重奏のようになっている。
魚油で灯されたほのかな光に照らされた
食堂内には、
地面に崩れ落ちて泣く4人の少年と
成すすべもなく、
それを見下ろす4人の少女の姿だけがあった
そして、人型の腐敗臭と、ガタガタという音
「俺がぶち殺しちゃるわ!!!」
スタッフルームのドアが開き、出てきたのは
ヨッシーとジジイだった
ジジイは、電池式の懐中電灯を持っていた
そして、ヨッシーの手には、
黒い小型のリボルバーが握られていたのだった




