最終決戦~攻撃
ナツミは、口をポカンと開けて
隠れている大木から、斜め前方を見つめていた
最初に、凄まじい爆音が響いた。
次に、『ボフォース57ミリ砲』の砲塔が、
火柱と共に数十メートルも真上に
吹っ飛んでいったのだ。
陸の建物群の高さを飛び越え、まるで
ロケットのように飛び立つ砲塔....
続けて、第二の大爆発が起きる
(あの人たち、やり遂げたんだ....)
呆然とする皆を後目に、
ナツミの前に居るサブロウは、即座に判断した
隠れている大木から飛び出しながら言う
「今だ、ナッちゃん、撃つんだよ!!
俺は右で、君は左だ!!」
ナツミは我に返った。
そして、同じく大木から飛び出しながら答えた
「分かった、左の奴を撃つ!」
サブロウが持っているのは、
『コンパウンドボウ』だ。
それは、簡単に言うと、
現代物理学の成果を結集した最新式の弓矢だ。
まるでコウモリの骨格のようなフレームに、
両端に滑車を備え、弦を二重に張っている。
それらの仕組みによって、
他の弓では実現できないほどの強力な力で
矢を発射することが出来るのだ。
しかも、
矢じりは『ブロードヘッド』と呼ばれる、
4枚刃が付いた狩猟用タイプ
...........
”ナツミとサブロウの80メートル前方には、
後ろを振り向いて固まっている2人の海賊共”
サブロウは、コンパウンドボウに矢をつがえ、
弦を引き絞った
バシンッ!!
サブロウが矢を射出した時、その隣では、
ナツミが和弓の発射準備を終えていた
『和弓』とは、いうまでも無く
日本古来の弓矢だ。
2メートルを超える全長は世界最大級。
積極的に現代物理学を採り入れているわけでは
ないものの、
先代日本人の知恵が詰まった武器なのだ
(練習通りに動くんだ!)
距離は約80メートル、
ナツミは、弦を引き絞り仰角をつけた
「アアアアッーー!!」
悲鳴が聞こえ、後ろ向きの2人の内、
右のほうがぶっ倒れた。
おそらくは、サブロウの矢が命中したのだろう
左のほうは、振り向きながら『AK-47』の
コッキングレバーを引いた。
それなりに訓練されているらしい....
ビイィィンッ!!!
弓がしなる音がして、矢が射出された。
ナツミの左手の中で弓が一回転する。
いわゆる”弓返り”だ
和弓の矢の速度は、コンパウンドボウのそれの
半分くらい。
1秒以上かけて標的に到着する。
しかし、仰角を取って発射された矢は
綺麗な放物線を描き....
(完璧だ、成功したわ!)
手ごたえ通り、矢は吸い込まれるように
左の男へと向かっていった。
「グアアアアアアッ!!!!」
悲鳴が上がると同時に、
ズダダダダダンッ!!!!!!
ズダダダダダンッ!!!!!!
『AK-47』のフルオート音が鳴り響く
「うわああっ撃ってきた!!」「伏せろ!!」
後ろの仲間たちがパニックを起こし、
サブロウでさえも、あわてて身を屈めた。
しかし、ナツミは、
鍛錬によって染みついた動作で
次の矢をつがえながら言った
「皆、大丈夫よ!矢は命中してるから!!」
その言葉通りだった。
右肩を射抜かれた男は、
銃を地面に向けて撃っていたのだ。
ナツミの50メートル程先では、着弾による
砂埃があがっている。
銃声はすぐに止み、
男はAK-47を手から落としたのだった。
と、唐突に山のほうから”笛の音”が響いた
ピイイイイィィィ!!!!
サブロウが言った
「総攻撃の合図だ!!
やっぱり、ボフォース船をやっつけたんだ!!
俺たちの勝ちだ、勝ったんだ!!」
さらに、遠くから狩猟用ライフルの銃声も
聞こえてきた。
『造船所』と『火力発電所』の方角からだ。
そこは、主力部隊が攻撃を担当している
「総攻撃だーー、行くぞーー」
ナツミの背後から、
警察用の拳銃を持った男が飛び出した
「ああああああ、突撃いいいい!!!」
まるで、ヤクザ映画で
鉄砲玉が親分の首を取るシーンだ。
2人の海賊共に向かって、
拳銃男が走って行く...
「クソが、お前等、好き勝手しやがって!
おらぁああ仕返しだあー、食らえぇ!!」
2人の内、コンパウンドボウで射られた男は、
後ろ向きの姿のまま地面に倒れている。
和弓で射られた男は、
肩に矢を突き刺しながらも
あわてて地面に落ちたAK-47を拾おうとした。
片膝をつき、AKを手に取ろうとするが.....
あまりもの激痛に身をかがめてしまった。
やがて、拳銃男が目の前に到着したのだった
「请帮助我,原谅我、请原谅我....」
膝をつき両手を上げて必死に許しを請う男に、
警察用拳銃が突き付けられる。
短銃身リボルバーの『M360J SAKURA』だ
「はあ?何言ってんのか分かんねぇよ。
それに、銃を拾って俺を撃とうとしたろ?
許せるわけねえだろうよ、カス!!」
ズダンッ!!
リボルバーが火を吹き、
肩に矢が刺さった男が後ろ向きに倒れる。
拳銃を発砲したのは、かつて
漁港町の駐在所に勤めていた”元巡査”だった。
元巡査は、忘れずにもう一人に向けて撃った
ズダンッ!!
後ろ向きに倒れたままの男は、
一瞬、ビクンと身体を震わせた。
そして、それっきり動かなくなった。
こうして、2人の海賊共は即座に射殺された
「よっしゃ、AK-47を2丁手に入れたぞ!!」
「ボフォース船もやっつけたし、
もう俺たちの勝利は確定だぜ!!」
「ああ、後は思う存分に復讐だ」
「皆殺しだ、皆殺しだー」
口々に叫びながら、
ナツミの横を通り過ぎて行く仲間たち。
彼女の約80メートル前方、
倒れた2人の海賊共の周囲には、
すぐに小さな人だかりが出来た
「すげー、サブロウさんの矢、こいつの身体を
貫通して地面に刺さってる!
流石はコンパウンドボウだな」
「いやいや、ナツミさんもすげえよ。
2人が矢を命中させてくれたおかげだ」
「おや、こいつ、拳銃も持ってるな...
どれどれ、おおっ『マカロフPM』じゃね?」
遠くからは、絶え間なく
銃声や悲鳴や怒声のようなものが聞こえてくる。
街全体で、戦いが繰り広げられているのだろう
ナツミは、弓に矢をつがえたまま前進した。
隣のサブロウも動く
サブロウは、
固まってワイワイやってる仲間たちを一喝した
「2丁の銃は、お巡りさんと田上が持つんだ!
拳銃は、井之上が持っとけ。
まだ気を緩めるんじゃないぞ。
俺たちのチームは、これから
郵便局の道を通って、港に向かう」
そして、ナツミのほうを向いた
「ナッちゃん、ナイスショットだったよ。
....って、大丈夫か?」
黙っていたナツミは、ハッとなった
「あ、ああ、ごめん....
そうだっ、早く港のほうへ行かないと!
海はどうなってるの??
うちのジジイとヨッシーが、
それに、リナちゃんとリサちゃんも!」
そう、一体、”海”はどうなっているのか??
他の仲間たちとは対照的に、ナツミの表情は
不安げだった