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最終決戦~レジスタンス

木々の隙間から見下ろすのは、『島』の街並み


小島夏美こじま なつみは、仲間たちと共に山を下っていた。


恰好は、茶色のパーカーに

灰色のコットンパンツにトレッキングシューズ。


しかし、パーカーには黒い革製の胸当てを着け、

片手には長大な『和弓』を持ち、

数本の矢が入った矢筒を背負っている



「ハア....ハア....事が終わったら、

 ジジイにビンタをぶちかましてあげるわ」



ナツミは、ぶつぶつと独り言を呟いていた


島の街並みからさらに向こう、

港の先にある青い大海原.....


そこに見えるのは、”4隻の船”だった


一行は、立ち止まった。


『コンパウンドボウ』を背負った壮年の男が、

双眼鏡を取り出しながら言う



「こちらに向かってくる、あの青い『海賊船』、

 今は小島のとっつぁんが動かしてるんだろ?

 んで、それに曳航されてる『つぎはぎ丸』、

 それにはヨッシーが乗ってるわけか...」



男は、双眼鏡を目に当てた



「ややっ、アレは??


 海賊船のブリッジの上にあるレーダーマスト


 見てみいや、アレって

 美月姉妹じゃないのか?

 あの二人も参加してるのかよ!」



ナツミは、歯を食いしばって、鋭い眼差しで

遠くに見える船たちを眺めた。


こうして見ると、スミレにそっくりだ


まあ、本来の彼女の目は、娘と違って

だいぶ穏やかではあるが...



「うちのヨッシーだけじゃなくて、

 リナちゃんとリサちゃんまで....


 本当に、あのジジイは

 一体何を考えているのよ!


 事が終わったら、

 強烈なビンタで出迎えてあげるからね!


 それに....阿呆ヨッシーにも忘れずに

 ビンタをかまさないと!!」



「し...心中、お察し申し上げる...」



ナツミは、片手にもった和弓を強く握りしめた



「で、でも、すでに放たれた矢は、

 もう今更どうしようもないわね


 攻撃が成功するのを祈るしかない...


 そして、私達もヤルしかないのよ」



そして、皆のほうを振り向く


警察用の拳銃を持った男、

投擲用の網を持った男、

さらに各々の武器を携えた数人が続いている



「皆、街では、お年寄りたちが

 海賊共の仕打ちを受け止めてくれている

 

 でも、もう、これ以上は我慢ならないわ


 今から、私の阿呆な身内が...


 ....つまり私の義父と息子が、

美月姉妹まで巻き込んで、

 あのボフォース船を

 なんとかしようとしてるけど....


私達だって、彼らに負けてはいられない」


 

ナツミの言葉に、皆は無言で頷いた


一行はズンズンと山を下って行く。


ナツミは、長い和弓が引っ掛からないように

気を付けていた。

やがて、すぐ目前に建物群が迫る場所まで

たどり着いた。


先程と違って、この場所からだと

海までは見渡せない。


建物の隙間から、白い『底引き網漁船』、

つまりボフォース船がチラチラと見えるだけだ



(ここからだと、

 海はどうなってるのか分からないけど...


 そこでは、義父と息子と、美月姉妹ちゃんが

 命を張って頑張ってくれている...


なら、私だって躊躇なく撃たなければ)



今まで、生きた人間を弓矢で撃ったことはない


『田舎派』と『都会派』の内戦時にも、

彼女は戦闘に加わることはなかった....


その罪と苦しみは、ジジイが代わりに

背負ってくれたのだ。



「そして今も....ジジイは私達の代わりに

 命を投げ出そうとしている。


 それでも私は、ジジイと再会したら

 ビンタをかます」



ブツブツと呟いていると、目の前の

コンパウンドボウ男がサッと手を上げた。


ついて来た後続たちがピタリと止まる



「皆、今から俺が先に行って偵察する。


 ナッちゃんは、俺の合図で来てくれ。

 他の者たちはここで待機だ」



ナツミは答えた



「分かった、気を付けてねサブロウさん!」



サブロウは、身を屈めて前進した。


コンパウンドボウを背負い、

木々に身を隠しながら素早く動く様は、

まるでプロのハンターのようだ。

これでも彼は、かつては旅館の主だったのだ


さて、一行の目の前の建物群は、

かつては街の”目抜き通り”だった場所だ


『しょぼ吉スーパー』

『ジェンキンソン寿司3号店』

『マックス&ドナルドソン・ハンバーガー』

『スーパーバックス珈琲』

『ボーリング場(4レーン)』

『海鮮料理・海入道(本場ロサンゼルス)』

『苗山旅館』


などの店舗が立ち並んでいる


サブロウは、一行から十数メートル先の木に

隠れながら、手で合図してきた


こちらに向けて”ピースサイン”をしてくる


....つまり、敵は”2名居る”ということだ


そして、ナツミに向かって、

手のひらを下に向けて腕を上下した。


ナツミは、頷くと地面にうつ伏せになった


そのまま、片手に和弓を持ってゆっくりと

匍匐前進を開始する。


なんとか、サブロウの後ろに立つと、

彼は言った



「ナッちゃん、

 ここから、約80メートル程先だ。


 確か、和弓の遠的は

 60メートルとかだったよね?

 いけそうかね?」



ナツミは頷きながら言った



「大丈夫よ、サブロウさん....

 一応、その距離でも練習はしてたからね


 こう見えても私、高校時代は、

 国体の優勝メンバーの一人だったから」



身を隠している大木から顔を覗かせ、

前を見続けながらサブロウが言った



「よしっ、今、アホ海賊共が何やら

 おしゃべりをしている!

 ナッちゃん、素早く連中を見たまえ」



ナツミは、少し屈みこむと、

サブロウの背後からニョキっと顔を出した


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『島』にしては大きな通りの奥に、2人の男が

立っていた。


チンピラ風の服装、2人とも比較的若く見える。


そして、お互いに

おしゃべりに夢中になっている....


....彼らが背負っているのは『AK-47』


自分の持つ弓矢よりもはるかに強力で、

弾は数百メートル先にも命中する。

しかも、

マシンガンのように連射できるという話だ



(あんな軍用銃を持つ連中を相手に、

 私たちは勝てるのか?)



ナツミの心を弱気が支配していった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


サブロウは、背負っていたコンパウンドボウを

取り出した。


ナツミも、ハッとしながら背負っていた矢筒を

腰まで落とし、フタを開ける。


そして、一本の遠的用の矢を取り出した



(私が今からやる事の難易度なんて、

 ジジイとヨッシーのソレとは

 比にならないでしょう?


 いい、絶対に命中させるのよ!!!)



決心を新たにしたその瞬間...............



ズドオオオオオオオオンッ!!!!!!!!


ゴオオオオオオンッ!!!!!



凄まじい音が響いて、

背後の山にも”こだま”した



それは、『勝利の瞬間』



口をポカンと開けるサブロウとナツミ


建物群の高さを越えて、

火を吹いた”砲塔”が真上に

吹っ飛んでいくのが分かった



それは、『百点満点の砲撃』の成果だった



それは、どんなに厳しい軍事教官でも、

大砲の専門家でも、100点以外の点数を

付けることが出来ないものだった



「えっ、えっ、やったの??


 美月姉妹ちゃんと....

 阿呆ジジイと阿呆ヨッシーが、アレを...」



唐突の光景に、頭の理解が追い付かない


しかし、『ボフォース57ミリ砲』は、

実に数十メートルもの高さにまで

舞い上がっていた



ボオオオオンッ、ズドオオンッ!!!!



第二波の大爆発が起きて、ようやく

島の人間は理解した



”自分たちは勝利したのだと”




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