最終決戦~太平洋のハワイ
その島は、かつては観光地として栄えていた。
太平洋に面した長く美しい砂浜を持ち、
本土からは近く、
東西の大都市圏からのアクセスも比較的容易。
さらに、豊富な海の幸と親切な島民が
観光客を出迎える。
いつの間にか、島は
『太平洋のハワイ』
と呼ばれるようになった。
まさに、本物のハワイと比較されるレベル....
調子に乗った自治体が、”ゆるキャラ”や、
変にモダンな
”ワクワクポート”を作ったりした。
それでも、島は本土からの観光客によって
長い間、潤っていたのだ。
故に、ゾンビパンデミックが起きてから、
島民は積極的に本土からの避難者を助けていた
(それでも、あの時はもう、
どうしようもなかった....
物理的に人間の数を減らす事でしか、
島が生き延びる手段は無かったんだ)
ヨッシーは、目の前に立つリナとリサの
姿を見て思った
(でも、今はあの時とは違う!
どうしようもない絶望とは言えない
この試練を乗り越えたなら、
島は再び”太平洋のハワイ”として
復活することだろう)
すると、
スミレが再び、浮桟橋からつぎはぎ丸に
飛び乗ってきたのだった
「ちょっ、またかよ!!」
ジジイとヨッシーとリナとリサは、
息を飲んで横一列に並んでしまった。
ヤングジジイとマッシュルーム眼鏡は、
シレっと4人から距離を置いている
スミレは、まるで新兵のように
横一列に並ぶ4人の前に来た。
リナは固く目をつぶって言った
「そんじゃあスミレ、
私らに思いっきりビンタしていいよ!!
土壇場で、チームチャーリーからあんたを
外してしまったからね。
その怒り、甘んじて受ける!!!」
リサも言う
「ごめんねスミレちゃん...
さっきヨッシーも言った通り、
キミだけは確実に生き延びないとダメなんだ。
だから、キミは連れていけない....
さあ、私らにも強烈なビンタを!!」
しかし、スミレは、
さすがに姉貴分であるリナとリサには
ビンタはしなかった。
その代わり....
「やっぱりジジイの馬鹿あぁ!!」
バチィインッ!!!
再び強烈なビンタがジジイを襲う
「やっぱりにぃの馬鹿あぁ!!」
バチィインッ!!!
結局、左右の頬ともぶっ叩かれたヨッシーは、
涙目になって言ったのだった
「ぐぶぶ...俺はキリストかっつの!!!!」
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その頃、
ムケチン・チームの居るワクワクポートから
14キロほど離れた『島』では....
『太平洋のハワイへようこそ』
ボロボロになった看板を掲げた『港広場』には、
大量の物資が集積されていた。
ここは、周囲に多くの平屋群が立ち並び、
かつては観光客のためのお土産屋や食堂が
軒を並べていた場所だ。
港広場に集積されているのは、
”食料”に”燃料のドラム缶”、
造船所から取り外した”工作機械”などだ。
と、1人の老婆が、
大きな籠を背負ってやってきた。
籠の中に入っているのは、畑で採れた野菜類
「おらっクソババア、とっとと歩けよ!
俺はノロマが大嫌いなんだよ!!
むかつくぜ、マジで撃ち殺すぞオウ」
”海賊の頭”が、母国語で悪態をつきながら
腰の革製ホルスターから拳銃を取り出す
6インチ銃身の『コルトパイソン』だ
シルバーに輝く長銃身リボルバーを見た老婆は、
慌てて動いた。
しかし、そのおかげでコケてしまった
背中の籠から散乱する野菜類....
「クッソが、俺を舐めやがって」
左右に分けたロン毛にサングラスの頭は、
額に青筋を作ってキレた。
老婆の後ろには、数人がかりで発電機を
持ってきた男たちが控えている。
その男たちも、全員が老人だ
彼らは、発電機を地面に下ろすと、
全員が土下座した。
「クソが、なんで年寄りばっかなんだよ!!
若い女はどこに隠れてやがる!!」
かねてからの怒りが爆発した頭は、
倒れた老婆の後頭部に拳銃を突き付けた。
土下座した男たちは、
日本語で何やら喚きながら
地面に頭を擦り付けていた
....本当に惨めな光景だ
すると、
頭の側に居た”金髪&タンクトップ”が言った
「頭、ついに今日、山狩りをするんでしょう?
どうせ、隠れている若い連中を捕まえるんだ!
なら、こんな年寄りどもは要らないっすよね」
そして、まるで頭に触発されたかのように、
ホルスターから『ブローニングハイパワー』を
取り出した
老婆にリボルバーをつきつけながら頭は答えた
「ああ、”クライアント”の要求は
労働力だからな。
働けない老人どもは要らないはずだ」
しかし、頭はリボルバーを腰のホルスターに
仕舞った
「まあ、今はこいつらも労働力だ...
まだ殺すのはよせ」
老婆は、必死に散乱した野菜を集めている
土下座した男たちは、
感謝の念を述べているっぽい
頭は、金髪&タンクトップに向けて
ニヤリと笑った
「人間の死に方で、
一番苦しいのって何か知ってるか?
それはな、
”生きたまま焼き殺される”ことだ
若い連中を捕らえたら、
ここの老人どもを家の中に押し込めてよ、
火を放ってやろうぜ!
若いのを隠して、俺たちを騙した罰だ」
金髪&タンクトップは楽しそうに笑った
「ヒヒヒ、いいっすねえ~
奴らが逃げられないように、
俺が足を撃ち抜いて
動けないようにしてやるぜ!!
生きたまま火に焼かれて
じっくりと苦しんで死ねや、日本鬼子が」
しばらく後....
頭と金髪の元に、海賊の1人が駆け寄ってきた
AK-47を背負ったまま、
海賊は息を切らして言った
「頭あああ、いい知らせだぜ!!!!
チャオ隊が、なんと、残党の船を一隻、
拿捕したってよ。
昨夜、体当たりしてきた例の船とは、
違う船だ!!」
海賊は、興奮して続ける
「スゲーぜ、今朝、あの廃墟の港に
のこのこと現れてよ、簡単に捕まったって。
そんで、そんで、
その船には”若い女”が2人乗ってて.....
男も乗ってたらしいが、それは始末したって。
ハア、ハア、今から、今からチャオ隊の船が
こちらに戻って来る。
捕まえた女2人を、
すぐに持って来るってよ!!」
思わぬ吉報に、頭と金髪は歓声を上げた