最終決戦~ビンタ
ウメさんやむけぞうほどの強者になると、
自分と同じ強者を見抜く目を持つものなのだ
それは、ヨッシーの”ニーチェ的超人モード”
つまり、危機の最中に思考が明敏になり
判断力が高まるという能力。
さらに、祖父であるジジイとは阿吽の呼吸で、
『つぎはぎ丸』の操船にも慣れている。
となると、合理的に考えても
ヨッシーの参加を拒む理由が見つからない...
何よりも、ヨッシー自身の”不動の決意”と
そして、今の彼が身に纏っている不思議な霊力
ウメさんが言った
「結局これは、外野の私達では
どうすることもできない運命の力なのかもね。
分かったわ、いってらっしゃい」
むけぞうが言った
「ああ、かつて無茶ばかりしてきた自分が、
ヨッシー君に対してはそれを止めろって...
まあ、無理な話だ。
これからは俺は、君たちの活躍を見守って
影ながら祈っているしかないのさ」
他の子供たちや犬たちも、同じ気持ちみたいだ
しかし、スミレだけは違った
こすからい鋭い目に、長い黒髪を無造作に
後ろで結び、可愛らしいトレーナーと
尻の部分が裂けたダメージドデニムの
ショートパンツ姿
ジジイの孫であり、ヨッシーの妹だ
そのスミレは、浮桟橋からつぎはぎ丸に
飛び移った。
そして、ジジイとヨッシーの前に立つ
「.........」
2人をキッと睨みつける鋭い目、ふいに
そこから次々とこぼれる大粒の涙.....そして
「ジジイの馬鹿ああぁぁ!!!!」
バチィインッ!!!
なんとスミレは、自分よりも
はるかに高い場所にあるジジイの頬を
ひっぱたいたのだ
「にぃの馬鹿ああぁぁ!!!!」
バチィインッ!!!
次に、やはり自分よりも
高い場所にあるヨッシーの頬をひっぱたく
「うわあああああ」「ちょ、落ち着いて!!」
あまりにも強烈なビンタだったため、
ヤングジジイとマッシュルーム眼鏡は
ビビッて身を屈めた。
浮桟橋に居る3馬鹿少年たちとプリンスも、
驚いて腰を抜かした。
「キュイィンッ、キュイーン」
犬太郎と犬次郎も、尻尾を巻いて逃げ出した
スミレのビンタはあまりにも強烈だった。
しかし、同時にジジイとヨッシーの感触を
なんとかして手に刻みつけているような
悲しさもあった
さて、ビンタをかまされたヨッシーとジジイは、
勢いによって顔を横に向けたまま
しばらく沈黙していた。
そして、2人とも
全く同じ表情でニヤリと笑ったのだった
ジジイが言った
「ハア....お前の涙を見ちまったから....
叩かれた痛みよりも、
心の痛みのほうが大きいぜ
すまねえなスミレ、許してくれ....」
ヨッシーが言った
「もしも、俺達が2人ともヤラレちまったら、
母さんが独りぼっちになっちまうだろ。
だからスミレ、お前はヤングジジイに託す。
皆と一緒に生き延びてくれ....
にしても、クソ痛かったぜ!!」
スミレの頬を次々と伝い流れ落ちる涙....
「分かってるけど、分かってるよ!!!
いくらリバーサイド同盟の人たちが
協力してくれるとしても、
最後は自分達でケリをつけないといけない。
それは分かってんだけどさ、
やっぱり、2人ともバカヤローだってば!!」
スミレは、結構メチャクチャな事を言いながら
クルリと背を向けた。
そして、つぎはぎ丸から浮桟橋に戻る
包容力のある体型をしたユッキーが、
そんなスミレを抱きしめた
ユッキーは、スミレの頭をナデナデしながら
言った
「大丈夫だってスミレちゃん!
今から行う作戦も、決して
生きて戻れないって程じゃあないんでしょ?
むしろ、本来の計画よりも
危険が少なくなったって話だし!!」
つぎはぎ丸から、マッシュルーム眼鏡が言った
「そうだ、我々はここで
海賊船を手に入れたことで、
とても有利に攻撃を行えるようになった。
スミレちゃん、君は小島さんとヨッシー君に
再会するだろう。
そして、2人に強烈なビンタを
かましてしまった事に
気まずい思いをすることになるだろう」
ウメさんとむけぞうは黙っている
すると、ついにリナとリサの双子姉妹が動いた
フワリとしたセミロングの髪に切れ長の目、
水色のシャツと青色のジーンズと
革のミドルブーツを着けたリナ
フワリとしたショートボブの髪に
パッチリとした目、
白のロングTシャツと黒のレギンスと
革のショートブーツを着けたリサ
2人は、まるでスミレと入れ替わるように、
浮桟橋からつぎはぎ丸に飛び乗った。
そして、2人してジジイとヨッシーの前に立つ
「おいおい、また俺らビンタされるのかよ!!」
スミレの時と同じく、やはり2人に強く睨まれ、
ヨッシーは悲鳴をあげた。
ジジイですら、少し眉をひそめて身構えている
しかし、リナが言った
「いや、どちらかというと
私とリサは”ビンタされるほう”かも!
ねえ、ヨッシー、ジジイ、私ら2人も
一緒に行くからね!!!」
唐突の宣言に、皆が目を丸くする
間髪入れずに、リサが後を継いで言った
「うん、私とお姉ちゃん....
つまり、都会派が参加しないとダメだって
思うの!
もう、いい加減に都会派と田舎派の
いがみ合いは終わらせないといけないわ
だから、私らが参加することに意義がある。
いや、絶対に参加しないといけない!!」
再び、リナがまくしたてた
「うん、私らの水泳能力は実証したでしょ?
絶対に、ヨッシーと同じくらいに
役に立つって!
ジジイと同じく海賊船に乗って、
島の海賊共の目を欺くのよ!
私とリサを、いわゆる”戦利品”って感じで
海賊共に見せびらかして、
連中の気を引き付ける。
そして、いよいよ攻撃って時には、
2人して海に飛び込むから!
今まで、私らの水泳能力は実証したでしょ。
だから余裕だって!!」
ヨッシーは、結構いい考えだと思っていた
「そ、そうだよな。
海賊共の目を欺くにおいて
”戦利品”はとても説得力がある....
ジジイの海賊船に、俺のつぎはぎ丸が
けん引される形になるんだ。
つまり、海賊船がつぎはぎ丸を拿捕したって
体を演出するんだろ?
その時に、若い女子を2人とっ捕まえた
となると、海賊共は大喜びだ。
間違いなく、気を緩ませることだろう」
ヨッシーの言葉を継いだのは、
マッシュルーム眼鏡だった
「ああ、僕もいい考えだと思うよ...
それに、別の点でも指摘しておきたいが、
小島さんとヨッシー君は、
攻撃が成功した後のことも考えておくべきだ
場合によっては、天才水泳姉妹の能力が
必要になってくるかも」
すると、ジジイが言った
「リナとリサは、
直接、攻撃に参加することはないんだな?
絶対に、攻撃時には
船を離脱しているってのが条件だぞ」
2人は力強く頷いた
すると、ユッキーに抱かれたままのスミレが
顔を上げて言った
「ちょっと、リナねぇとリサねぇ....
ジジイもにぃも何を同意してるの?」
しかし、”島組”の連中は皆、
心の中で理解していた。
この戦いは、外敵を排除するのと同時に、
都会派と田舎派が融合する機会でもあるのだ。
だとすれば、
都会派の筆頭格である双子姉妹が、
最後の戦いに赴くのは当然の理に思える....
ジジイが言った
「いいかスミレ......リナとリサは、
もはや島の未来の事を考えてくれている
個人的な感情を押し込んででも、
そうしてくれているんだ。
だから、俺は、2人の参加を拒むわけには
いかねえんだ」
スミレは、ユッキーの元を離れると、
再び浮桟橋からつぎはぎ丸に飛び乗った。
皆は、ビビって身構えたのだった