最終決戦~準備
時刻はすでに午前7時を過ぎている。
今、ワクワクポートには
実に4隻もの船が集結していた
海に突き出た浮桟橋に接岸されているのは、
『海賊船』『つぎはぎ丸』
『おとこ丸』『モーターボート』だ
そして、ヨッシーは、
ジジイとヤングジジイとともに『つぎはぎ丸』
に居た。
「ふう、ありったけのロープを使って
縛ってみたが、これが限界だな」
今、つぎはぎ丸の船首には、ロープで
ギチギチに固定された”120ミリ艦載砲”が
鎮座している。
その様は異様だった
2つの台座に載った全長5メートル近い大砲が、
ロープでぐるぐる巻きにされて
船に固定されている。
さらに、大砲の尾栓部分は仮眠室に
めり込んでいた。
操舵室のあるブリッジから前方に突き出た
例の、低い出っ張り部分である。
このようにして仮眠室の壁を潰しても、
船の舳先と砲口には、
せいぜい1.5メートル程度しかスペースが無い。
これでは、前装式の大砲に弾込めをするのが
とても大変そうに見えるが.....
すると、操舵室からマッシュルーム眼鏡が
出てきた。
「こちらは、砲弾の動作チェックは終了した。
....さてと、大砲の固定も終えたみたいだね」
長身に禿頭に白い髭のジジイが、
ニンマリと笑みを浮かべて言った
「さて、技術者君よ、
遠慮なく、キミの所見を述べたまえ」
マッシュルーム眼鏡は、
甲板に鎮座する大砲を眺めて言った
「ふ、ふむ、よく固定はされてると思うけど。
まあ、問題があるとすれば....そうだな
この大砲は前装式で使うんで、
船首のスペース的に次弾を装填するのが
大変そうだね。
まあ、当初は
スペースに余裕のある大型漁船に
搭載するつもりだったし、
それはしょうがないけども。
でもそれ以前に、この船は”木製”だ....
第一弾を発射したら多分、
砲口からの発射炎で船首が損傷するだろう。
さらに、固定されているとはいえ、
しょせんロープだし、
ロープを結び付けているクリートの土台も
結局、木製で.....
つまり、要するに....
どうしても固定が脆弱だから、
発射時の反動で大砲が動いて、
そのケツが操舵室を突き破る可能性がある」
しかし、ヨッシーはニヤリと笑った
「もちろん、そんなん
俺たちも分かっていますよ、マッシュさん!
”彼女”をぶっ放したら、もう、
この『つぎはぎ丸』はぶっ壊れてしまいます
つまりは、”初弾”で勝負を決めないと
いけないってわけでしょう?」
ジジイも相槌を打つ
「ああ、初弾を外してしまったら、
もう、のんびりと次弾を
装填している暇なんてどの道ないだろうぜ!
相手は、ボフォース57ミリ砲なんだ」
そして、ライオンのようなフサフサの黒髪に
白い髭のヤングジジイも言った
「つぎはぎ丸が壊れてしまっても、
また作ればいいだけだ。
でも、この絶好のチャンスはもう二度と
作り出すことはできんのだよ、
俺のチャンネル・パートナーよ!!」
つまりは、実質的にこの大砲を使用する機会は
ただの一度きりという事になる....
マッシュルーム眼鏡は、心の中でヤレヤレ風に
思った
(さすが、板子一枚下は地獄の世界で
生きる連中だ。
絶好のチャンスを逃さぬ為に、
命を張ることに躊躇がないな)
それに、マッシュルーム眼鏡の目には、
不思議な物が映っていたのだった
なんと、ヨッシーの隣に
”謎の金髪美女”が佇む幻影が見えていたのだ
....あまり寝ていないので、
多分疲れているのだろう
しかし、今のヨッシー少年は、
不思議な霊力を纏っているように感じる
マッシュルーム眼鏡も、
賭けに乗る気になっていた
「あ、ああ、当然、初弾は発射できるだろう!
それに、リモート信管の”遠隔操作装置”は
僕がこの手で作ったものだ。
動作の信頼性は任せてくれ。
こう見えても僕は、この分野では
最先端の企業でチーフエンジニアを
任されていたんだ。
さらに、君達のような勇者が
扱ってくれるなら...
うん、絶対に上手く行くよ!!!!」
すると、ふいにウメさんの声が言った
「ハア....いや、分かってはいるんだけど
ヨッシー君なら絶対に
やり遂げてくれるって信じられるのは、
皆と同じだけれども...」
いつの間にか、他の全員が集結して
浮桟橋から『つぎはぎ丸』を見ていた
ウメさんに、むけぞう、リナとリサ、スミレ、
5人の子供たち、さらに2匹の犬....
彼らを代表するようにウメさんが言う
「でも、一応は立場上...
って言うのもおかしいけど、
皆の心配を代表して言うわね
・・・・・・・・
ヨッシー君、キミはまだ、誰かに頼ったり
任せてもいい年齢なのよ。
それは全く恥じることではないし、
キミが大人になってから決断したことには
誰も文句は言わないけども」
すると、ヤングジジイが申し訳なさそうに
口を挟んだ
「すまねえな、ウメさん....
いや、本来なら俺がジジイと2人でヤルのが
筋だってのは、よーく分かってはいる
ああ、ヨッシーの代わりに
俺が出撃するべきなんだ!
ジジイも俺も、後先短い命を投げ出すことに
全く躊躇はねえんだから」
ヤングジジイのその言葉は真実だ
現に彼は、海賊共がこのワクワクポートを
占拠した時に、我が身の危険を顧みず
単身で偵察に戻った....
ウメさんは、ちょっとしどろもどろになった
「い、いえ、決して、あなたがヨッシー君の
代わりに危険を引き受けるべきだって
意味じゃあ....
.....いいえ、結局はそう言ってるのよね私」
すると、ジジイがウメさんに微笑んだ
「ふふっ、いいんです、
そのお気持ちは当然ですよ
本当に、俺はロクでもねえジジイだ
大切な孫に命を賭けさせるなんて
狂っていやがる!」
しかし、ジジイはヤレヤレ風に肩をすくめた
そして、隣に立つヨッシーのほうを見て言った
「でもね、こいつを見て下さいな」
全員が見つめるヨッシーの姿
それは、固定された大砲を背景に、
腰に両手を当てて”直立不動”
こすからい鋭い目で、
まっすぐにウメさんを見つめていた
「................」
その無言の圧力は、全員を圧倒するほどだ
しかも、まるで守護霊のように、
ヨッシーと同じ格好でこちらを睨みつける
”金髪美女”の幻影すら見える気がする
「...........」
警察の出動服に腰に軍刀と拳銃を差し、
白髪を後ろで結んだウメさんは、
ヨッシーの視線をしばらく受け止めていた
そして、ふいに笑顔になった
「分かった.....私の目の前に居るのは
15歳の少年じゃなく、
誰よりも強い戦士なんだね」
白装束に肩にサブマシンガンを背負い、
腰にハンティングナイフと拳銃を
差したむけぞうも同意した
「ああ、ムケチン作戦本部の十文字さんは
難色を示しているけど、
今のヨッシー君の姿を一目見たら
すぐに納得するだろうね、ふふふ
了解、それじゃあ、小島さんが『海賊船』で
ヨッシー君が『つぎはぎ丸』だね!
ムケチン作戦のプランBを続行だ!!!」
すると、ふいにヨッシーの妹のスミレが
動いたのだった