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タロサン11

ミカとタロは、かつては

マンションの地下にある『核シェルター』に

住んでいた。

しかし、今は2人ともマンションの屋上の

『ペントハウス』に住んでいる。


時刻は午後11時を過ぎている。

2人はベランダに居るのだが、

リビングの広い掃き出し窓から漏れる光と、

燦燦と降り注ぐ星明りのおかげで周囲は明るい


ミカは、隣に立つタロの横顔をじっと

見つめていた。

身長差があるので、少し見上げる恰好だ



(何度見ても、

 見飽きることのないイケメンだ)



彼の目元は清々しく、そのハンサムな横顔は

星空を見上げている。

すると、タロは、ミカの視線に気が付いた


微笑んで彼女を見下ろすと、

額にかかった前髪をサッと掻き上げて言った



「少し酔いが回ってきていい気分だ」



ミカは、急いで視線を反らすと言った



「あの、タロさんが飲んでるのって

 ゲータレードですよね...

 なんで酔っぱらうんですか?」



流れるような長く美しい黒髪に

眼鏡を掛けたミカ


彼女は、あわてて視線を周囲に彷徨わせていた


目の前には、ビッシリと

敷き詰められた暗いソーラーパネル.....


リバーサイド同盟との行き来に使う、

小型のケーブルカー.....


なんとなくそれらを眺めながら、

ミカは片手で眼鏡の縁を触っていた



(でも、ヨッシー君だって、なかなかの

 ナイスガイだよね


 うん....目つきは鋭いけど、

 決して人相が悪いわけじゃなく


 むしろ、その鋭い目で必死に未来を

 見つめているというか....

 そんなピュアで一生懸命な姿に

 心を打たれるというか....


でも、少し不器用なところもあって


 そう、かつてのタロさんと同じで、

 どことなく放っておけない感がある)



「....それに、妹のスミレちゃんや、

 リナちゃんやリサちゃんにも慕われてて

 

あのウメさんもゾッコンだし...


 多分、男に対してロクな

 思い出がないキララちゃんにも慕われてる

 

 あっ、もしかして、

 天性の”レディ・キラー”なのかも!!」



ミカの独り言を、タロが拾った



「例の少年のことかね?


 なんと、カナエに一発食らわせたんだろ?


 いや、スゲーよな。

 まさか、この世界にそんなことが出来る男が

 存在しようとは!


 まあ、そのおかげで、あの少年は

 カナエのハートもしっかりと掴んだとか」



いつの間にか

自分の想いを口に出していたミカは、

顔を真っ赤にしてしまったのだった....



////////////////////////////////////////



『タロサン・パーティー』の会場内には、

あまりにも素晴らしいテノールボイスが

鳴り響いていた


皆が見つめているのは、

ビーグル社からやってきた兵隊の一人...


オールバックの黒髪に顔の下半分を覆う髭、

そして、まるでビア樽のような体格の男だ



「Nessun dorma!

 Nessun dorma!

 Tu pure, o Principe♪」



日本では、『誰も寝てはならぬ』として

知られる、イタリアンオペラの一節


歌っているのは、

かつて”パバロッティの再来”と言われた

世界的オペラ歌手、

『ブルーノ・デル・ピッコロ』その人だった



「Ma il mio mistero è chiuso in me,

 il nome mio nessun saprà!」



ブルーノは、他のボーイズ達と同じく

武装した姿のままだ。


アーマー付きの戦闘服は脱いで

Tシャツ姿ではあるものの、

腰のホルスターにグロック17を差し、肩には

7.62ミリ口径のマークスマン・ライフルを

背負っている


しかし、今の彼はまさに”美の体現者”だった


原発職員たちは、

ふいに正体を現した世界的オペラ歌手の

奇跡のテノールボイスに酔いしれている



「Dilegua, o notte!


 Tramontate, stelle!

 Tramontate, stelle!

 All’alba vincerò!


 Vincerò!!!!♪

 

 Vincerò!!!!!!♪」



クライマックスの歌い上げが、皆の心に

突き刺さる


今、皆の目には、兵士ではなく、

白タイツを履いた”王子様”の姿が映っていた



パチパチパチパチパチ!!



会場を揺るがす万来の拍手と、

様々な言語で飛び交う賛辞



「Браво、Браво!!!!!!!」

(ブラボー、ブラボー!!)


「You look like Henry VIII」

(体格がヘンリー8世みたいだぜ)


「太好了!!!」

(とても素晴らしいわ!!)


「अद्भुत」

(素晴らしい)


「ブラボー、ブラボー、神をも魅了する男!!」



皆が感動に包まれる中、特に、

鉢植えの低木にぶら下がったタロサンの声は

涙ぐんでいた


ブルーノと同じく、朗々たるテノールボイスで

ミユビナマケモノが言う



「いや....本当に、いつ聞いても素晴らしい。

 ....俺の語彙では言い表せない程素晴らしい!


今度、俺の母校で開かれる学園祭に

 来てくれないか?

 前に、俺自身が舞台でオペラを披露して

 好評だったんだが、

 君がスペシャルゲストで来てくれたら...

 まさに、学園史に残る伝説となるであろう!!!

 

 ああ、滅びゆく世界を照らす光、ブルーノ。

 ああブルーノ、

 そんな君に、プレゼントがある」



なぜか、タロサンの側には

直立不動のグルカ傭兵が1人控えており、

彼は白い木箱を持っていた。



「Oh grazie」



ブルーノがその木箱を受け取って中を開けると


『高級シャンパン』『キャビアの缶詰』

『クラッカー』が入っていた


すかさず、メイシンが苦情を言う



「タロサン、”えこひいき”は

 いけないと思います!!」



長身に長い黒髪の美女であるメイシン、

そして、イギリスン・サムライのアタウルフ


タロサンは、こちらを睨みつける2人に言った



「まあまあ、君らは報酬として

 莫大なビーグル・ポイントを受け取るんだろ?

 それに、実は2人にもちゃんと

 プレゼントは持ってきたのさ!


 俺の故郷のコミュニティーが作った

 『ヤキタコ・フルーツケーキ』と、

 粉珈琲である『ヤキタ粉』だ」



アタウルフはフンっと鼻を鳴らして言った



「ふむ、まあ、あの

 ジャパニーズ・インスタント珈琲とケーキは

 やけに美味いからな...いいだろう」



タロサン・パーティーは夜遅くまで続いた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



やがて、原発では午前1時を過ぎた


そして、マンションでは午前5時過ぎ



鉢植えの低木にぶら下がったナマケモノと、

自室のベッドに寝ていたタロは、

同時に目を覚ましたのだった



「うおおー、まさかやり遂げるとは!!!」



マンションの屋上にあるペントハウスの自室


ベッドから飛び起きたタロは、明かりをつけて、

学生時代から使っている机に向かった


そして、机の引き出しから木箱を取り出す



「うむ、俺が彼らに協力する条件は確か、


 ”海賊のパソかスマホを手に入れる”


 ....だったな。

 信じられん、それをやり遂げたんだ!!!」



それは、相当に難しい条件であるはずだ


単純に、海賊船と撃ち合って沈めるだけでも

一苦労だ。

『ムケチン作戦』も、

それを目指していたはずだ


しかし、ムケチン・チームが海賊の情報端末を

入手したということは....



「どういう方法でか、

 海賊たちの船に乗り込んで制圧したのか?

 いや、スゲーなそれは....


 まあ、むけぞうとウメさんも

 参加しているから。

 それに、例の少年も只者ではないという話だ


 ともかく、本当に良くやってくれたぜ!!!」



椅子に座ったタロは、木箱を机の上に置いて

中を開けた


入っていたのは、

『ジャックダニエル』のプレミアムボトル


前に、”アメリカ第七艦隊”の最高司令官から

貰ったものだ。

それ以来、これは特別な日に飲むと決めていた


同封していたショットグラスにウイスキーを

注ぎ、タロは、震える手でグラスを掲げた


目に入るのは、

壁に張られた2人のオペラ歌手のポスター


『ルチアーノ・パバロッティ』と

『ブルーノ・デル・ピッコロ』だ



タロは言った



「リバーサイド同盟と島とムケチン作戦に。


 我らホルガーダンスク・クラブより捧ぐ」



しかし、同時にタロの頭の中に、

膨大なる”情報の奔流”が襲ってきた


タロは、急いで自分の分身を作成すると、

頭の中から、世界ザ・ワールドに向けて飛ばした



「一応、俺は人間なんだ。

 生体的なキャパシティーに無理のないように、

 情報を精査してくれたまえ」



そして、ショットグラスをグイっとあおった



「ゲホ、ゲホゲホッ!!!」



普段は全く酒を飲まないタロなのだ


 



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