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タロサン8

それから、ボーイズと生存者たちは

大忙しで働いた。


まずは、原発の敷地内を

安全にしなければならない。

防壁を2重にも3重にもするのは基本中の基本


幸運にも、原発内には

ユンボやブルドーザーなどの重機がいくつか

あった。


....かつて、ここを支配していた軍人たちは、

自前の装甲車両やトラックでやってきて、

それらで去っていった。

なので、原発や職員が所有していた車両は

残されていたのだ。


ただ、職員たちの逃亡を防ぐために

自家用車はタイヤや部品が外され、

重機も含めて

全てから燃料が抜かれていたのだが....



「俺がトレーラーで持ってきたから、燃料は

 たっぷりとある。

 足りない場合は、

 ビーグル社が持って来るだろう

 

 ひとまず君たちにやってもらいたいのは


 原発内から人型を排除して、

 防壁を修理すること。


 と言ってもまあ、今、原子炉建屋内の

 外周回廊に、千体を越える人型を

 閉じ込めている状態だがね。

 とりあえずは、

 外からの人型を侵入させてはならぬ。


 その次は、発電機を、俺が持ってきた物と

 切り替えるのだ!」



ナマケモノ姿の”タロサン”の指示によって、

今やビーグル社傘下になった原発は着々と

復興作戦を開始していた


・・・・・・・・・


さて、

ボーイズの面々は、人型に対処するために

外で作業をする職員たちの護衛をしている


ただ、メイシンだけがタロサンの護衛として

彼の側についていた。


2人が居るのは、

職員たちのレクリエーション室として

使われていた広い部屋の一角だ。

大勢がこの場所で生活していた痕跡が

あるのだが、部屋には誰も居なかった


タロサンは、相変わらずメイシンの背中に

しがみついている。

そのメイシンは、ご機嫌な感じでタロサンに

しゃべりかけていた



「この国の女性ってさ、中年に近づくほど

 ガタイが良くストロングになる傾向が

 あるよね!


 さっき、外壁補修の状況を見回ったとき、

 材料の丸太を楽々と担ぐオバサンを

 見たでしょ?」



タロサンは答えた



「ああ、今まで、原発を稼働させるのに

 職員だけでは数が足りないから、

 彼らの家族も作業を手伝っていたらしいね。


 組織を纏め上げ、支配者の軍人たちとも

 渡り合って、

自分たちの生活と身の安全を確保して....


 まあ、あのポルトノフ所長の手腕だろう」



と、いきなりメイシンが無言になった



「.........」



そして、タロサンは、背中から尻にかけて

誰かの手に触られる感触を覚えた


急いで振り向くと、


アッシュブロンドのカーリーヘアに、

白いワンピースの小さな後ろ姿が見える。


”5歳くらいの女の子”だ


その女の子は急いで走り、目の前の

角を曲がって姿を消した。


メイシンは職業柄、背後から忍び寄る気配に

気が付いていたのだった。

しかし、彼女はあえてゆっくりと振り向いて

笑顔を見せた


壁の角からニョキっと顔を出しているのは、

数人の子供たちだった。

その目はキラキラと輝き、タロサンのほうを

見つめている


そう、彼の姿は『ミユビナマケモノ』

そのものなのだ


タロサンとメイシンは思い出していた



(そういえば、小さな子供たちと

 タチアナという人物が、屋上に来ずに

 下に残っていると言っていたな)



メイシンは、笑顔のまま子供たちに言った



「ふふふ、ナマケモノが気になって

 仕方がないんでしょう?


 ほら、いらっしゃい、抱っこさせてあげる」



そして、子供たちに向けて手招きをした


先程逃げ出したアッシュブロンドの女の子を

はじめとして、数人の小さな子供たちが

集結してくる


長身に長い黒髪のメイシンは、子供たちを

見下ろした。

そして、背負ったタロサンを持ち上げた



「ふふ、毛がフサフサで体重も軽いし

 顔は笑ってるみたいだし、可愛いでしょう?」



タロサンも、「キュイーン」と

可愛い鳴き声を作って合わせた


アッシュブロンドの女の子に渡されるタロサン


長い腕と短い脚で、しっかりと幼女の身体に

しがみつく。


女の子は、キャッキャッと歓声を上げている。

他の子供たちも夢中でナマケモノの

毛をナデナデしていた


すると、たどたどしい英語で女性の声が言った



「すみません.....


子供たちの好奇心を抑えることが

出来ませんでした。


あの....私、タチアナ・ポルトノヴァと

 申します....


前は小学校の教師をしていまして....


今は子供たちに勉強を教えたり、面倒を

 見ております。


 この奥に小さな部屋があって、そこが

 臨時の学校になっています.....」



曲がり角から姿を現したのは、

栗色の髪をお下げにして、

眼鏡を掛けた”若い女性”だった。


いかにもな小学校の教師といった感じで、

茶色のカーディガンを羽織り、

花柄のロングスカートの姿だ


メイシンは言った



「ポルトノフ、ポルトノヴァ?

 もしかして、あの所長の娘さん?」



タチアナは頷いた



「はい、父は所長のユーリーです....


私たちの家族で生き残ったのは、

 父と末娘の私だけなのです....」



タロサンは、幼女にしがみつきながら

メイシンとタチアナの会話を聞いていた


”この世界では、誰もが何かを失っている”


家族が全員揃っている生存者なぞ珍しいのだ


そして、

タチアナが幼女の隣に来たタイミングを

見計らって、タロサンは行動を開始した



「あっ....」



タチアナは、眼鏡の奥にある空色の瞳を

大きく見開いた。


ナマケモノにしては俊敏な動作で、

彼女の身体に乗り移るタロサン


いかにも、”俺はただのナマケモノでっせ”

といった感じで、

悪気なくその身体にしがみつく



「あ、あのぉ....」



タチアナの身体を上へ上へと登るタロサン


子供たちは、


(多分、自分たちが触り過ぎてうざくなって

 逃げ出したのだろう)


と言った表情でナマケモノを見上げている


メイシンは、

小銃を背負った完全武装の姿のままで

身体に戦闘服を纏い、

硬い防御プレートを着けていたが、

タチアナは違う


どちらかというと痩せた体格だが、

その胸は割と豊満に見える


しかし、タチアナは、

自分の胸元にあるナマケモノの顔を

見下ろした。


顔の部分だけ白い毛で、目の周囲には

ハの字型の黒ぶちがある。

目は茶色くまん丸で、

口元は笑みを浮かべているように見える


とても可愛い外見だが、タチアナは言った



「父から聞きましたけど....

 あなたは、あの”タロサン”なんですよね?


 このお姿は、遠隔操作の端末でありながらも、

 しっかりと『触覚』や『嗅覚』さえも

 あるのだとか....すごいですね」



メイシンは、ジト目になって言った



「もうすでに、

 中身がおっさんなのがバレバレですやん!」





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