表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/231

タロサン7

『原子炉建屋』の屋上には、

グルカ傭兵6名と原発の生存者たちが

集結していた。


そこへ、2機のヘリがやってきて着陸した


ヘリの胴体には、デカデカと4色の

『ビーグル社』ロゴがペイントされている


ビーグル社・・・・それは、今だに全世界に

衛星インターネットを提供しており、

今やビーグルポイントによって

世界を動かしていると言われる組織だった。


ビーグル社ロゴを見た生存者たちの表情には、

隠しきれぬ安心感が満ちている


やがて、1機のヘリから降りてきたのは、

アタウルフとメイシンとブルーノだった。


3人は、今はヘルメットを脱いでおり、

プロテクター付きの戦闘服を身に纏い。

背中には小銃を背負っている。


さらに、メイシンの背中から、

”ミユビナマケモノ”の顔がニョキっと

出現して皆を驚かせた


ナマケモノは、生存者たちの母国語で問うた



「где директор?」



耳に心地よい朗々たるテノールボイスだ


80名近い生存者たちの集団から、1人の

おっさんが進み出た。

しかし、彼が何かを喋る前に、

ナマケモノは言った



「вы говорите по-

 английски?」



出てきたおっさんは、

禿げあがった白髪頭&眼鏡の小太りの外見だ。

そして、言語を英語にチェンジしてこう答えた



「はい、英語は話せます。


 ええと....皆さんと、

 こうして実際にお会いするのは

 はじめてですね。


 私の名は”ユーリー・ポルトノフ”

 この原発の所長をしております」



ナマケモノ...いや、タロサンは、同じく

言語を英語にチェンジして無礼な事を言った



「前から思っていたけど、君って、

 額に世界地図の無いゴルビーに似てるよね」



ポルトノフ所長は言った



「ええ、たまに言われます。

 それはそうと、

 あなたは”タロサン”なのですか?


 前にビデオ通話でお話しした時は、

 日本人のハンサムな男性だった気が

 するのですが?」



改めて皆が目にするのは、

黒髪の長髪美女の背中にしがみつくナマケモノ


人間の幼児くらいの大きさで、長い手に短い脚、

全身は茶色っぽい毛に覆われているが、

顔の部分だけ白く、

目の周りにはハの字型の黒ぶち、

口元に笑みを浮かべているように感じる


相変わらずメイシンの背中からニョキっと

顔だけを出したまま、タロサンは言った



「コレはね、ヘリやトレーラーと同じく

 単なる”端末”なんだ。


 しかし、他と違って最新鋭のテクノロジーを

 駆使して作られた高級機さ。


 なんと、『視覚』と『聴覚』だけでなく、

 『触覚』と『味覚』と『嗅覚』がある!


 さらに、これほど”小型”であること自体が、

 大変なテクノロジーなのさ」



そう言いつつ、タロさんはシレっとメイシンの

背中から移動した。

長い腕を彼女の首に回して、短い脚を

彼女の腹部に当てる


超スローな動作で、タロサンは

メイシンの胸に抱かれる格好となった


.....と言っても、メイシンの胸には

固いプロテクターが装着されているのだが



「さて、お察しの通り、

 私はビーグル社のタロサンだ。


 ユーリー、この原発の状況を説明して欲しい。

 まずは、生存者について」



メイシンは、タロサンを抱っこしたまま、

背中の柔らかい毛をナデナデしている


ポルトノフ所長は言った



「はい、この原発に残った生存者は

 総勢93名です。

 

 技術者が30名に、残りはその家族です


 小さな子供たちも居ますが、彼らは

 タチアナと一緒に制御室に残っております


 さらに、3名が排水パイプの点検の為に、

 タービン建屋の地下に行ったのですが....

 昨日の余震の影響で

閉じ込められてしまいました


 イワノフとセルゲイとミハイルです」



タロサンは言った



「....ふむ、タービン建屋に行った3名は、

 残念なことになってしまった」



そして、タロサンはグルカ傭兵たちに

指示を出した。


グルカ傭兵たちは、もう一機のヘリから

シートに包まれた3体の遺体を運び出した。

そして、それらを屋上に並べると

シートを開いた



「Боже мой!!!」



動揺する生存者たち.....


イワノフとセルゲイとミハイルは、

身体をズタズタに引き裂かれ、

かつ、頭部には銃創があった


3人の遺体を見て、

ひときわ動揺している生存者たちの一団がある。

その中から、ふいに若い男が飛び出して来た


革ジャンにジーンズの彼は、おそらくは

原発職員ではなかろう。

年齢も高校生くらいだ


彼は、他の生存者たちを掻き分け、

メイシン&タロサンのほうに向かってきた。

何やら叫び散らかしていて、

怒っているのが明白だ


すると、メイシンの隣に居たアタウルフが、

ズイっと前に進み出た。


そして、丸太のような片腕で、

その男をドンっと突き飛ばしたのだった



「успокойтесь ребята!!」



タロサンが大声で一喝する


ぶっ倒れた若い男を起すポルトノフ所長....


それらを睨みつけるアタウルフ....


メイシンとブルーノは、それぞれの

腰のホルスターに差した『グロック17』に

手を伸ばしている。

グルカ傭兵たちは、一瞬の動作で

9ミリサブマシンガンを構えていた


タロサンは、所長と若い男に向けて言った



「彼らの遺体をよく見たまえ、人型に

 襲われたのが明白であろう!!!


 いいかね、人型は”生きた人間”にしか

 興味を示さない。


 つまり、彼らは頭を撃ち抜かれる前に

 すでに、人型の攻撃で手遅れの状態に

 なっていたのだ!!!」



そして、ポルトノフ所長に向かって

厳しめの声で言った。

と言っても、口元には相変わらず締まりのない

笑みを浮かべたままだ



「ユーリー、君の責任で生存者たちを

 統率するのだ。

 

 まずは彼らに、私が言ったことを説明して

 落ち着かせたまえ!」



ポルトノフ所長は、母国語で

生存者たちに向けて説明をはじめた


生存者たちも落ち着きを取り戻し、

ヘイトを取り下げて

死者を悼む姿勢を見せたのだった



/////////////////////////////////////////



ボーイズ2によって、

制御室周辺の安全は確保されていた。


人型どもがあらかた駆逐され、地震によって

断線していた電動扉も手動で動かして

通路を塞いだ


今の所、原子炉建屋は

人型の侵入を許さない安全地帯となっている


ボーイズ1&タロサンは、『所長室』に居た


大きな机の前の立派な椅子には、

ポルトノフ所長ではなく、

『ミユビナマケモノ』が座っている


アタウルフとメイシンとブルーノは

ソファーに座ってくつろぎ、

ポルトノフ所長だけが立っていた



「ええ、ここを支配していたのは軍人たちです


 頭は、アレクサンドル・ズダボロフ少佐


 副官が、ヴァレリ・ラーゲリスキー大尉


 連中は、周囲のコミュニティーに法外な

 電気使用料を請求して、贅沢三昧な生活を

 送っておりました。


 .....私ども原発職員は、

 彼らに協力する見返りとして

 

必要な生活物資の供与と、身体の安全を

 約束させたのです」



ポルトノフ所長の言葉にタロサンは頷いた



「ふむ、まあ、仕方のない選択だったろう。

 それで、そいつら軍人連中はどこに行った?」



所長は答えた



「はい、この原発は

 ”冷戦時代”に建設されたこともあって、

 秘密のトンネルが存在していました。


 そのトンネルは丘を越えた道と繋がっていて、

 そこには人型の集団も無く、

 安全に他へと行けたのです。


 軍人たちは、その道を使って、

 他コミュニティーまで電気代の取り立てに

 行っておりました....


 大地震のあった日、

 彼らはこの原発を見限って、

 トンネルを通って去っていきました」



「それで、そのトンネルはどうなっている?」



「残念ながら、先日の余震によって

 崩れてしまいました」



タロサンは、

元々締まらない笑みを浮かべる口元を

さらにニヤリとさせて言った



「君の言う軍人たちの事だがね.....


 連中は、隣の都市のコミュニティーに

 向かったよ。

 そこで、実力行使で支配を試みたらしいが。

 

 その都市のコミュニティーは、法外な

 電気代に苦しみながらも、

 密かに着々と準備をしていたんだ。


 原発に頼らないように、

 風力と水力を使った発電所を作り、

 武装も整えていた。


 今、アレクサンドルとヴァレりは、

 市の広場に吊るされているよ」



ポルトノフ所長はニヤリと笑った



「ええ、ビーグルマップで私も

 確認していましたよ


 軍人たちの首尾が良くないことは

 見て取れましたが、結局あいつら、

 吊るされてしまったんですね!」



タロサンが言った



「あの都市のコミュニティーは、

 人型だけでなく、

 大地震にも軍人どもの侵攻にも負けなかった。


 これからは、

 君たちは彼らと仲良くするといい。

 俺も力を貸そう」



「ふふふ、実は

 あそこのコミュニティーの長は、

 私の友人なんです。

 なんとか関係を築いてみせます


 タロサン、あなたの協力も得られるならば

 心強いです」



タロサンとポルトノフ所長は同時に思っていた



(どの道、この原発が放射能漏れでもしたら、

 困るのは向こうなんだ。


 こことは、うまく付き合い続けるという

 選択肢しかない。

 まさに、負の遺産だぜ)


 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ