タロサン5
メイシンの体温でほんのりと暖まったソレを、
アタウルフは片手でキャッチした。
そして、もう片手で
せわしなくFNX-45を撃ちながら言った
「ほう、今どきリボルバーか?」
グロック17を撃ちながら、メイシンが応える
「これ、”自決用拳銃”なの。
あ、言い忘れたけど、357マグナムだから」
「ふむ、自決用ねえ....
しかもマグナムとは。
君って石頭なんだな!」
メイシンは、イギリスン・ジョークで返した
「いえ、”あなた用”に渡したつもり」
2人の後ろでは、タロサンから
『人が成し得る美の到達点』
と言われたブルーノが、
ビア樽のような巨体を揺らして走って来る
そして、3人の頭上には、無人のヘリが居た
ヘリのカメラが捉えているのは、
地獄のような光景だ。
そして、ボーイズ1の会話もしっかりと
キャッチしていた
タロサンは思った
(自決用の拳銃を持って任務に
当たる隊員たち....
それに、俺が見捨てたあの生存者たち....
おそらく、原発を安全に停止させるために
何らかの作業をしていたんだろう。
ここに居る連中は、皆、いわば英雄だ
でも、今の俺には、
彼らの気持ちなんて分かりようがない
俺の能力はあまりにも他と隔絶していて、
彼らと違って
死の恐怖に怯えることもないからな)
そして言った
「ボーイズ1、なんとか持ちこたえてくれ!!
もう少しで、俺も電源車で到着する。
ボーイズ2,状況はどうか?」
ボーイズ2のグルカ傭兵たちが応答する
「こちらボーイズ2、倒した人型の数は
14体、もうすぐ制御室に到着する見込み。
ボーイズ1よ、幸運を祈っている!
余談だが、私は自決用は拳銃ではなく
手榴弾だ...以上」
乱戦状態になりながらも、
確実に人型をヘッドショットしていく2人
その背後では、タロサンから
『周囲の空気も含めて全てが恋をする男』
と言われたブルーノが、
ビア樽のような巨体を揺らして走って来る
しかし、アタウルフとメイシンの眼差しが、
よりいっそう鋭くなった
「来たわね...」
「ああ、ついに、こんな辺鄙な場所にも
出現するようになったのか」
ついに『新型』の姿を認めたのだ
「アル、雑魚どもは私がなんとかするから、
あなたはアレとサシで勝負なさい」
「ぐっ....タロサンよ、
報酬に”新型手当”を要求するからな!!」
メイシンとアタウルフは、覚悟を決めた
今はヘルメットを被っているが、
見事な黒髪の長髪を持ち、長身でガタイの良い
メイシン
同じくヘルメットを被っているが、
黄色の長髪をサムライ・チョンマゲにしている
アタウルフ
さらに、こちらに向かって走って来るブルーノ
ボーイズ1の3人の前には、群がる人型と、
その隙間を縫うようにして動く”新型”が居た
・・・・・・・・
水の綺麗な川があるなら、その水面に
小さな魚を見つけることがある。
時々、その魚が一瞬消えて、少し近くの場所に
現れることがある
....新型の動きはまさにそれだった
常に細かくブレているような動きなので、
ソレの詳細はハッキリと見ることができない。
しかし、誰もが共通して感じる印象は、ソレは
ほんのりと光り輝いているように見えるのだ
・・・・・・・・・
アタウルフは、自慢の『FNX-45』を構えた
「旧型と違って、動きが全然読めない!!」
バアァァンッ!!
バアァァンッ!!
それでも、卓越した戦士である彼の放った
11.5ミリ弾は、
見事に、新型の頭部に命中した....
....ように見えた
新型の身体のブレが大きくなる。
まるで狂っているかのようだ
それを見ている”生きた人間”も、
本当に狂いそうになる
グロック17で周囲の人型を撃ちながら、
メイシンが叫んだ
「落ち着いてアル!!
”両眼のど真ん中から3センチほど上”
そこに命中させるのよ!!
そしたら、もう復元することは無い!!」
頭部に穴を開けた新型は、
まるで怒っているか
もしくは狂っているかのように、
大きくブレている
アタウルフは、弾切れで
ホールドオープンしたFNX-45を投げ捨てた
即座に、戦闘服の胸ポケットに入れた
『スタームルガー LCR』を取り出す
それは、丸っこい小さな
ダブルアクションオンリーのリボルバーだ。
強力な357マグナム弾を装填しているが、
こんな短銃身の拳銃では精密な射撃は無理だ
....と、アタウルフは、新型に向かって
自分からダッシュしていった
これが、彼が人類最強クラスの戦士である所以
すると、新型も、
彼に向かって一直線に向かってきたのだ
ズバァンッ!
ズバァンッ!
メイシンの援護射撃によって、
アタウルフに取りつこうとする人型が排除される。
まるで、肉食獣のようなダッシュを見せる
アタウルフ
新型との距離はあとわずか....
彼には、一瞬、
今までブレブレだった新型の姿が
はっきりと見えた気がした
(なんてこった、
俺をしっかりと見つめていやがる!!)
そして、彼は唐突に地面を滑った
まるでサッカーのスライディングのように
地面を滑ったアタウルフは、
丸太のような腕を新型の脚に引っ掛けた
「お前の負けだあぁああ!!」
凄まじいバネで
後ろに半回転しながら起き上がるアタウルフと、
倒れようとする新型
イギリスン・サムライの手には、刀ではなく
357マグナムのリボルバーが握られている
ガァアンッ!!
ガァアンッ!!
鋭い銃声が鳴り響き、そこに立っていたのは
アタウルフだった
そして、唐突に叫んだ
「おーーい、ブルーノー、後ろ―後ろ―」
メイシンもハッと振り向いて叫んだ
「あーー、ブルーノーー、後ろーー後ろーー」
こちらに向かって走って来る、オペラ野郎....
そして、その背後に迫っているのは、
あまりにも巨大な”トレーラー”だった
パオオオオオオオオオオンッ
ラッパのようなクラクションが鳴り響き、
タロサンの怒声が皆のヘルメットに鳴り響いた
「Are you mother fu○ker is borne!!!」