タロサン4
壁の一部が崩壊したタービン建屋から、まるで
雲霞のごとく湧き出る”人型”。
それは、波のようにボーイズ1の3名に
群がっている。
しかし、人型どもと3名との間には、
約100mもの空白地帯があった。
ボーイズ1の卓越した射撃スキルが、未だに
それ以上の接近を許していないのだ。
ちなみに、タロサンの無人ヘリ2機も、
機銃掃射によって大きな役割を
果たしてくれた。
しかし、今は弾切れで上空を旋回している
ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ
アタウルフとメイシンとブルーノは、
それぞれのライフルをセミオートで
射撃している。
一発の銃声が聞こえるたびに、一体の人型が
倒れている。
今や、動いている人型よりも、
地面に伏している人型のほうが多い....
つまり、駆逐はかなり順調にいっていると
思われたのだが....
「Помоги мне!!!」
「Помоги мне быстро!!」
ふいに、”生きた人間”の大声が聞こえた
崩壊した外壁から少し離れた場所にある、
小さな金属製ドア
そのドアが開き、
3名の男が飛び出してきたのだ。
イギリスン・サムライのアタウルフが毒づいた
「生存者だ!!生存者だ!!
ちくしょう、なんで今飛び出してきた?
今はまだマズい、ちくしょう!!」
メイシンとブルーノの銃口も、
3名の生存者たちの方角へ向いた
「Помоги мне пожалуйста」
自分達が”生存者”であることを示すように、
母国語で大声を出しながらこちらに走ってくる。
メイシンが英語で叫んだ
「Fu○k,Super fu○k!!!
なんで待てなかったの??
早く走って、走るのよ!!!」
ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ
3名の生存者達に群がってくる人型....
あまりにも絶望的な光景だ
ボーイズ1の射撃によって、
群がる人型が次々と倒れていくが...それでも
タロサンの声が、皆のヘルメット内に響いた
「ボーイズ1、
100ヤードラインが突破されたぞ!!
いいか、原発職員たちには
じっと待機するように伝えている、
彼ら自身の責任だ!!
100ヤードラインの維持に戻れ!!」
タロサンは、冷酷にも生存者3名を切り捨てた。
同時に、ついに3名に人型どもが取りついた
「О Боже!!!!!」
ズタズタに引き裂かれる3名....
タロサン一行は、
ゾンビウイルスに対抗する手段は持っていた。
....しかし、ここまでやられるともう
助かる見込みはない....
アタウルフが、
モジュール式のアサルトライフルを構えながら
呟く
「許せ、今、楽にしてやる...」
ズダンッ
ズダンッ
ズダンッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気を持ち直す暇もなく、ついに人型の波は
100メートルラインを突破していた。
「装填!」
弾倉を変えて撃ち続けるボーイズ1
銃を撃ちながらアタウルフが言った
「接近されたが、人型どもの波も山を越えたぜ、
あともう少しだ!
ブルーノ、集積場から弾倉を
持って来るんだ。
メイシンは俺と一緒に踏ん張れ!」
ビア樽のような体型のブルーノは
クルリと振り向いた。
そして、
30メートル程後方にある”集積場”に向かう。
そこは、ヘリが着陸した場所で、
補充用の弾薬類が降ろしてあった
「ちっ、50ヤードを突破されたぞ!!」
ついに50メートル以内に迫った人型の群れ
3名の生存者達の出現によって失われた時間は
大きかった。
アタウルフは、
アサルトライフルを肩に背負うと、
腰のホルスターから拳銃を取り出した
『FNX-45 Tac』
黄褐色ツートンカラーのカッコいい大型拳銃だ。
11.5ミリの『45ACP弾』を15発も装填できる。
普通なら、
45口径の巨大な銃口を向けられたら
その時点で戦意が喪失してしまいそうだが....
やはり、人型は普通じゃなかった
構わず突っ込んでくる
バァアアンッ!!
バァアアンッ!!
まるで大砲のような銃声と共に、
ヘビーな45ACPが人型どもの頭部に穴を穿つ
アタウルフの横では、メイシンでさえも
腰のホルスターから
『グロック17』を取り出していた
すると、頭上を旋回していたヘリが異変を
察知した。
タロサンの声が告げる
「ボーイズ1,悪い知らせだ。
”新型”と思われる個体を察知した!
タービン建屋の崩れた壁から現れて、
そちらに向かっている。
もう、そちらに群がっている人型の数も
残り少ない、なんとか対処して欲しい。
気を付けろ、あっという間に来るぞ!!」
グロック17を撃ちながら、
メイシンが悪態をつく
「Super Fu○k too!!
悪い事は積み重なるものね!
了解、もう、筋肉で解決するわ」
アタウルフは余裕がないみたいだ。
ちらりと振り向くと、
ビア樽のような巨体を揺らしながら
走って来る、オペラ野郎
メイシンは、懐からサッと一丁のリボルバーを
取り出した。
それは、丸っこい可愛らしいリボルバーで、
ハンマー内蔵のダブルアクションオンリー
『スタームルガー LCR』
メイシンは、アタウルフに言った
「アル、受け取って!!
装弾数5発、ダブルアクションオンリー!!」
そして、アタウルフに向かって、
そのリボルバーを投げた。
それは、バックアップウェポンというよりは
むしろ、彼女の”自決用拳銃”だった