表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/231

タロサン3

さっきから悪態ばかりついていたアタウルフと、

さっきから泣き言ばかり言っていたメイシン


今や二人は、黙々と

5.56ミリ弾使用のアサルトライフルを

撃ち続けている。



ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ



迫って来る人型との距離は約100mほどだが、

1発の銃声が響くたびに

1体の人型が倒れている。


これが、どれほど凄い事か分かるだろうか?


リバーサイド同盟や、他の武装組織であっても、

基本的に人型との交戦距離は50メートル以内が

ほとんどだ。

例え、射程が長いライフルを使ったとしても、

それ以上の距離だと”ヘッドショット”が

難しいからだ。


....相手が生きた人間であれば、

とりあえず身体のどこかにでも当てれば、

即死はせずとも戦闘不能にできる。

しかし、人型は頭部に当てなければ意味がない。

そして、ただでさえ小さな標的である頭部が、

常に動き続けているのだ....



(多分、彼らは人類最強クラスの戦士だろうな)



カメラ越しに戦闘の光景を観ながら、

タロサンは思った



「こちらボーイズ2、

 今より原子炉建屋の屋上に着陸する。

 今の所、人型の姿は見当たらず

 とても静かだ。


 ボーイズ1よ、健闘を祈っている!」



グルカ傭兵たちからの通信が来た


彼らだって、

常識では考えられない程の強者どもだった


比較的小柄な体格の、ヒマラヤ山岳民族たち


全員が、室内戦闘用として9ミリ弾使用の

小ぶりなサブマシンガンを装備しており、

何よりもトレードマークであるクックリ刀を

腰にぶら下げている。


グルカ傭兵の6名全員が、その刀で

人型の首を一撃で撥ね飛ばすほどの力量を

有しているのだ。


アタウルフにメイシン、そしてグルカ傭兵たち


彼らは、

ゾンビパンデミック以前から”強者”だった


しかし、ブルーノだけは違う


今はバイザー付きのヘルメットを被っているが、

オールバックの黒髪に、顔の下半分を覆う髭、

さらにビア樽のような体格。


他の2名と違って、モジュール式の小銃を、

7.62ミリ弾使用のマークスマン・モデルに

している


そして、ついにブルーノは、

長銃身でヘビーバレルのライフルを構えて

スコープを覗いた


....同時に



「Che bella cosa na jurnata 'e sole,

 n'aria serena doppo na tempesta♪」



ふいに、タロサンをも凌駕する

朗々たるテノールボイスが、

周囲の空気を震わせた


それは、まさに”神をも魅了する歌声”だ



「Ma n'atu sole,

 cchiù bello, oje ne'♪


 'o sole mio,

  

 sta nfronte a te!♪」



その通り、何を隠そう!


彼こそは、

あの、『ブルーノ・デル・ピッコロ』なのだ!


繰り返す、

彼こそは、パバロッティの再来と言われた

世界的オペラ歌手、

”ブルーノ・デル・ピッコロ”だ。


周囲の空気でさえ、彼の歌声に恋をしたようだ


上空のヘリのローター音と銃声、それらの

雑音がかき消され、奇跡のテノールボイスは

原発の隅々にまで運ばれた


タロサンは、いつもの癖で独り言を呟いていた



「彼を見ていると、いつも

 ちんかわむけぞうのことが思い出される。

 

 そう、2人とも、かつて暴力や武器とは

 全く無縁の世界に居た人物だった。

 

 それが、悲劇の果ての末、

 自らの内に眠っていた能力を

 目覚めさせたのだ!」



ブルーノは、アタウルフやメイシンが

攻撃している最前列の人型ではなく、

もっと奥の遠い人型を狙い撃っていた



ズドオォンッ


ズドオォンッ



撃っている”7.62ミリNATO弾”は、

とても強力で長射程のライフル弾だ。


まあ、大型獣用のハンティングライフルや

対物ライフルなどの例外を除けば、

個人で携行できて扱える”小銃”という

カテゴリー内では、最大最強クラスの弾だった


その代わりに、とても反動が強く

撃つ人間の負担が大きい


しかし、ブルーノのビア樽のような巨体は、

強烈な反動をも易々と受け止める。

その様はまるで、

固定砲台のような安定感があった


さらに他の2人と同じく、1発の銃声につき

1体の人型が倒れているのだ



「むけぞうは完全に近距離特化型だが、

 ブルーノはその逆で、遠距離特化型だな」



ブツブツと独り言を呟くタロサンに、ついに

アタウルフが突っ込んだ。

ちなみに、各々のヘルメットには、通信機が

標準で装備されている。


AI機能によって、歌声や息遣いよりも重要だと

判断された通常音声が、優先送信される


アタウルフの声が、

全員のヘルメット内に鳴り響いた



「タロサン、タロサン、

 何を日本語でブツブツ言っている?

 オペラ野郎の歌声を

 賛美でもしているのかね?

 

 残念ながら、俺には、『バ○ルランナー』の

 ダ○ナモにしか見えん


 それはさておき、見ての通りだ。

 想定よりもはるかに多い人型集団に、

 こちらは飲み込まれそうだ。

 

 焼け石に水だと思うが、ヘリの機銃掃射で

 援護してくれ!

 ボーイズ2を降ろしたヘリも加わるんだ」



タロサンは、ハッと我に返って英語に戻った



「ラジャ、2機のヘリで機銃掃射を開始する」



ババババババッ


ババババババッ



今は無人機となった2機のヘリが、

ボーイズ1の背後の上空をホバリングする


ヘリの機首からは、7.62ミリ機銃の銃身が

ニョキっと伸びている



ズダダダダダンッ、ズダダダダンッ



ボーイズ1の3名程ではないが、こちらも

割と正確な射撃だった。


弾が命中した内の、

頭部を撃ち抜かれた人型どもが次々と倒れる



「'O sole mio♪


 Sta 'nfronte a te


 'O sole, 'o sole mio♪

 

 Sta 'nfronte a te!

 Sta 'nfronte a te!」



悲惨な光景とは裏腹に、周囲に響き渡る

神テノール....



「こちらボーイズ2、


 屋上にある塔屋のドアを開けて、

 中の階段から突入を開始する


 3....2....1....let's go!!!」



原発奪還作戦は、順調にいっているようだ




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ