タロサン1
そこは、大陸奥地のとある原発。
褐色の荒涼とした大地にまばらな緑色、
乾燥した空気のおかげでどこまでも青い空....
典型的な大陸性気候の光景だ
その突き抜けるような青空に、ポツンと
二つの粒が見えた。
ババババババババッ
それは、スッキリとしたデザインの小型ヘリだ
胴体には、4色の『ビーグル社』ロゴが
ペイントされている
「こちらボーイズ1、原発が見えたぜ」
「こちらボーイズ2,同じく原発を視認」
ビーグル社・保安部門の隊員たちに応えたのは、
”タロサン”の声だった。
「で、あるか!!」
.....しばしの沈黙の後、
ボーイズ1のアタウルフが言った
「....タロサン、原発の周囲には
チャチなバリケードがあるが、
人型の姿は見えねぇぜ」
再び、耳に心地よい朗々たるテノールボイスが
応える
「で、あるか!!
ボーイズ1とボーイズ2,共に原発の上空を
旋回せよ!!
まずは現状を詳しく確認したい」
さて、ヘリの機首部分には、
様々な計測器やカメラが取り付けられており、
さらに下部から正面に向かってニョキっと
7.62ミリ機関銃の銃身が伸びている
そして、コックピットの操作系は非常に
シンプルだった。
まるで、ゲーム機のコントローラーのような
ジョイスティックと、いくつかのペダル類や
スイッチがあるだけなのだ。
この、ビーグル社製ヘリは高度に
自動化されていて、AI操縦はもちろんのこと、
マニュアル操縦でも
誰もが操作できるように造られているのだ
「チャチなバリケードが一部倒壊しているな。
この前の地震のせいだろう....
にしても、信じられないほどチャチだ
この原発を支配していた連中、
よほど奢り高ぶっていたんだろうぜ」
コックピット席でヘリを操縦しているのは、
イギリス軍の元大尉で元SAS所属の
”アタウルフ”
ニッポノサムライのように、
黄色い長髪をチョンマゲのようにして結び、
無精ひげを生やしている
「ま、例に漏れず、
他コミュニティーに電気代として
莫大な対価を要求していたんでしょう?
それで、怠惰で贅沢三昧な生活を
送っていたんでしょうね」
隣に座っているのが、香港出身の”メイシン”
長身で肩幅が広いのだが、
青みかかった黒髪の見事な長髪を持つ、
妖艶な感じの美女だ
「・・・・・」
後部席にどっしりと座っているのは、
まるでビア樽のような体型の男だった。
オールバックの黒髪と、
顔の下半分を覆うフルフェイス髭
無言で含み笑いを浮かべるビア樽男、
”ブルーノ”
この3名がボーイズ1だ
そして、ボーイズ2は6名で、
全員が『グルカ傭兵』だった
・・・・・・・・・・・
2機のヘリは、
しばらく原発の上空を旋回していた
まず目につくのは、巨大な4つの塔だ
おちょこをひっくり返したような形状で、
時々、もうもうと白煙を出しているアレだ
人によっては、それを原子炉だと誤解している
場合もあるが、その正体は”冷却塔”である。
原子炉の冷却水を冷やして循環させるための
建造物だ。
原子炉は、巨大な立方体の建屋の中にある
そして、この原発では
2基の原子炉が存在していた
耳に心地よいテノールボイスが言う
「さてと、改めてあらましを解説しよう
見ての通り、
この原発は非常に老朽化していてね。
残り少ない核燃料をなんとか
延命させていたらしいが、
ついに地震によって設備の一部が損傷した
結局、原発を占拠していた軍人崩れ共は
逃走...
残った技術者連中が、
なんとか原子炉を停止してくれた」
アタウルフが、フンっと鼻を鳴らして
口を挟んだ
「そんで、原子炉ってのは停止しても崩壊熱で
加熱し続けるんだろ?
だから、ポンプを動かして冷却水を
送り続けなきゃならねえが....
そのポンプを動かす非常電源が
年代物のオンボロな上に、
燃料も尽きかけていると」
グルカ傭兵たちが苦情を言う
「こちらボーイズ2,いいかね?
ボーイズ1よ、タロサンの
説明の途中で口を挟むなんて無礼だと思う
....以上!!」
ヒマラヤの山岳民族達は律儀だった
再び、タロサンのテノールボイスが話を続けた
「ありがとう、ボーイズ2
さて、イギリスンサムライの言った通りだ。
我々は、原子炉が溶けてこの世界が
地獄と化すのを食い止めるべく、こうして
やってきた!!
君らに課された任務は、
俺が発電機を持って来るまでに、
この原発を人型から取り戻すことと、
立て籠もっている技術者連中を
救出することだ!
もちろん、知っての通り、
君らにはたっぷりと
ビーグル・ポイントでの報酬が約束される」
「アリガトゴザイマス!!」
アタウルフが、わざと日本語で返したのだった
すると、タロサンが今までの英語から、急に
イタリア語に変えて話しはじめた
大笑いするブルーノ
その笑い声は、タロサンに勝るほどの
素晴らしいテノールボイスだ
そして、メイシンが苦情を言った
「タロサン、相変わらずブルーノの事が
好きすぎでしょ!
良い声同士でイチャイチャしないで下さい」
その頃、はるか遠い日本では.....
ムケチン作戦の実行部隊が、2隻の船で
川を下っていたのだった