メッセージ
工業技術の結晶たる現代兵器の凄まじさを
見せつけられた「島」の人々....
ボフォース57ミリ砲の砲弾は、たった一発で
肥料小屋を粉砕したのだ。
しかも、その砲弾を
最大17キロ離れた場所から
分速200発で連射することができるのだ
素人が作った手製兵器と、
数丁の猟銃や拳銃ごときで、どう立ち向かえと
いうのか?
ジジイは、無言でメッセージに
添付されていたホームページのリンクを
タップした
表示されたのは、「島」の観光ホームページ
そして、その掲示板に書き込みがあった
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「我々は、お前たちに簡単に
遠くから火に焼かれることを見せた。
お前たちが条件を認めなければ、
さらに沢山の家が火を焼くことになる
条件とは、多くの石油と食料を用意せよ。
継続使用な機械も欲しい
翌朝、一つの船が、お前たちの港に来る。
条件をその船に渡せ
その船が攻撃を受けたら、遠くから
もっと多くの場所に火を焼くことになる。
また、我々はマシンガンを
持っていることを見せた。
我々は長い航海で疲労と怒りが多い。
よく、簡単に考えるべし」
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一応、ヨッシーが突っ込みを入れた
「日本人じゃないのがバレバレですよ!」
ジジイが答えた
「ビーグル翻訳で適当に母国語から日本語に
翻訳したのだろうが、
とりあえず言いたいことは分かる。
にしても、よく島のホームページを
見つけたな....
まあいいが、つまりは、海賊どもは
石油と食料と価値のある機械製品を
所望しているらしい。
それを一隻の船が受け取りにくるから
翌朝までに準備しろと...
もしも、その船が攻撃を受けたなら
ボフォース砲で島を火の海にする。
さらに、海賊どもは軍用銃で武装していて
長い航海による疲労で
怒りっぽくなっている。
だから、よく考えて対応しろと...
そう言うことだな」
ヨッシーは歯ぎしりした
「なんて勝手な言い分だ、畜生!!」
しかし、今や力こそが
この世界でのルールなのだ。
法と秩序は失われていて、
それらを保障していた国家も存在しない
ジジイが言った
「島には、俺達がやっと築き上げてきた
生活基盤がある。
造船所もようやく軌道に乗ってきたところだ。
今、あそこは沖合漁業で使用できるような
2本マストのスクーナーを建造中だ。
俺達の島を破壊させるわけにはいかない
悔しいが、島の連中は海賊の望み通りに
物資を支払って、穏便にお引き取り願う
という方針らしい」
子供たちは、リナとリサに気を遣って
黙っていたが、
自分たちの家族のことで頭が一杯だった。
そして、島には多くの若者や子供も居る
彼等は、農業や水産加工などの生産業に
携わったり、
造船所で木造船を造ったりしている
今、彼等は島の奥に隠れているそうだ
もしも、島の人間に手を出さないのであれば
海賊の望み通りにするべきなのか?
重苦しい沈黙が畳部屋を支配したのだった
・・・・・・・
結局、ジジイは他の大人たちと
話し合いをするために、
再び浮桟橋のほうへ行った
子供たちに課せられた任務は、暗くなる前に
食事の準備をすることだった
2階の食堂のキッチンは、
冷蔵庫や食器などが持ち去られていて、
大きな業務用ガステーブルは
ガスが無いので使えない
代わりに携帯ガスコンロが置いてあった
「伊勢海老」に「アジ」に「ヒラメ」に
「ヤリイカ」に「渡り蟹」
食材には事欠かないが、問題は調味料だ。
とりあえず、味噌と醤油はあるが...
しかし、ユッキーという名の女神が居た
少しふくよかな体型の彼女は”グルメ”だ
祖父母は島で旅館をやっていて、
かつての彼女の夢は、
島の旅館を継ぐことだった
そして、
ユッキーとプリンスの乗っている機帆船は
「まんぷく丸」と名付けられていて、
彼女は船から食材の入ったリュックを
持ってきたのだった
「今まで大切に持ってたんだけどさ。
賞味期限も限界だし、
もうここで使っちゃおうって思ってさ」
そう言ってリュックから取り出したのは、
パスタ1キロの袋と瓶詰めしたトマト、
白ワインが1瓶とオリーブ油の小瓶、
ニンニクと粉チーズだった。
なぜか、プリンスがドヤ顔で言った
「今宵は、ザミガーのスタパーだぜ諸君!!
良かったなぁグルメの俺達が居てよ」
つまり、”ワタリガニのパスタ”だ
・・・・・・
(神よ、あんたは人間を
見捨ててしまったのだろうが、
もしも、まだ俺達を見ているのなら...
頼むよ、こいつらを守ってくれ!
小さな世界にへばりつくように
生きている俺達に、
小さな加護を与えてくれよ)
ヨッシーは、ワタリガニの下ごしらえを
しながら周りを見渡した。
隣では、妹のスミレが同じ作業に集中している
リナとリサも、水を運んだり食材を洗ったりと
自分に出来ることをやっている
カズヤとタケシとカケルの3馬鹿少年たちも
魚を捌いている
そして、プリンスは手伝いもせずに
口だけを出すという最低の行為をして、
ユッキーからマジでどつかれていた
(神よ、もしも生贄が必要だと言うのなら
俺を捧げるからよ。
俺はどんなにつらい目にあってもいい、
だから、こいつらだけは頼むよ)
ヨッシーは顔を上げて窓を見た
窓から入る光はどんどん弱くなっている。
彼は、こすからい鋭い目で、
迫りくる闇を睨みつけたのだった




