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スポーツドリンク

海賊船のバスルームは、そこそこの設備だった。

”ガス給湯式”のシャワーからは、

即座に温かいお湯が出てきた。


ヨッシーは、ドライスーツを着けたまま

シャワーのお湯を顔面から浴びていた。


ふと下を向いて目を開けると....


排水溝に流れるお湯に、”赤い筋”が

混じっている


ヨッシーは、独り言を呟いた



「....これは、サブジジイが

 俺たちの為に流してくれた血なんだ....」



そう、外灯からサブジジイを降ろす時に

付着したものだった。

しかし、ドライスーツはリバーサイド同盟に

返却しなければならない。


シャワーのお湯を浴びながら呟き続ける



「サブジジイにしろ、山崎氏にしろ、

 あんな目に合う理由はどこにもない!


 ....いや、都会派の連中に復讐されるなら、

 まだ、なんとか理解は出来る。


 でも、今や、リナとリサは俺たちと共に

 戦ってくれているだろう?」



かつて島では、”田舎派”と”都会派”による

酷い内乱が起った。

都会派の生き残りたちが、

田舎派をどう感じているのかは分からない


しかし、都会派であるリナとリサは、

ここ数日になって

自分やジジイに心を開いてくれている。

というよりも、

自分にかなり優しくなってきている感じだ


ヨッシーは、白いタイル壁を睨みつけながら

さらに独り言を続けた



「だから、やっぱり、田舎派といえども

 あんな目に合うのは許されないんだ!


 つまり、俺がやったことは正しかった。

 俺は正しくゴキブリを駆除したんだ」



必死に、自己を正当化して騒ぐ心を落ち着ける


やがて、

排水溝に流れるお湯に何も混ざらなくなり、

ヨッシーはバスルームから出たのだった



・・・・・・・・・・・・・・・



ウメさんが、洗面所の物置棚から

新品のタオルを数個、用意してくれていた。

まだ、ビニール袋に包まれているやつだ。



「どう、少しは気分がスッキリした?」



そう言いつつ、ウメさんは、タオルで

ヨッシーの頭を包んでゴシゴシしてくる



「どこからか略奪してきたものか、

 略奪品と交換したものかは分からないけど。

 

 船は汚いけど、積んでるものは

 そこそこ良いものだわ。

 冷蔵庫もあって、中には上等の食料もあった


 海賊共と違って、それらには罪はないわ」



まるで、自分の子供か孫のように、

ヨッシーの身体をフキフキするウメさん


.....まあ、一応断っておくと、

ヨッシーはドライスーツを着ていて、

さらにその下には服を着ているだが



「....あ、ありがとうございますウメさん」



洗面所のドアを開けると、

そこは一応リビングと呼べる空間だった。


目の前には、操舵室へと続く低い階段と、

寝室の狭いハッチ、

壁にめり込んでいるような小さな台所に

冷蔵庫もある


そして、足元にはブルーシートが敷かれている



(ああ、そういえば....

 来たときに大きな”血だまり”があったな。


 多分、むけぞうさんが、

 海賊共を始末した跡だろうが)



そう、ここはれっきとした”殺人現場”なのだ


そして、殺人事件の犯人の中には、

まさに自分も含まれている.....


ヨッシーは、頭をブンブンと振ってその考えを

追い払った



(いやいやいやいや、

 これは殺人じゃない、ゴキブリ駆除だ!!

 分かったな、あいつらは人間じゃなくて

 ゴキブリだ!!

 

 もう、二度と、

 自分が殺人を犯したなんて思うな)



まるで、

振り子のように心が両極端に揺れ動くのは、


”ニーチェ的超人モード”


の副作用なのだろうか?

それとも、若干15歳の少年にとって、

自分がやらかした事は重すぎたのだろうか?


ブルーシートの向こう側、つまり右舷側には

少女たち3人が固まっていた。

少し離れた所には、

各々の銃器が床に置かれている


ステンもどきサブマシンガン、

レバーアクションライフル、

小ぶりのオートマチックライフル、

リボルバーに小型拳銃....などなど


自分達が”武装集団”だというのを

思い出させる光景だ


しかし今は、リナとリサとスミレが、

自分のほうを心配そうに見つめている。


ヨッシーは、ブルーシートを踏みつけて

少女たちのほうへ向かった


妹のスミレが言った



「にぃ、大丈夫?

 ほら、冷蔵庫の中に飲み物があったよ!


 もちろん未開封だし、

 最近製造されたもので安心だからね」



スミレが差し出してきたのは、ドキツい

原色の液体が入ったペットボトルだった


Gatoradeゲータレード』と銘打ってある


ヨッシーは、驚いて言った



「おお!!これって、

 ロサンゼルスの本場”アメリカ”の、

 国民的スポーツドリンクではないのか?」



かつてユアチューブ動画で見た、

アメリカの青春ドラマを思い出す。


ヨッシーは、スミレから受け取ったそれを

有難く飲んだ。

キンキンに冷えていてとてつもなく甘い....


まるで、アメリカ人になったような味だった


それはもう”笑うしかない旨さ”だ



「ヒヒヒヒ....ヒヒヒヒヒ」



リナが言った



「ちょっと、キモイっての!

 でも、まあ、有名なスポーツドリンクが

 今だに生産されてるとか、

 ちょっと希望が持てる展開だよね!」



リサも相槌を打つ



「でも、チョコボーラーが、チョコボールを

 生産しているようなものかもよ?

 

 それにしても、ゲータレードなんて

 一体どこで手に入れたんだろうね?」



すると、

ふいにマッシュルーム眼鏡の声が言った



「今の僕達は、海賊達の過去の動向を

 全て把握できるんだ!

 ホルガー・ダンスククラブの協力を

 得たおかげだね。


 さて、連中は、ここに来る前になんと

 『沖縄』に滞在していたことが分かった」



マッシュルーム眼鏡は、右舷側の廊下から

出現した。

つまり、今まで船尾にある武器庫を

物色していたのだ


少女たち3人と並ぶマッシュルーム眼鏡


ヨッシーは言った



「ええー、沖縄って、

 アメリカ軍の本拠地じゃないですか?」



「ああ、アメリカ第七艦隊とアメリカ海兵隊が

 支配する土地だ」



「え、え?海賊共がそこから来たってことは、

 もしかして、

 裏にアメリカ軍が絡んでるんですか?」



マッシュルーム眼鏡は、肩をすくめた



「まあまあ、結論を急いじゃあダメだ


 確かに、沖縄はアメリカ軍の支配地だけど、

 あそこは

 開かれた”自由貿易地”でもあるんだ


 今どき、

 船や人が武装しているのは当然だよね、

 サバイバルや自衛の為に。


 僕達と違って、アメリカ軍にとっちゃあ、

 海賊達の武装なんて大して脅威でもないだろ?

 それに、海賊達も馬鹿じゃない。

 沖縄では、ただの貿易船のように

 振舞っていた事も考えられる」



ヨッシーは、ゲータレードを片手に答えた



「つまり、本性を隠して貿易船として

 沖縄に滞在していただけって可能性も

 あるわけですね....


 ゲータレードはそこで購入したのか」



考え込むヨッシーの背後では、

ウメさんがマッシュルーム眼鏡に

視線を送っていた


マッシュルーム眼鏡は小さく頷いた



”分かっていますよ...

 どこまで彼等に明かせばいいのか....


 それは、

『ムケチン作戦本部』が決定することです”



 

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