弔い
気が利く性格のむけぞうが、海賊船から
いくつかのバッテリー照明を持ってきてくれた。
その照明に照らされたワクワクポートの外では、
外灯のポールに死体が吊り下げられている
「............」
リナとリサとスミレは、
黙々と地面に落ちた”欠片”を拾っていた
その欠片は、
かつて”サブジジイ”だったものだ
「.....それじゃあ、ヨッシー、
ロープを切ってくれ」
ヨッシーとジジイは、2人がかりで
吊り下げられた死体を降ろそうとしていた。
ジジイは、3本指のマシン義手でロープを
保持している。
その下で、ヨッシーは、
外灯ポールの根本に巻いてあるロープを
サバイバルナイフで切っていた
ロープが切れ、ジジイがゆっくりと
死体を降ろす。
ヨッシーは、降りて来るサブジジイを
受け止めた。
「ありがとう、サブジジイ....
身を挺して皆を守ってくれて
おかげで、皆は無事に避難出来て、
海賊共も駆逐できたよ」
サブジジイの顔面は、銃弾と刀傷によって
滅茶苦茶になっている.....
それでも皆にとって、彼は、
紛うことなき永遠の”日活スター”だった
ヨッシーの中には、
常にポマードでしっかりと整えられた白髪に、
太い眉にがっしりとした顎、
真っ白な歯を見せて笑うサブジジイの顔が
蘇っていた
ヨッシーは、涙声で呟いた
「最後の最後まで、真の日活スターだったな。
外見も行動も全てがそうだった
島一番のハンサム、島一番の伊達男....
流石は俺たちのサブジジイだぜ」
ジジイも相槌を打った
「ああ....死ぬまで貫き通しやがった...
見事なもんだ」
サブジジイの身体を、広げた白い帆布に
横たえる。
リナとリサとスミレが、
丹念に探して拾った欠片をサブジジイの側に
添えた。
ついに、ジジイの目から涙が零れ落ちた
「すまねえな、エイジ...
しばらくの間、ここで我慢しててくれや
事が終わったら、
島の連中が迎えに来るからよ
すまねえが、
それまでしばらく辛抱しててくれや」
皆で、帆布を丁寧に折りたたんで
サブジジイの亡骸を包み、端をロープで
しっかりと結ぶ。
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一方、浮桟橋と渡り廊下では......
ちんかわむけぞうとウメさんが、
2人の捕虜に死体を運ばせていた
「弟弟为什么在这种事」
全身から血を流したスキンヘッド&編み髭が、
死体を運びながら嘆いている。
彼が引きずっているのは、顔面を酷く破壊され、
喉を引きちぎられた死体だった
『グロック17』を持ったウメさんが、後ろを
ついてきている。
ちなみに、むけぞうもウメさんも、
ドライスーツを脱いで普段の姿に戻っていた。
ウメさんは、濃紺色の警察の出動服に、
腰に軍刀を差している。
そして、海賊共の母国語でこう言った
「ふんっ、他人の身内は、
笑顔で散々に苦しめるくせに、
自分の身内にだけは涙を流すのね。
お前等のようなクソ悪党どもの
クソ道徳観には反吐が出るわ!
ほらっ、さっさとこの粗大ゴミを運べカス」
スキンヘッド&編み髭は、弟の死体を
ワクワクポートの中に持っていった。
1階の広い待合室には、すでに7体の焼死体と
新たに運ばれた3体の死体が転がっている。
ウメさんとむけぞうは、
『海賊船』にある4体の死体を
そこへ運ばせているのだった
ウメさんに続いて、むけぞうが、
頭頂ハゲ&髭に『9ミリ拳銃』を突き付けて
やってきた。
むけぞうは、普段の白装束姿に戻り、
ステンもどきのサブマシンガンを背負っている。
そして、捕虜の船長は、
やはり死体を引きずっていた。
船長が、ワクワクポートの中に
最後の死体を持っていく
それが終わると、ウメさんとむけぞう、
そして2人の捕虜は、
渡り廊下の真ん中あたりで立ち止まった
「まあ、お前等を
”島組”に接触させていないだけでも
有難く思えよ。
彼等はこちらを見ないように努めているが、
お前等を、同じ目に合わせてやりたいと
思っているんだからな!」
日本語でそう言いつつ、
むけぞうは”島組”のほうを見つめた
皆で、外灯から降ろしたサブジジイを
白い帆布に包んでいる....
少し離れた所では、2匹の犬達が佇んでいた
「本当に賢い犬達だ、
さり気なく周囲を警戒してくれているな。
あの噛み癖さえ直せば、最高の犬になれるぜ」
むけぞうのつぶやきをウメさんが拾った
「あの時、ヨッシー君が、
2匹を連れてきてくれたおかげね
やっぱり、”ヒーロー”というのは、
良い仲間を引きつける力を持っているのよ」
むけぞうは答えた
「ええ、彼は、船で世界中を航海するのが
夢だって言ってたけど....
絶対に、いい仲間たちに恵まれて
その夢を叶えるでしょうね!」
「もちろんよ!」
ウメさんは、捕虜に拳銃を突き付けながら
笑顔を見せた。
島組は、帆布に包んだ死体を皆で持ち上げて、
業務用出入り口からワクワクポートの中に
入っていった
そんな光景を見ながら、
むけぞうの中には過去の思い出が飛来していた
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『タロサン』
彼は、世界中の関係者たちから
そう呼ばれている
ついに、ムケチン作戦に協力することになった、
あの”宝堂慎太郎”だ。
彼が、そのような立場になったいきさつは
強烈な出来事だった。
今まで順調に”ヒーロームーブ”を
かましていたのに、
なぜか急に”奇行”に走ったのだ
むけぞうは思った
(もしも、あの出来事が
何かの物語だったとしたら....
俺は、あのシーンでブチ切れて
読むのを辞めてしまうな。
ああ、急に俺のズボンを脱がそうとしたんだ。
そして、十文字叶に刀で斬られた。
彼の、『肛門』に対するモノマニアぶりは、
前から徐々に表面化していたらしいが.....
それでも、あの出来事は唐突すぎた)
しかし、それでもやはり、
間違いなく彼は、皆の”ヒーロー”だった
人々を引きつけ、運命を変えてしまう存在
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....と、急に頭頂ハゲ&髭が振り向いた
むけぞうは、即座に拳銃の銃口を、
彼の額に持って行った
「你要杀了我吗!!」
なにやら自分に向けて怒鳴り始める
すると、ウメさんが言った
「どうせ俺を殺すんだろ?って言ってるわよ」
むけぞうは困惑した
「まあ、それはお前さん次第....」
しかし、ウメさんが船長を蹴り飛ばす
彼は、惨めにもワクワクポート内に積まれた
死体の側に転がっていった
ウメさんは、そんな船長に向かって
『グロック17』で狙いを付けながら言った
「ねえ、宝堂慎太郎の協力を得られたのなら、
もう捕虜から
情報を聞き出す必要も無いのよね?」
拳銃を構えるウメさんの側では、
スキンヘッド&編み髭が、
両手を上げながらブルブル震えている....
むけぞうは、小さくため息をついた
そして言った
「まあ、そういう事ですね」
好き勝手に出来る世界では、
それをやった自分も
好き勝手にされるということだ
ズダンッ
ズダンッ
ズダンッ
鋭い銃声が響き、
グロックから飛び出した空薬莢が
海に落ちたのだった