大反撃作戦~海賊船襲撃4
ウメさんは、左舷側の狭い外廊下を
ゆっくりと進んでいた。
右手のほうに浮桟橋があって、前方には暗い海、
そして、
壁際に上部デッキへと登る梯子が見える
この海賊船は、中央のブリッジをそのまま
船尾に延長させたような形態をしている。
故に、船尾の見張りは上部に居るのだ
(敵を憎め、徹底的に憎むんだ!!)
自らの中に”憎悪の炎”を燃え上がらせる。
ふと、ちんかわむけぞうと自分を比較する
(元警官の私は、あの子のような
”運命論者”ではないわ。
積極的にクズどもを殺す....自らの意思で)
そして、梯子の手前で軍刀の柄を手に取った。
その柄は”アルミ製”だ。
親指で駐爪を押しながら、刀をゆっくりと抜く。
金属製の鞘から抜かれるのは、
刃渡り68センチ程の刀身。
それは、
戦時中に量産されていた「95式軍刀」だった。
その中でも、ごく稀に出現する超優良個体で、
『魔剣』と称されている
ウメさんは、鞘を床に置くと、
右手に魔剣を持ちながら梯子を登った
まずは、頭上の段にアルミ製の柄を突っ込む。
そして片足を下の段にかける。
そのまま、よいしょっと身体を持ち上げた。
その要領で、梯子を登り続ける
.................
『95式軍刀』は、今まで
日本で生み出された軍刀の中でも、
真の意味で”戦場刀”と言える。
過酷な戦地での酷使に耐えるように、
”全金属製”なのだ。
ただでさえタフなのに、魔剣と称される程の
凄まじい切れ味を誇るこの刀は、
まさしく最強だった
.................
梯子を登り続けるウメさん
とは言っても、その高さはせいぜい2.5m程度だ
ウメさんは、梯子の上部近くで
身を屈めて待機していた。
右手に持った魔剣は、まるで背負うかのように
峰の部分を肩に預けている
サッ....
かすかに衣擦れの音が聞こえた
(多分、梯子を登ったらすぐそこに居るわ)
もう、殺したくてたまらない....
憎悪が破裂しそうなのだ
次の瞬間、ウメさんは一気に動いた
曲げていた足を伸ばすと、
即座にデッキの手すりを左手で掴む。
そのまま左手で身体を引き寄せ、
同時にジャンプしてデッキに着地した時、
すでに魔剣は両手で握られていた
・・・・・・・・・・・・・・・
ウメさんの目の前に居たのは、
腕を組んで簡易なパイプ椅子に座った男だった。
男は、こちらから見て横向きの状態で、
彼女の存在に全く気が付いていない
....その横顔は、
ボンヤリと外海のほうを眺めている
「呆れたわ....」
空は満点の星空だ。
降り注ぐ星明りによって、
男の耳から伸びる”白いイヤホン”が
確認できた
(何が起きたかも知らずに、
安らかに死なすのは優しすぎるわね)
ウメさんは、
椅子に座った横向きの男に向かってヒュンっと
魔剣を振った
見たところ東アジア系の、小太りのハゲだ。
暗い色の防寒ジャケットを羽織っている
唐突に、男の首から鮮血が吹き出る
バシンッ!!!
さらに次の斬撃が、
腕を組んだ男のがら空きの脇腹を掠った
「ごが....おぼぼ....ごぼぇ....」
男は、血が吹き出る首を片手で押さえ、
椅子ごと後ろ向きに倒れた。
「!!!」
あわてて飛び出したウメさんが、
倒れる椅子を後ろから支える
「おっと、一応、音は出さない方向性で」
キョロキョロと周囲を確認しながら、
ゆっくりと椅子&男を床に倒す。
耳にイヤホンを付け、首と脇腹から血を流し、
男は星空を見上げていた。
....脇腹からは、血の他にブヨブヨとした
臓物も飛び出し始めている
そんな男を真上から見下ろして、
ウメさんは言った
「相変わらず、
悪魔の魂が乗り移っているような切れ味だわ」
そして、口角をわずかに上げて続ける
「本当は、現役の警官だった時代に、
お前達のような悪党を
この手でぶち殺したかった。
お前達は、好き勝手に出来る、
いい時代になったと思っているでしょうけど、
それは、私にとっても同じだからね」
まあ、放っておいても死ぬだろう。
ウメさんは、男を放置して周囲を確認した
倒れた椅子と男の側には、『AK-47』らしき銃
上部デッキは広く、
真中辺りにエンジンルームから伸びた煙突。
その奥に、一段高くなったブリッジ上部と
レーダーマストがある。
広いデッキの所々に、ブルーシートをかぶせた
荷物が積まれている。
それらはロープで固定されていた
「まあ、特に注意すべき部位は無しと...
下に降りて、
”殺し屋・ちん坊”と
”超イケ爺・総一郎さん”に合流ね」
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その少し前.......
”殺し屋・ちん坊”こと、ちんかわむけぞうは、
操舵室の階段の前に居た
左側の窓からは、ジジイがこちらを伺っている
「んじゃあ、突入だ!」
低い階段を登り、スライドドアを一気に引く
目に入ってくるのは、
小さな舵輪と古びた計器やレバー類。
フロントガラスから見える船首のデッキには、
船首マストに寄りかかる見張りの姿が見える
むけぞうは、操舵室に突入すると、
クルリと身体を左回転させた
.....机と、その前の椅子に座る男の後ろ姿!!
男の背中越しに、
ノートパソコンのモニターの縁が見える
”よしっいいぞ!”
そして、ノーパソの横に、
ホルスターに入った拳銃のグリップも見える
さすがに男は立ち上がった
後ろを振り返りつつ、
手を、机の上に置いている拳銃のほうへ伸ばす
しかし、ハンティングナイフの切先が、
拳銃へ伸びたほうの腕を貫いた
「ぐああっ!!」
続けざまに、強力な左ストレート・パンチが、
男の顔面に直撃する
すでに”殺人パンチ”を持っているむけぞうは、
それでも手加減していた
「ごぼぐぇ....あぐがが....」
伸び放題の髪と髭、しかし頭頂ハゲの男は、
ツルツルの頭皮をむけぞうに見せた状態で
上半身を屈めている
むけぞうは、余裕でナイフを左手に持ち替え、
ドライスーツの膝ポケットから
『9ミリ拳銃』を取り出した
右手に持った拳銃の銃口で、男の顔を
無理やり突き上げる
男は、顎の下に銃口を突き付けられ、
恐怖の眼差しでむけぞうを見上げていた
そして、むけぞうは、
万国共通で通じるだろうと思われるセリフを
言った
「DONT MOVE(動くな)」
「YOU、HAND UP(手を上げろ)」
「AND、SHUT UP(喋るな)」
頭頂ハゲの髭男は、身を屈めたまま
両手を上げた.....
鼻からポタポタと血が垂れている
ふと、横目でフロントガラスのほうを見ると....
「うわーー、小島さん。
かなりえげつない殺し方してません?」
ジジイは、相当な怒りを貯めこんでいたらしい
むけぞうは、男のほうへと視線を戻した
「さっきから俺、無慈悲な殺し屋になってて
ちょっとブルーだったけど
これでも優しいほうだよな...」
両手を上げた頭頂ハゲの髭男は、何やら
彼の母国語で話しはじめた
「おいっ、俺の英語が通じなかったか?
勝手にしゃべるなアホ!!」
そして、左手に持ったナイフの柄頭で、
男の横面をぶん殴ったのだった。