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大反撃作戦~海賊船襲撃3

黒ずくめの忍者のような姿のむけぞうは、

船尾近くにあるドアの側に立っていた。


ドアのさらに先には、

上部デッキへと登るための梯子がある。

そこはウメさんの担当で、

彼女はむけぞうの後ろに控えている


むけぞうは、ドアにある丸い小さな窓から

中を覗き込んでみた。



「ハウッ!....ポウッ、チャッ、チャッ♪」



船首方向の窓から漏れてくるのは、

洋楽の男性ボーカルだ。

謎の掛け声が特徴の、不世出の大天才....



「アーーーーーー!!!!」



『俺はバッドだぜ!』というその歌は、

彼の数ある代表曲の一つだ


むけぞうは、すぐ後ろのウメさんに

顔を近づけて小声で言った



「ドアを入ると、こちらから見て横向きに、

 一人の男が椅子に座っています。


 ウメさん、向こうに回って

 一気にドアを開けてくれますか?

 突入しますから」



ウメさんは頷くと、

狭い廊下をむけぞうとすれ違った


むけぞうの手には、

柄の長いハンティングナイフが握られている。

そして、ウメさんの手には

金属製の鞘に入った軍刀が握られていた



「多分、鍵とかは掛かってないと思うけど。 

 それじゃあ、一気に行くからね」



ウメさんは、ドアの棒状の取っ手を握った。



「.........」



むけぞうは頷いた


と同時に、ウメさんは、取っ手を降ろして

自分のほうに力いっぱい引いた



「!!!!!!!???」



”椅子に座った男”は、

両手を頭の後ろで組んで背後の壁に

もたれ掛かっていた。


顔には醜い傷があり、見たところ東アジア系だ


ノースリーブシャツの上に、

軍人が着るような防弾ベストを羽織っている。

そして、剥き出しの腕には”龍の刺青”を

入れていた


驚愕に目を見開いたその男のすぐ前に、

ちんかわむけぞうが出現したのだ



ズザッ!!



ふいに、男の下顎から真上に向かって、

”ハンティングナイフ”が突き刺さる。


即座に、内側に凹んだ柄頭が

膝で蹴りあげられた



ズブブッ!!!



まるで、”串刺し団子”のように

一気に頭部が貫かれ、

ナイフの切先は頭頂の頭蓋骨で止まった


むけぞうは、口元をゴニョゴニョさせて

小さく独り言を呟いた



「人生で最後に見るのが俺の顔とかよ...

 悪人の最期ってのは、結局そんなもんだ」



男は、椅子に座って頭の後ろで腕を組み、

大きく目を見開いて

こちらを見ている状態で絶命していた。


むけぞうは、男の頭を掴むと

サッとナイフを引き抜いた。

同時に、周囲の状況を口に出して確認する



「ふむ、船尾のこの場所は”武器庫”かな?

 豪勢な武器がたんまりとあるぜ」



船尾には、所狭しと多くの木箱が積まれていた。

さらに、『AK-47』っぽい銃が、

壁に設えた棚にズラリと並べられている


そして、真正面、

つまり右舷側には、外の廊下へと出るドア。

それは左舷側と同じだ。


男が身を預けていた壁の向こう側は、

恐らくはエンジンルームだろう



「しかし、船首へ行く廊下は右舷側のみか」



どうやら、船内の廊下はそちらにある

 

殺した男は、身体を90度くらいに折り曲げ、

床にほど近い俯いた頭部からは、ボトボトと

血が流れている


そして、相変わらず船内に響く洋楽の歌声.....


むけぞうは、それでも音を立てずに移動した。

とは言っても、2メートル程進んで立ち止まる



「オーヤベーーーヤベェーー♪」



キング・オブ・ポップの歌声に下手くそな声が

ハモっている。

今の時代、どんな神曲でも

聞く相手を選ぶことはできないのだ


むけぞうは、サッと廊下に出た。

突き当りまで誰も居ない....


途中にある船内ドアは、エンジンルームだろう



「オーヤベーーーヤベェーー♪」



ハモり声の主の居る場所は見当がついた。

むけぞうは、念の為に

エンジンルームへのドアを開けた


中は真っ暗、石油とオイルの強い匂い、

エンジンも沈黙している.....



「誰も居ないか」


 

ドアを閉めたむけぞうは、

ズンズンと廊下を進み、突き当りの前で

立ち止まった。


そして、一息で歌い上げる有名なサビの

クライマックスまで待つ



・・・・・・・・・・・・・・・・・



男は、やはり椅子に座っていた。

退屈そうにしていたもう一人とは違い、

ノリノリにハモっている


外見は、どちらかというと

目鼻立ちがハッキリとした南アジア系


チンピラ風の派手なジャケットを羽織っている


男は、自分の膝をポンポンと叩きながら、

クライマックスの歌い上げに向けて

息を吸い込んだ


そして、声を出そうと大きく口を開いた瞬間

.....



ズブリッ!!



口内に、やや上向きにナイフの刃が突き刺さる


むけぞうは、グイっと長い柄を持ち上げて

ナイフを水平にした。

男の頭部もつられて上向きになる。


目にも止まらぬ左ストレートによって、

ハンティングナイフはまたも深々と突き刺さり、

頭蓋骨で止まったのだった



「もう少しマシな生き方をしていればな。

 もっと長生きが出来て、

 好きなだけサビを歌い続けられただろうに」



ゴニョゴニョと呟きながら、

ささっと周囲を確認するむけぞう


男は、先程と同じく、

エンジンルームの壁を背にして座っていた。

今は、上半身を折り曲げて床に血を垂らす男の

すぐ横に、『CDプレイヤー』がある


左右には、それぞれ大きな窓と、その横に

外へ出るドア


背後には、操舵室へと続く低い階段。

ちなみに、そこへの船内ドアは閉まっている。

さらに、階段の脇に背の低いハッチがあって、

そこも閉まっている


むけぞうは、左舷側に行って確認した


船内ドアがあって中を確認すると、

そこは”洗面所”と”バス&トイレ”だった



「なるほど、だから左舷側には廊下はないのか」



船の構造が大体分かった


....ってことは、階段脇の背の低いハッチは


それを開けると、

中は薄暗い”ベッドルーム”だった。

2段ベッドが並んでいるのが確認できる。

不快な悪臭が漂い、中に誰も居ないのを

確認したむけぞうは、ハッチを閉めた



「まあ、人数分のベッドは無かったし

 あの不潔さではな....

 ワクワクポートで一夜を明かす気持ちが

 分かるぜ」



残るはブリッジの”操舵室”だ


その前に、

むけぞうは左舷側の大きな窓のほうへ行った


少し開いた窓をさらに開けて、そこから

片手を突き出してオッケーサインを出す。


即座に、ジジイとウメさんがやってきた。


開いた窓の隙間から口早に言う



「船内の残りは操舵室のみ。

 ウメさんは、

 船尾のデッキ上の見張りを倒してください

 

 小島さんは、ここで待機。

 俺は、今から操舵室に突入します。


 俺の突入と同時に、

 船首の見張りを倒してください」



ウメさんが言った



「了解、今から行動を開始するわ」



ジジイが言った



「了解、君の突入と同時だな、分かった」



むけぞうは、振り返った


椅子に座ったまま身体を折り曲げて息絶えた男

.....すでに床には血だまりが出来ている


そして、男のすぐ横のCDプレーヤーからは

曲が流れ続けている


むけぞうは、2回目のサビの

最後のセリフに合わせて呟いた



「俺はワルだぜ」



そして、超下手くそな”ムーンウォーク”で、

操舵室の低い階段の前に来たのだった






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