大反撃作戦~海賊船襲撃2
時刻は午前4時半だった
ヨッシーたちが居る防波堤の内側は、
外よりも1段と低くなっており
船着き場になっている。
そして、船着き場のピットから”挿し網”が
伸びて海中に沈んでいた。
満潮時刻に近い為に、船着き場から海面まで
1メートル程度だ
ドライスーツ組の全員が
それぞれの荷物を背負って、
沈没船の船首の影で待機している。
むけぞうの声が言った
「冷静さを欠いて急いで渡る必要はない。
網の上を進みさえすれば、
必ず浮桟橋にたどり着けるからね。
息継ぎも、慌てずにゆっくりと
海面から顔を出すこと。
まあ、ウメさんはダイビングの免許を
持ってるし、
小島さん一家も釈迦に説法だ
問題は、俺とマッシュさんだけだね(笑)
...........
それじゃあ、ヨッシー君が先頭だ!
皆、行こうぜ!!」
「了解、出発します」
ヨッシーは、2の数字が描かれた防水バッグを
背負い、ゆっくりと海中に入った。
沈没船の沈んでいるブリッジに足がつく
今の所、胸から上は海から出ているが、
水圧でドライスーツが押されている。
エア抜きバルブから最後のエアーを抜くと、
スーツはピッタリと服に張り付いた
3月の海はそれなりに冷たい。
ウェットスーツと違って、周囲から冷気が
押し寄せて来る感じだ....
しかし、海中での身体の状態は安定している。
背負っているバッグがいい具合にウェイトに
なって、ドライスーツ特有の浮力を
相殺してくれているのだ
「ええいっ、ままよ!!」
ヨッシーは、顔を海中に沈めると、
足を蹴って大海に飛び出したのだった
ドボッ...ゴゴゴゴ...
すると、海中のスミレがヨッシーの身体を
インサートしてくれた
スミレは、ヨッシーを放り投げるようにして、
2メートル程先の挿し網にまで
彼を連れて行ってくれた
・・・・・・・・・・・・・・・
ヤングジジイと子供たちが
徹夜で作った『改造・挿し網』は、
幅1.5m、長さ100mの細長い網だ。
両側に等間隔に鉛の重りを付けている。
もちろん、
軽い網が海面に浮かび上がらない為にだ
しかし、30m間隔に、
発泡スチロール製の浮きを取り付けており、
網が深く沈まないようにもしている。
さらに、10m間隔に、
横向きに細長い板を渡しており、
網の形が崩れないようにしていた。
ヨッシーは、海中の網の上を
四つん這いになって這うように進んでいた
(くそっ、真っ暗じゃねえか!!
リナとリサも、
よくこんな中を真っすぐに泳げたな。
本当にたいしたもんだぜ)
網を指で掴みながら前進し、
まるで梯子を登るかのようにして進む
10m程進んで限界を迎えたヨッシーは、
海面から頭を上げて息継ぎをすることにした
ゆっくりと網の上に立つと、網は少し沈んだ。
しかし、余裕で頭を海面から出せる深さだ
(落ち着いてゆっくりと頭を出せ)
.........
バシャッ、バシャンッ......
海面に常に発生している小さな波が、
ヨッシーの頭を揺らし続ける
彼の前方には、
暗い壁のような浮桟橋とその奥の海賊船が
見えた。
星明りと、海賊船の窓からこぼれる光で
よく分かるのだ。
....しかし、それは、はるか彼方に思える
そして、海はとても暗かった
「上等だ、てことは向こうからもこちらが
見つけにくいってことだからな」
他のメンバーたちがどうしているのか
全く分からない。
まあ、順調に追ってきているのだろうが....
妹のスミレが、殿として
一番最後尾についているはずだ
バシャンッ!
小さな波がヨッシーの顔をひっぱたく
「ふう....これからしばらく孤独との戦いだな」
ヨッシーは、再び海中に顔を沈めた
”孤独な戦い”は、それから5分くらい続いた
そう、たったの5分だった。
しかし、体感的には30分くらいに
思えたのだった
//////////////////////////////////////
浮桟橋の鉄梯子にたどり着くと、リナとリサが
待ち受けていた。
2人とも黒フードを被っているし、暗いので
見分けがつかない
ちなみに、浮桟橋には所々に
防舷材(船の接岸を緩和するクッション)が
垂れ下がっていて、
ヨッシーはその一つにしがみついた
近くに寄ってきた黒フードが
小声で話しかけてきた。
.....声から察するにリナだ
「いよう、ヨッシー、御到着おめでとう。
私らずっと海面を眺めてたけど、
全然来るのに気が付かなかったよ
だから、心配しなくてもアホ海賊共に
見つかることは無いって」
ヨッシーも小声で返した
「ああ、途中から、顔面を上向きにして、
最低限度だけ海面から顔を出して
息継ぎしてたからな。
他の皆も、そうやっているんだと思う」
それでも、皆が浮桟橋にたどり着くまでの
体感時間は、何倍にも感じられたのだった
そして、ついに8人全員が揃った
全員が、まるで黒いノミのように
所々の防舷材にしがみついている。
ここで、
一行は3チームに別れることになっている
海賊船を襲うチームは、
ジジイとむけぞうとウメさん
渡り廊下からワクワクポートを襲うチームは、
ヨッシーとリナ
陸に上陸して
側面からワクワクポートを襲うチームは、
マッシュルーム眼鏡とリサとスミレ
一応、3人の少女たちは攻撃には直接参加せず、
サポート担当ということになっている
そして、最初にやることは”海賊船の制圧”だ
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちんかわむけぞうは、
ジジイとウメさんを呼び寄せた
3人して同じ防舷材にしがみつきながら
短く打ち合わせをする
「さて、小島さんとウメさんが背負っている
火炎放射器のボンベは、
美月姉妹に渡してください。
今から、浮桟橋の反対側に回って
海賊船に上陸します。
計画通り、船首の1名は小島さん、
船尾の1名はウメさんが担当で。
船内に少なくとも3名居ると思われますが、
それは俺がやっつけます」
むけぞうは、3人の武器が入った防水バッグを
背負っていた。
そして、リナとリサが、ボンベの回収に
やってきた後、ついに行動を開始した
まずは、浮桟橋の縁沿いに泳ぎ、反対側に回る。
むけぞうが重いバッグを背負っているので、
途中で防舷材に取りついて休みを取りながら
3人は泳いだ。
やがて、角を曲がったとき、
急に目の前に『海賊船』の船尾が出現した
浮桟橋は全長が20メートル以上あるが、
海賊船もほぼ同じくらいの大きさなのだ。
海賊船は、船首を陸側のほうに向け、
左舷を浮桟橋に接岸している状態だった。
3人のすぐ側には鉄梯子がある。
浮桟橋から落ちたアホウどもの為に、
四隅に据え付けられているのだ
.....おそらく、すぐ頭上に見張りが一人いる
3人は、立ち泳ぎをしながら頭を寄せ合った
むけぞうが、小声で呟いた
「それじゃあ、俺が最初に行きます。
次にウメさん、
最後に小島さんが来てください」
ついに、海賊船への侵入が開始された
むけぞうは、バッグを背負ったまま
鉄梯子を登って浮桟橋に上陸した。
そのままスタスタと普通に歩く.....
そして、船尾寄りの場所で
船べりに両手をかけると、
ヒョイっと軽くジャンプして船に乗り移った
ジジイは、鉄梯子にしがみつきながら、
下からむけぞうの動きを観察していた。
それは、あまりにも”自然な動き”だった
驚嘆して、小声で独り言のようにつぶやく
「まるで幽霊みたいですね。
音を立てることもなく、ごく自然に」
すぐ側にウメさんの顔がある
ウメさんは、ジジイのつぶやきを
拾ったみたいだ
さらにジジイに顔を近づけて、
小声で言った
「総一郎さん、アレが彼の才能なんですよ
まるで、暗殺者か忍者みたいに、
気配を消すことが出来るんです
まあ、私も隠密行動はそれなりに得意なので
....では、行ってまいります」
鉄梯子を登ったウメさんは、
少し身を屈めながら慎重に歩いた
ちなみに、浮桟橋と船べりには、
防舷材の分だけ約60センチほどの隙間がある。
それでも、ウメさんは、
むけぞうと同じ動作で船に飛び乗った
海中で肩をすくめるジジイ
「半世紀近くも船に乗ってきた俺が、
二人に後れを取るわけにはいくまい」
ジジイは、まるでペンギンのように
身を屈めながら細心の注意を払って進み、
長い脚で船べりを跨いだのだった
////////////////////////////////////
「エンダー――ーーー♪イヤーー――♪
オーイェーーー♪ラブユー―――♪」
むけぞうとジジイとウメさんは、
小さく丸まって身を寄せ合っていた
3人が居る場所から船首方向に向かうと、
大きな窓がある。
そこから、照明の光とともに
洋楽の”ソウルフルな歌声”が漏れていた
さらに先には、操舵室のあるブリッジと、
船首のデッキがある。
そこに居るであろう見張りは、
ここからでは見えない
船尾方向には、小さな丸い窓が付いたドア、
さらに奥には上部デッキへ登る梯子....
3人が居る廊下はとても狭かった
どことなく、
油やオイルのような不潔っぽい匂いが
漂っている
「さっきヨッシー君が言っていた.....
ここはまるで、ゴキブリの巣だ
今からゴキブリ駆除を行う」
小声でブツブツと言いながら、むけぞうは
防水バッグを開けて、
中から『9ミリ拳銃』を取り出した
ゆっくりとした動作でスライドを引いて
薬室に弾を装填する
続けて、起きたハンマーを
銃を持つ手の親指で押さえながら、
左側面のデコッキングレバーをもう片方の手で
下に引いた。
ハンマーは元の位置に戻った
その状態の銃を、
ドライスーツの膝ポケットに入れる
そして、プラスティック製の鞘に入った、
柄の長い『ハンティングナイフ』を取り出した
ササッと鞘から刀身を抜く
海賊船の窓から漏れる光で、ナイフの刃が
かすかに光る
少し明るくなったこの場所で、
改めてむけぞうの顔を見たジジイは驚愕した
(いつもの人の良さそうな面影が無くなった。
何のためらいもなく人を殺す兵士の顔だ...)
続けて、ウメさんが、防水バッグから
自分の『グロック17』を取った
ゆっくりとした動作でスライドを引いた後、
そのままドライスーツの膝ポケットに入れる
そして、95式軍刀『魔剣』を取り出した
ジジイも、自分の『ニューナンブM60』を取って、
ポケットに仕舞ったのだった