大反撃作戦~海賊船襲撃1
『モーターボート』には、8人の人間と荷物が
ギチギチに詰め込まれていた。
舵を取っているのはジジイで、エンジンを
低速で回している。
時刻は午前4時頃、空は満点の星空で、
周囲の景色もなんとか見えるくらいには明るい
やがて、橋を2つ超えた所で
モーターボートはエンジンを止めた。
そのまま、流れに任せて川を下って行く
そして、3つ目の大きな車道橋を越えると、
川岸にズラリとテトラポッドが並び始め.....
一行は、ついに『ワクワクポート』に
到着したのだった
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テトラポッドの突起にロープを引っ掛けて、
川を流れるボートを止める。
やがて、モーターボートはしっかりと
岸に固定された。
その後、暗視望遠鏡を持ったむけぞうが動いた
四つん這いになって慎重にテトラポッドを渡り、
防波堤の天辺からヒョイっと頭を出す。
他の者たちはモーターボートで待機している。
むけぞうは、全員に分かるように
状況を説明した
「ふむ、場所はドンピシャだ、流石だね。
ここは港の岸辺に程近く、
要するに港から見た場合だと、
海に向かって伸びた防波堤の根本辺りになる
防波堤の内側は船着き場になっているから
一段と低くなっていて、
段差は俺の身長くらいの高さかな?
すぐ眼下に『沈没船』がある」
ドライスーツを着て全身黒ずくめのむけぞうは、
まるで本職の忍者のようだった。
そして、続けて言った
「海を渡って、約100メートル先に
『浮桟橋』がある。
こちらから見て、浮桟橋を挟んで反対側に
『海賊船』が係留されている。
海賊船は、窓から明かりが漏れていて、
船首を陸側に、船尾を海に向けている状態だ
つまり、俺には
海賊船の横っ腹が見えてるわけ
浮桟橋からは、屋根なしの渡り廊下が伸びて
『ワクワクポート』の建物に続いている。
建物には明かりが灯っていない....」
そして、”暗視望遠鏡”で海賊船を眺めた
それは、
微弱な光を増幅させるタイプの望遠鏡で、
画像は全体が緑色に見える。
船首と船尾のデッキに見張りが一人づつ居る
むけぞうは、ざっと全体を確認してから言った
「さて、海賊船の状況を。
まずは、船首のデッキに見張りが1名。
奴は陸側のほうを向いている。
それも、俺たちが居る川のほうではなく、
反対側のほうだ。
ムケチン作戦本部の見立て通り、
人型が侵入するとしたらそちら側から
来るだろうから、
やはり人型を警戒しているんだろう」
そして、
船首から徐々に船尾に視線を移動させる。
「ブリッジは準2階建てで、
操舵室が一番高くなっている。
大きな窓があって、そこから1名見える
多分椅子に座っていて、
恐らくは”ノートパソコン”をいじっている。
....ふふふ、ベリーグッドです!」
むけぞうは、口元をニヤリとさせたまま
さらに船尾のほうに視線を移動させた
「さて、ブリッジから1mほど低くなって、
そのまま上部構造物、つまり船室?...が、
船尾まで伸びている。
船尾には見張りが1名居るが、
奴は、船室の屋根にあたる上部デッキに居る。
この高さからだと見晴らしはいいだろうが、
奴は、ずっと外海のほうを向いているな」
ふと、ジジイの声が言った
「こう言っちゃあなんだが....
サブジジイの特攻のおかげだ。
海賊共にとって、
島の残党は抵抗する武器も持たず、
苦し紛れに特攻してきた無力な者たち
なのだろう。
だから、すっかりと俺達を舐め切っている
こうやって、この場所から
こっそりと侵入される事態を、
全く想定していないんだ」
ヨッシーは頷いた
(サブジジイの犠牲を絶対に無駄にはしない)
ウェットスーツを着たリナとリサとスミレが、
ソワソワと待っている。
そして、むけぞうが片手をこちらに伸ばして
振った
「よし、美月姉妹の出撃だ!」
リナとリサがモーターボートから降りた。
全身タイツのような黒色のウェットスーツに
頭にもすっぽりとフードを被っている。
まるで、戦隊モノの雑魚戦闘員の姿だが、
2人は雑魚ではなく、
オリンピックレベルの”水泳選手”なのだ
リナとリサは、テトラポッドを登って
ついに、防波堤の天辺を乗り越えた
むけぞうが即座に言う
「次、スミレちゃんとヨッシー君!!」
ヨッシーは、モーターボートから
テトラポッドに乗り移った。
難なく円柱形の突起たちをよじ登り、
すぐに防波堤の天辺にたどり着く
すでに、”ニーチェ的超人モード”が
ビンビンと発動している
活性化した脳が、
目に入った光景を一瞬にして処理する
目の前には、ワクワクポートと海賊船、
見張りの2人の姿も認める
「いや、それはまだ後だ、まずは...」
すぐ近くに沈没船、リナとリサはすでに
海中に入っている。
黒いフードを被った頭部が二つ、海面から
ニョキっと突き出していた
ヨッシーは、素早く後ろ向きになると、
両手で天辺の縁を掴んで段差を降りた。
スミレがすぐに続いて来たので、
降りるのを手伝ってやる.....
ヨッシーとスミレは、素早く沈没船の
影に隠れた。
『沈没船』は、古びた漁船だった
船尾を海底に突っ込み、船首が斜め上方向に
海面からグワンと突き出している。
むけぞうが言った
「それじゃあ、荷物を寄越すぞ!」
むけぞう、ヨッシー、スミレの順に
荷物が手渡しで移動していく。
沈没船の船首の影に次々と積まれていくのは、
防水バッグと火炎放射器のボンベ類だ。
最後に、改造・挿し網の束が渡された
「それじゃあ、スミレちゃん、
挿し網を美月姉妹と一緒に伸ばしてくれ!
これからは、君達の水泳能力が頼りだ」
スミレは、改造・挿し網の束を抱えると、
暗い海の中に入った。
水没している沈没船のブリッジに
足を立たせ、フードを被った頭部だけが
海面から出ている。
そして、リナとリサが、挿し網の片方の端を
2人がかりで引っ張った。
....そう、これから100mを泳いで
網を引っ張っていくのだ
・・・・・・・・・・・・
スミレが、網を次々に送っている
ヨッシーは、突き出した沈没船の船首に
隠れながら、目を凝らしていた
空から星明りが降り注いでいるとはいえ、
それでも海はとても暗く、
リナとリサの姿は全く見えない
頭上には、防波堤の天辺から頭を出して
暗視望遠鏡を目に当てたむけぞう
むけぞうがボツリと呟いた
「50m先、二つの頭が海中から出現した。
ようやく美月姉妹が息継ぎをしたな
本当にスゲエや!」
ヨッシーはニヤリと笑って言った
「当たり前でしょう!リナとリサは、
島ではすでに途絶えていた潜水漁を
二人で復活させたんですよ!」
そう、あの二人の能力に比べれば、
自分に芽生えた”ニーチェ的超人モード”も
全然大したことないように思える
こんなに凄い天才姉妹の、
姉のほうのリナの首を絞めた自分.....
甘美で背徳的な感覚が蘇ってきて、
胸の高鳴りさえ覚えて、
ヨッシーはブンブンと頭を振った
(やっぱり俺って変だ!
どんどんと心が高揚していく....)
.....早くあいつらをぶっ殺したい
.....火炎放射器で焼き尽くしてやる
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そして、ついにリナとリサは、
『浮桟橋』にまで到着した
渡り廊下がある辺りに、
海へと降りる鉄梯子がある。
2人は、そのすぐ側で手を振っている
その姿を、
暗視望遠鏡で見ていたむけぞうが言った
「よっしゃ、美月姉妹が、
鉄梯子に網の端を固定したぞ!
それじゃあ、もう片方の端を固定しよう」
すでに、ヨッシーの側にはジジイが居た。
スミレは、網の端のロープを
沈没船のマストに仮固定していたが、
それを解いた
ロープがジジイに渡される
ヨッシーとジジイは、匍匐前進で
防波堤を進んだ。
目指すは、近くにある船着き用のピット
そこにたどり着くと、ジジイはピットに
ロープを一回巻き付けた。
そして、片足をピットに当てて踏ん張り、
仰向け状態で引き絞った
....渾身の力を込めてロープが引っ張られ、
海面から網がグワンと持ち上がる。
ジジイは、ピットに巻いたロープを足で
踏みつけて押さえた。
ヨッシーは、ロープの残りをさらにピットに
巻いて引き絞り、最後に輪っかを反転させて
締め殺したのだった
こうして、
ついに海中に”通路”が出来たのだった
ヨッシーとジジイが、匍匐前進で
沈没船の所まで戻ると、
すでに他の者たちもそこに集合していた
全員が黒ずくめの忍者のようだ....
むけぞうが言った
「それじゃあ、俺たちは今から海を渡る!
皆、美月姉妹に負けないように!」
さらに、興奮したヨッシーが、
海賊船とワクワクポートに向かって
順番に指を指して言った
「待ってろよ、お前たちの”残り寿命”は、
俺たちが海を渡り切るまでだ!
せいぜい、短い余生を存分に楽しんでろ、
このモンキー野郎どもが!
....いや、モンキーに失礼だな。
そうだ、ゴキブリどもだ。
今から踏み潰してやるぜ、
このゴキブリども!!」
そんなヨッシーの姿を、
大人たちは微妙な表情で見ていたのだった