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大反撃作戦~サイレント・キラー

「グルルル....グルル」「ワンワンッ!!」



犬太郎と犬次郎は、身を低く屈め

牙を剥き出しにして吠え続けている。


ここの川岸はかなり急な傾斜になっていて、

釣り人用の小道が頭上の鉄道橋まで続いている。

犬たちの目線は、傾斜の上を向いていた


やがて、やはりと言うべきか、

”腐敗臭”が漂い始めた。


その不快な匂いの成分は、

一般的な腐敗菌が作る物質とは

異なっているらしい。

しかし、人間の本能はそれを危険だと判断し、

腐敗臭として認識するのだ


ジジイが子供たちに言った



「皆、『おとこ丸』に乗り込むんだ!


 カズヤは操舵室に行って、

 船をすぐ出せるようにしておけ。

 他の者はロープを外す準備を

 

 ヨッシーとリナとリサとスミレは

 『つぎはぎ丸』だ。

 マッシュルーム氏も同じく!」



コンクリート土台に残っている人間は、

ジジイとウメさんとむけぞうだけになった。

他に、穴あきバケツの焚火と

空いた皿やカップが残されている。


2匹の犬たちは吠えるのを止めて、

土台の隅っこに退散しはじめた


ヨッシー以外の子供たちは、

漂ってくる腐敗臭に恐慌している。



「皆、大丈夫だよ!

 ウメさんの強さは俺が全力で保障する。


 むけぞうさんだって、分岐駅の町で

 何十体と人型を倒している。

 二人が居るからその必要もないだろうが、

 ジジイと俺たちも銃を持ってるしな」



ヨッシーは全く恐れていなかった。


すでに、自身も人型を多数倒しているし、

むしろ、ちんかわむけぞうの実力を見たくて

ウズウズしているくらいだ



....と、唐突に、傾斜の天辺に

人の形のシルエットが姿を現した



「おーーーい、撃たないでくれーーー

 俺だーーヤングジジイだーーーー


 すまねえーーー

 客人たちを連れてきちまったーー


 途中でバッタリと出くわした――」



そう言いつつ、LED照明に照らされた小道を

駆け下りて来るヤングジジイ


フサフサの黒髪に白い髭の、

”新人ユアチューバー”だ。

片手にはバールのようなものを持っている


彼は、ワクワクポートの側の漁協ビルから

この鉄道橋まで、4キロ程を走ってきたのだ


ジジイが言った



「良かった、無時で何よりだ――

 ヤングジジイ、おとこ丸に乗り込んでてくれ


 客人たちは俺らが相手にするからよ」



ヨッシーは軽口を叩いた



「ヤングジジイ、

 念願のユアチューバーになれたからって、

 性犯罪(主に未成年者に対する)は

 ダメだぞ」



ウメさんとむけぞうの間をすり抜け、

ヤングジジイは接岸している船に飛び乗った。


腐敗臭はますます濃厚になっていく.....


そして、ついに数体の人型が姿を現した。


急な傾斜を降りる様は、まるで人間のようだ。

両手を前に出してふらついているわけでも、

ウーウーと唸り声を上げているわけでもない


プリンスとカケルとタケシが悲鳴を上げる



「うわあああ、ヤバい、近くまで来るぞ!!」


「昨日と今日は、

 ワクワクポートに来なかったのに!!」


「あああああ、早く船を出してえええ」



彼等にとって、”遮るものが無い状況”での

人型の接近は初めてなのだ。


ヨッシーは内心思った



(おいおい、うちの女子たちのほうが

 落ち着いてるぜ!


 見ろよ、来たのはたったの3体だぞ。

 俺たちの持つ武器で、

 余裕で対処ができるだろ)



ヨッシーは、レバーアクション銃を、

ジジイは、ポンプアクション式ショットガンを、

リナとリサは、シングルショットガンを、

マッシュルーム眼鏡は、22LRのライフルを、

それぞれ持っている。


最前線のウメさんとむけぞうは、

銃器ではなく刃物を構えている


そして、ヨッシーには例の

『ニーチェ的超人モード』は発動しなかった。

心の中で、ウメさんとむけぞうを

完全に信頼しきっているのだろう。


・・・・・・・・・


ついに、3体の人型が傾斜を降り切った


一旦、その下半身が草むらの中に隠れ、

すぐにコンクリート土台に上がってくる


....まるで普通の人間のような動作だ



「ああああああーもうダメだーーー」


「来たあああああーーー」


「神様ーーー助けて―――」



おとこ丸から、少年たちの情けない悲鳴が

聞こえてくる。

周囲に設置されたLED照明によって、

3体の人型がくっきりと照らされている。

そして、対峙しているウメさんとむけぞうも。


先頭の人型は、ウメさんに向かってきた


ビュウンッ!!


風切り音が聞こえ、ウメさんの持つ魔剣が

一瞬、光を反射して輝く。


バサンッ!!


人型の首が地面に落ちた....


同時に、次の人型がむけぞうの元に向かう


生きた人間を前にした人型は、

力も移動速度も増す。


それでも、むけぞうは動かなかった


片手に柄の長いハンティングナイフを

持ったまま、微動だにしない....


ヨッシーは叫んでしまった



「むけぞうさん!!」



”もう、人型に取りつかれる”

....と思った瞬間、彼は動いた


クルリと身体全体を回転させたむけぞうは、

いつの間にか人型の”背後”に居た。



「え?」



そして、回転の勢いのまま、

がら空きの後頭部にナイフを突き刺した。

そのまま人型自身の勢いを利用して、

突き刺さったナイフを斜め下方向に押す


人型は、見事なまでにバタンッと地面に倒れた


間髪入れずに、

後頭部に突き立ったナイフの柄頭を

足で踏みつける。

踏まれたナイフは、倒れた人型の後頭部に

深々と刺さっていた


隣には、倒れてきた首無しの人型を、

片足のキックで受け止めているウメさん....

そして、

深く沈み込んだナイフのヒルト(鍔)を、

足先で蹴りあげるむけぞう.....


蹴りあげられたナイフは真上に飛んで、

むけぞうはそれをキャッチした。

すでに目線は、次の人型に向いている


すさまじい速度で、しかも正確極まりなく、

3体目の人型の左目にナイフが突き刺さる。


むけぞうは、柄を握った右手を離した。

同時に、内側に凹んだ柄頭に

左手のパンチを繰り出した。


強力な左ストレートによって、ナイフは

人型の頭部に深々と突き刺さったのだった


ヨッシーの中には高揚感が湧きだしていた



「まるで、アクション映画のワンシーンだぜ!

 おったまげたな....

 ウメさんも凄いけど、

 流石はリバーサイド同盟の英雄だ....」



ウメさんが首無しを蹴り倒すのと、

むけぞうが刺さったナイフを抜いたのは

同時だった。


本当に、一瞬にして片が付いた


いつの間にか、ヤングジジイがヨッシーの

隣に来ていた



「なあ、若いの....

 お前さんは一体何者なんだね?」



まあ、ウメさんは

佇まいや持っている武器からして

見るからに強そうだ。


しかし、むけぞうは一見、

ごく普通の気の良さそうなお兄ちゃんなのだ




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