大反撃作戦~お手並み拝見
川岸に突き出た広いコンクリート土台では、
焚火を囲んだ子供たちと犬たちが
くつろいでいた。
土台の奥からは、鉄道橋の脚である鉄骨が
上に向かって伸びている。
その鉄骨の両端からは、
『つぎはぎ丸』を係留するロープが
”ハの字型”に伸びていて、そのハの内側は
広いくつろぎ空間になっているのだ。
さらに、設置されたLED照明のおかげで明るく、
川岸でバーベキューでもするリア充のような
趣だった。
3馬鹿少年たちは、早くも自分のケーキを
ガツガツと食べつくしていた。
バイカースタイルにセミロングの髪、
切れ長の目のリナが、
自分のフルーツケーキを割った。
それを、”1個年下”のタケシに恵んでやる
タケシは仔犬のように目をキラキラとさせて
リナを見つめた
「ちょ、リナねぇ、
マジでスーパーあざっす!!」
「いいよ、私たちはリバーサイド同盟の市で
沢山、美味しいものを食べたからね」
すると、カケルが仔犬のような目で
リサを見つめた。
ロングTシャツにレギンス、
ショートボブの髪にパッチリとした目のリサは、
眉をひそめてカケルに言った
「ねえ、あんたって私たちと
同い年じゃなかった?
もしかして同級生から恵んでもらう気なの?
仔犬アプローチまでして恥ずかしくない?」
そう言いながらも、当てつけのように
自分のフルーツケーキを割って、タケシにやる
「うおおおお、超グレートスーパーあざっす!
リナねぇもリサねぇも、女神っすよ」
しかし、1個年上のユッキーが
自分のフルーツケーキを割って、
悲し気なカケルに恵んでやった
仔犬の目になって、ユッキーを見るカケル
「やっぱり女神と言えば我らがユッキーだよね」
「ほんと、私ら島の女たちってさ、
男どもに甘いよね。
それにしても、マジでこのケーキ美味いわ!
生地の練り込み具合、ドライフルーツの配置、
抜群のセンスを感じるね
ヤキタコだっけ?一度会って、
料理を教えてもらいたいくらいだわ」
漁港の王子様ことプリンスが相槌を打った
「俺の家はね、親父が個人輸入とかやってて、
本場ロサンゼルスから
食品を仕入れてたんだけどさ。
本場の味を知ってる俺からしたら、
まあ...普通よりは上って感じかな....」
そして、他の子供たちと違って
ミルクも砂糖も入れてないブラック珈琲を
飲むのだった。
しかし、誰も彼がブラックを飲んでることなぞ、
気が付いてもいなかったし興味も無かった.....
3馬鹿少年の最年長のカズヤは、
流石に乞食をすることは無かった。
スミレと共に、2匹の犬たちに
水を加えたヤキタコ・ブロックを
食べさせてあげている
「キュウウン」「キュンキュンッ」
胡麻毛の犬太郎と白毛の犬次郎は、
すでに神社で食べ物をたらふくもらっていた。
それでも、尻尾をブンブンと振りながら、
一心不乱にヤキタコ・ブロックを食べている
.....と、『つぎはぎ丸』の中から、
リバーサイド同盟組の3人が出てきた
ウメさんが、子供たちを見渡して微笑んだ
「どう?うちのヤキタコが作った携帯食、
なかなか美味しいでしょう。
皆、少しは気分が落ち着いたかな?」
ユッキーが言う
「あ、ウメさん、本当に美味しかったです、
御馳走様でした!
おかげ様で、皆もすっかりと
気分が良くなりましたから!
それと、みなさんの分は
私がちゃんと守ってますよ!
ご苦労様です、ささ、どうぞ」
ユッキーとリナとリサとスミレの女性陣は、
即座に動いたのだった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やがて、ジジイと、少し遅れてヨッシーが
出てきた。
2人の元に、皿に盛ったフルーツケーキと
カップに入ったヤキタ粉・珈琲を持って、
少女たちが集結する
ユッキーは、ジジイに
大皿に載せたケーキと珈琲を渡しながら問うた
「ね、ねえジジイ、
サブジジイとヤングジジイはどうしたの?
2人とも無事なの?」
リバーサイド同盟組と違って、ジジイは
感情を隠すのが苦手だった。
「あ、ああ、そうだな....
ヤングジジイは無事で、
こちらに向かっているところだ。
サブジジイは....
.......
サブジジイは、実は行方不明なんだ」
ジジイの表情を見て、
ユッキーは悟ったのだろう。
俯いて言った
「分かった、うん、
きっとサブジジイも無事だよね.....」
そして、それ以上は聞いてこなかった。
やがて、ヨッシーの周りにも、
リナ、リサ、スミレ、の3人が群がってきた。
リサが、恐る恐るケーキと珈琲の載った皿を
差し出しながら言った
「ね、ねえヨッシー....ものすごく怖い顔だよ。
どうしたの?
いや、ワクワクポートが襲撃されたのは
分かっているけどさ」
リナが言った
「全く...ジジイも、あんたも、
感情を隠すのが下手だね。
いい、私たちだって、
ムケチン作戦のメンバーなんだからね!
忘れちゃダメだよ」
スミレが続けて言う
「そう、だから自分たちだけで
抱え込もうとしない事!
あっ、にぃ、お皿の隅を良く見てごらん。
ケーキに隠れて、
砂糖と粉ミルクの入った袋が
....ってそのまま飲んだよ」
ヨッシーは、無言でブラック珈琲を飲み、
フルーツケーキを頬ばった。
しばらく無言だったが、
ようやく少女たちに言った
「とりあえず、ムケチン作戦本部にも連絡して、
これからの事を練り直さないといけない」
そして、あえて
大袈裟なリアクションをしながら言った
「うおおっ、この珈琲とフルーツケーキ、
マジでうめえな!
流石はヤキタコ氏だぜ」
さらに、皿を地面に下ろすと、
リナとリサとスミレの前で両手を大きく広げた
そして、ふいに、
ガバッと3人をまとめて抱きしめるヨッシー
「もちろん、君達も頼りにしているさ!」
しかし、ヨッシーの思惑とは裏腹に、
3人の少女たちは
ヨッシーを”抱きしめ返した”のだった
「え?え?、思っていたリアクションと違う」
3人をあえて怒らせて、
1人になりたかったヨッシーは狼狽した。
少女たちのぬくもりがヨッシーを包み込む....
こう、色々と柔らかい部分が彼を贅沢に圧迫し、
トリプルのいい香りが鼻孔をくすぐる。
下半身に集まろうとするエネルギーを
振り切るべく、ヨッシーは言った
「そうだな、俺は決して一人じゃないんだ。
いや、1人で何かが出来るなんて、
思い上がりもいい所だ」
そして、リナとリサとスミレを、
”抱きしめ返し返した”のだった。
ユッキーはヤレヤレ風に肩をすくめている。
3馬鹿少年たちはニヤニヤ笑い。
大人たちは真剣に話し合っている。
2匹の犬達は一心不乱に食べている。
そして、プリンスが立ち上がった。
軽くウェーブの掛かったロン毛を左右で分けた
漁港の王子様は、
羨望の眼差しをヨッシーに向けていた
「このチート野郎め!!!!!」
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15分ほど過ぎた頃......
くつろいでいた犬太郎と犬次郎が、唐突に
立ち上がる
「グルルル....ワンワンッ」
「ワンワンワンッ」
急に姿勢を低くして牙を剥き出しにする犬たち。
神社での事が思い出され、
ヨッシーはすぐに悟った
「皆、今から人型が襲来してくるからな!」
そして、背負ったレバーアクションライフルを
取り出す。
ヨッシー以外の子供たちは慌てている
しかし、リナとリサが立ち直って、
同じく背負ったシングルショットガンを
取り出した
そう、やはりここは外界なのだ。
放浪型の人型がいつ襲撃してくるか
分からないのだ。
すると、ウメさんとむけぞうが子供たちの前に
歩み出した
ウメさんが言った
「銃声が、4キロ先のワクワクポートに
届くことは無いと思うけど。
でも、今回は私とちんかわ君の予行演習ね。
”サイレント・キル”で倒すわよ」
そして、腰に差した軍刀を抜く
それは、戦時中に量産された『95式軍刀』、
その中でも超優良個体で、
”魔剣”と呼ばれている。
刃渡りは約68センチほど、鍔と柄も金属製だ。
日本刀を模した形状ながらも、全金属製の
その軍刀は、
いかにもな殺人兵器と言った存在感を
醸し出していた
「まあ、俺はウメさんのように優雅には
出来ないけれども。
了解、サイレント・キルだね」
ウメさんの隣のちんかわむけぞうも、
腰に差したハンティングナイフを抜く。
特に変哲もないステンレス製のナイフは、
止め刺し用の真っすぐな刃だ。
刃渡りは約20センチ程で、柄が長く、
柄頭が僅かに内側に凹んでいる。
ウメさんの堂々たる魔剣に比べれば、
さすがに見劣りするが......
しかし、ヨッシーは思った
(ちんかわむけぞう、リバーサイド同盟の英雄
ようやく、この人の実力を
この目で見ることができるのか?)