大反撃作戦~宣言
『ヤングジジイ・チャンネル』では、
白い髭とフサフサの黒髪のヤングジジイが
生配信をしていた。
「ここは漁協ビルだからな。
ほらっ、職員たちの机が並んでいるだろ?
きっとお目当ての物が見つかるはず.....」
おそらく、スマホを棚か何かに
立て掛けているのだろう。
ヨッシーたちが見ているのは、
ライオンのような黒髪の後ろ姿だ。
片手にはバールのようなものを持っている
(まるで、ワイルドな稲〇淳〇氏みたいだ)
真っ暗な廃墟ビル内をウロウロする後ろ姿は、
とても不気味だった。
まるで、一端の心霊系ユアチューバーみたいだ
ヤングジジイは、並んだ机の前に座り込んだ。
照明は窓から入る星明りのみ、
ほとんど手探りで机の中をゴソゴソする
「おっと、やっぱりあったぞ、
ガムテープを見つけた!!」
急いでスマホのほうへ駆け寄り、
発見したガムテープを掲げるヤングジジイ
以外と配信者適性があるなとヨッシーは思った
やがて、ヤングジジイは、
ガムテープを使って
うまく窓枠にスマホを張り付けた
こうして、ついに5人はワクワクポートの
光景を見ることが出来た
・・・・・・・・・・
一番奥には、浮桟橋に繋がれた海賊船。
ずんぐりとした船体に、中央部のブリッジを
船尾まで伸ばしたような不格好な船だ。
船内灯が付いている為に明るく、
甲板とブリッジ内に人影が見える
そして、浮桟橋から渡り廊下を経て、
2階建てのワクワクポート。
半分が海に突き出したような前衛的な建物だ。
その2階の窓からは、照明の光が漏れていた
ヤングジジイのナレーションが聞こえる
「ついさっき、何人かが
食料や酒瓶らしきものを持って、
ワクワクポートの中に入って行ったろ?
スマホが音を拾っていないかもしれんが、
俺には、かすかに馬鹿笑いや騒ぎ声が
聞こえている
多分、2階でドンちゃん騒ぎを
しているのだろうな
あそこのほうが、あの汚いオンボロ船よりも
はるかに居心地がいいはずだ。
さらに、
グルメのユッキーが作った料理もある
味噌鍋や、魚の燻製などだ
クソ、逃げ出す前に、
中にフグ毒でも入れてやれば良かった!!」
一番手前には、外灯のポールがあった。
そこに吊るされた死体は、
画面の下で見切れている
夜間な上に映像は低画質モードなので、
知らない人間には
それが何なのかは分からないだろう。
しかし、5人にとっては見るに堪えず、
まるで腸が煮えくり返る思いにさせる
ジジイは、無感情な声で言った
「スマホはこの位置でオッケーだ。
これで、ワクワクポートの全体が監視できる
それにしても、奴らが
あそこに留まっている理由は何だろう?」
皆のスマホから、
ヤングジジイの応答が聞こえた
「2階で呑気に酒盛りをやってることからして、
明日の朝に何かを始めるんだろう。
俺の推測だが、もしかしたら、
このワクワクポートを
徹底的に破壊するつもりなのかも.....」
ジジイが言った
「ああ、俺もなんだかそんな予感がしている。
日中のビーグルマップで、あそこに
島の人間の残党が集結していたことは
知っているだろうから、
それを出来なくさせる為と....
それともう一つ、
奴らは、島のインフラを進んで
ぶっ壊しているように見えるんだ。
島の人間が生活を継続していくための手段を、
根こそぎ奪っているからな。
ワクワクポートだって、
人型の侵入を防ぐ理想的な港湾で、
島の人間にとって役に立つ施設だ....
つまり...
本当は、奴らの目的は略奪品ではなく....
島の人間を徹底的に無力化して、自分達に
依存するしかない状態にして....」
途中で言葉が詰まったジジイに代わって、
ヤングジジイが言った
「ああ、略奪品なんてモンはほんのおまけで、
島の人間を”奴隷”にするのが
真の目的かもな....
もう、自活手段が何も無くなったら、
自らを奴隷に貶めても
海賊共にすがるしかなくなるだろう
あの鬼畜どもは、その方法で
小さなコミュニティーから奴隷を手に入れて、
どこかで売り捌いているのかもな」
ヨッシーはブルブルと震えて拳を握り締めた
「反吐が出る連中だぜ!
ああ、確かに武力でマトモに戦うよりも、
相手を心理的に参らせたほうが効率がいい。
心が折れた人間は、もう立ち向かう気力も
無くして、自ら進んで奴隷になるのだろう。
クソが、絶対にそんなことはさせない!!」
すると、マッシュルーム眼鏡の技術者が
口を挟んだ。
操舵室の他の4人にだけ聞こえる声量で
静かに言う
「今の段階では、
我々は推測する事しかできない
でも、もしかしたらこれは、
奴らの情報を暴くチャンスかもしれないんだ
小島さん、覚えていますか?
”ホルガーダンスク・クラブ”と、
”宝堂慎太郎氏”のことを」
ジジイは、右手でロングコートのポケットを
まさぐった。
そして、小さく透明なプラケースを取り出す
中に入っているのは、”USBメモリーカード”
スマホやPCに差し込めるように、
多種類のプラグが付いたカートリッジに
納められている。
ジジイが言った
「確か、海賊のスマホかパソにこいつを
挿し込む事が、
彼がムケチン作戦に参加する条件だったな」
ジジイが掲げるUSBメモリーカードを
見ながら、ヨッシーも思い出していた
興奮するとチ〇チ〇を出すという、
とてもハンサムな男.....
そして、マッシュルーム眼鏡がチャンスと
言ったということは......
「つまり、俺たちはワクワクポートを
襲撃し返すってことですね!
そして、海賊どものパソかスマホを
手に入れると....
ええ、実は俺もそう思っていました。
見方を変えると、
あの海賊共は飛んで火に入る何たらですよ。
これはチャンスでもあるんです!!」
ジジイが言った
「おいおい、落ち着けヨッシー
映画とかアニメに出てくるヒーローや
特殊部隊じゃないんだ!
軍用銃で武装した13人以上の集団を、
簡単に襲撃できるもんじゃねえ」
しかし、マッシュルーム眼鏡が言った
「いいえ、我々には”ちんかわ氏”と
”ウメさん”が居ますよ。
やり方によっては、十分に襲撃は可能です
それも、敵が島に残った仲間に
知らせないように、
”サイレント・キル”でやるんです」
ジジイとヨッシーは、むけぞうとウメさんを
見つめた
2人とも、マイスマホを見ながら
真剣な面持ちで考えに耽っている
濃紺色の警察の出動服に、
腰に軍刀と拳銃を差したウメさん
その実力は、証明済みだ
そして、白装束にヘルメット、ステンもどきの
サブマシンガンを背負い、腰に
ハンティングナイフと拳銃を差したむけぞう
ヨッシーの思いを察してか、
ウメさんが頭を上げて言った
「言っておくけど、ちんかわ君は確実に
私よりも強いわよ
”リバーサイド同盟の英雄”の称号は
伊達じゃないからね」
むけぞうは、ハッと頭を上げると微笑んだ
「あ、ああ、もちろん皆の力が必用だけど、
俺もやることはちゃんとやるさ」
と、ふいに5人のスマホから
ヤングジジイの声が聞こえた
「おいおい、ワクワクポートを
襲撃するってか!
おもしれえ、やろうぜ!
それと、俺の『おとこ丸』に、
2基の”火炎放射器”を積んでることも
忘れずにな」
どうやら、いつの間にか
声が大きくなってきていたらしい。
それにしても、2人の折り紙付きの強者に
2基の火炎放射器.....やれるかもしれない
ジジイが言った
「ヤングジジイ、とりあえず鉄道橋まで来て、
皆と合流するんだ!!
この後に及んで、海賊共に見つかるなよ。
それと、人型が来る可能性があるな.....
俺がボートで迎えに来ようか?」
しかし、ヤングジジイが答えた
「いや、大丈夫だ!!
老いたとはいえ、俺の俊足は知ってるだろ?
お前さん方は、これから色々と準備やら
考えることやらで大変だからな、
手を煩わせんよ!
んじゃあ、
スカイプ通話を切って出発すっわ」
ポォンッと、スカイプ終了の音が鳴る
ジジイは毒づいた
「クソ、相変わらずせっかちな野郎だ」
そして、ウメさんが皆を見渡して締めた
「総一郎さんもヨッシー君も....
大砲の積み込みを終えてから、
少しも休んでないでしょう?
せめて、ヤキタ粉で作った珈琲でも
飲んでくださいな。
ヤングジジイ氏がおっしゃったように、
これから、色々とやることや
考えることがあるんですから」
とりあえず、この操舵室を作戦会議室に決めて、
皆は一息つくことになった。
ジジイは、舵の上のスタンドに
マイスマホをセットした
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ヨッシーは、最後に操舵室を後にした
スタンドに置いたままのスマホを一瞥する
流れている映像に向けて腕を伸ばし、
さらに人差し指を突き出した。
生配信中のヤングジジイ・チャンネルは、
海賊船とワクワクポートを映している。
そして、外灯に吊り下げられた死体も.....
海賊船には人影が見え、
ワクワクポートの2階には明かりが灯っている
ヨッシーは、それらに向けてじっと指さした。
そして”宣言”したのだった。
.....それは、
15歳の少年が言うべきではない悲しい言葉だ
しかし、構わずにこう言った
「俺達は今日、色々と準備をしていた。
島の仲間達だけじゃなく、
リバーサイド同盟の人たちも協力してくれて、
驚くべきことを成し遂げたんだ。
知らなかったろ?
”それも、全てはお前等を殺すためだ!”
いいか、”皆殺し”だ、
俺は一切の慈悲を与えない.....
じっくりと苦しみながら死ぬといい」
ヨッシーのこすからい鋭い目は、
今や恐るべき殺気が籠っていた。
そして、淡々と続けて言う
「お前等は、改心する必要も
許しを請う必要もないし、
それを求められてもいない。
なぜなら、お前等は全員、俺が殺すからだ
.....皆殺しにする
俺の全てを賭けてでも、
絶対にやり遂げるからな....」