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プリンス

子供たちは2階へと上がっていった。

しかし、ジジイは1階に残り、

かつて売店だった窪み部屋に向かった


壁には巨大な”チョコボール”のポスター、

残念ながら下半分が茶色く汚れている。

この県にこの菓子を製造する工場が出来てから、

森〇製菓のプッシュが凄かったのだ


しかし、チョコボールは今や別の意味で

生存者たちの深いシンボルに

なってしまっている


まあ、それはいいとして....


売店の壁には、背の高い空の棚が

並べられている場所があった。

ジジイは、棚の一つを抱えるようにして

動かした。

すると、奥まで続く空間が出現した



ジジイは独り言をつぶやいた



「俺たち島の人間の切り札の一つだ。

 もしも、子供たちに手を出してみろ、

 船で特攻してでも

 お前たちを焼き尽くしてやるぜ」



その空間は、実は、

かつて冷蔵庫があった場所で、

こうして棚でカモフラージュしていたのだ


そして、今は冷蔵庫の代わりに

何やら奇妙なものが2台並べて置いてあった。

それは、縦長の台車に載せられていて、

ボンベやらホースやらでゴチャゴチャしていた


こうして、ジジイは、

『火炎放射器』を載せた2台の台車を

取り出したのだった



・・・・・・・・



その頃、ヨッシーとリナとリサは2階の窓から

漁港町を眺めていた



ヨッシーはブツブツとつぶやいていた



「あそこに見える第一の橋、

 背の高い大型の船舶でも十分に通れる高さだ。

 多分、第二と第三の橋に、鉄道橋までは、

 あのボフォース砲の船でも

 下を通り過ぎることが出来ると思うんだ

 

 ただ、ジジイが言った通り、例え満潮で

 川の水深が少し深くなっていたとしても、

 喫水が深いあの船では

 第二の橋くらいまでが限界だと思う。

 

 残りの2隻、漁船と水上交通船はどうかな?

 ブリッジが一階建てだったから、

 所々にある橋の下は通ることが出来そうだけど

 やはり水深的に、上流まで

 「つぎはぎ丸」を追うことはできまい

 

 ただ、さっき俺が言った通り、

 相手が小型船で追ってきたら

 どうするつもりなのだろう?」



ヨッシーは自分なりに

脳内シュミレーションをしているのだ。

「つぎはぎ丸」は、マストを取り外せば

かなり背が低くなり、所々に掛かる橋の下は

通れるだろう。

喫水も浅いので、川のかなり上流まで

行けるはずだ。

船の通行を妨げる堰も、途中にはないはず



....そして、あの川を遡ったところにあるのは



(もしかしてジジイ、考えているのか?)



しかし、ヨッシーの眼前に広がるのは、

壊滅した故郷の町の風景だ。

隣では、リナとリサが息を飲んでその風景を

見つめている



(そう、3年前の大洪水は、

 この町を壊滅させただけでなく、

 島にもゾンビパンデミックを持ち込んだ


 『リバーサイド同盟』は、


 島の人たちから憎まれている)



「わくわくポート」の建物のすぐ側には、

流されてきた家や家具やらの残骸がある。


陸側の入り口は、鉄柵のシャッターで

閉められているし、人型の気配も全くない


ヨッシーは思考を続ける



(でも、リバーサイド同盟の連中も

 生きるためにやったことなんだ....

 俺達に、こう言う権利はあるのか?

 

 ”我々に迷惑を掛けるのなら、

  お前ら死んでくれ” ....と)



ふいに、

浮桟橋に接岸された「つぎはぎ丸」から

短い汽笛の音が聞こえた


とっさに、海側の窓に走る3人


窓から外を見ると、沖のほうから

「つぎはぎ丸」と同型の船が1隻、

こちらにやってくるのが見えた



////////////////////////////////////////////



2階にやってきたのは、

やはり、プリンスとユッキーだった。


さらに、スミレもついてきている


窓から外を見ると、

浮桟橋に接岸された2隻の船の側で

ジジイが2人で話し込んでいる。

船の番をする必要がなくなり、ここに

来たのだろう


スミレがプリンスにチクっている



「さっき、リナねぇがね、ここのうどんは

 原始人の食べ物だってディスってたんだよ」



漁港の王子様こと、プリンス....


ヨッシーとリナとリサと同い年の15歳


ウェーブのかかったロン毛をセンター分けした

嫌味な外見だ


そして、プリンスは

流し目でリナのほうを一瞥した後、

即座に地元組を裏切った



「だよね、やっぱり

 海の見えるバスターでヒーコーが

 サイコーだっつの!

 リナが全面的に正しくてお前らが

 間違ってる!」



即座に業界用語を使いこなすプリンスに

ヨッシーは歯ぎしりした


このプリンスという男がどういう人物なのか?


それを知るために、このエピソードを語ろう



/////////////////////////////////////////


彼は、漁港町の水産加工場の跡取り息子だ。

そして、小学校の時の作文にこう書いた


....僕は、会社を継いだら絶対にやりたいのが

グローバルな視点を持った製品づくりです。

ワールドワイドなニーズに応えるためにも、

トレンドをいち早く取り入れ、フレキシブな

会社づくりを目指します。

例えば、アメリカでは......


///////////////////////////////////////////



しかし、ヨッシーの年頃では、

業界用語や横文字を使いこなすプリンスは

悔しいながらもかっこよく見えてしまうのだ


...だが、少しふくよかな体型のユッキーを

はじめとした女子たちは、怪訝そうな顔で

プリンスを見ていたのだった




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