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ムケチン作戦~皆殺しの欲求

その頃....ヨッシーは、モーターボートを

操作していた。

コンクリート土台には『つぎはぎ丸』が

接岸しており、

さらにその隣に『おとこ丸』が繋がれている。


ヨッシーは、2隻の機帆船の後ろへ回った


それぞれの船尾には、3馬鹿少年たちが

待ち受けてくれていた。


コンクリート土台に集まって

何やら話している他の面々を後目に、

カズヤとタケシとカケルは、ロープで

モーターボートを係留してくれた。


結局、モーターボートは

『つぎはぎ丸』と『おとこ丸』のケツに、

横向きに係留されたのだった。


カズヤが軽く手を上げてヨッシーに話しかける



「うっし、ヨッシー、小奇麗なナリだな!

 それに、背負ってるのって銃か?

 むむっ、

 腰にはイカしたナイフも差してるな」



タケシとカケルが言った



「ええー、ヨッシーにぃ~

 ピストルだけじゃなくて

 新しいのも手に入れたの?流石っすね」



「実銃かよスゲー、

 ちょっとだけ触らせてくれよー」



丸坊主でジャガイモ頭のカズヤが、

ヨッシーに顔を近づけて言った



「なあ、その服も武器も、

リバーサイド同盟で手に入れたんだろ?

 あそこ、どうだった?

 いろいろと聞かせてくれよな!」



しかしヨッシーは答えた



「皆、係留を手伝ってくれてありがとう....


 まあ、いろいろと

 積もる話をしてやりたいのは山々だけど、

 それどころじゃないんだろ?」



3馬鹿少年たちは一斉にハッとなった



「そうだそうだ、大変なんだ!」


「ワクワクポートが襲われた!

 銃声が聞こえて、本当に怖かったよ」


「でも、サブジジイはワクワクポートに残って、

 ヤングジジイも途中でこの船を降りたんだ」



ヨッシーは、3馬鹿少年たちと共に

コンクリート土台へ向かったのだった



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「これはね、ヤキタコの淹れる特製ブレンドを

 前線勤務の人たちにも味わえるように、

 我々のリーダーが開発させたヤツでね


 その名も”ヤキタ


 そして、ヤキタコ・トロピカルシリーズの 

 最高傑作と言われる”フルーツケーキ”よ。

 バターケーキにドライフルーツを入れた、

 クラシカルなタイプね。

 ちなみに、フルーツは温室栽培で

 作られているのよ。


 この種のケーキは、カロリーと保存性が高く、

 昔から極地探検や登山に愛用されていてね。

 南極で、100年前のフルーツケーキが

 見つかったニュースを覚えてる?」



警察の出動服に腰に差した軍刀と拳銃、

白髪の長髪を後ろで結んだウメさん


彼女の存在感は、初対面の子供たちをも

安心させるものがあった


ウメさんの前には即席のコンロ、そして

合計9人もの子供たちが座り込んでいる。

犬太郎と犬次郎も、シレっと子供たちに

混じっていた。

穴あきバケツに薪をくべた即席コンロは、

金網の蓋が被せてあり、その上に

ヤカンを置いてお湯を沸かしている。


少しふくよかな少女ユッキーは、

箱に入った長方形のフルーツケーキを

小皿に切り分けていた。

そして、すぐ側で皿を並べているリナに言った



「ねえ、今更だけど、

 3人とも随分とナウい服を着てるわね。


 それに、リナちゃんとリサちゃんが

 背負ってるのって鉄砲でしょ?

 やっぱり、リバーサイド同盟で

 手に入れたモノなんでしょ?」



バイカースタイルに単発式ショットガンを

背負ったリナが答えた



「そうだよ....もう知ってると思うけど、

 私達はリバーサイド同盟の協力を得ることに

 成功したんだよ。


 一応、ミヤモト氏がチョコボーラーの所に

 行って交渉しているけど、

 ムケチン作戦でいち早く海賊どもを

 追い払うことになりそうね」



ユッキーは下を向いて

フルーツケーキを切りながら言った



「島の人たちは、大洪水の件で

 リバーサイド同盟を嫌っているけど.....


正直、私も警戒してないって言えば

 ウソになる。

 ....でも、ウメさんは元より、他の二人も

 見た目はとても好感が持てる感じだわ


 ぶっちゃけ、アクの強い島の連中よりも、

 はるかにマトモな人たちに見えるわね」



リナが言った



「当たり前じゃない。

 リバーサイド同盟の人たちって、元々は、

 上流の市で普通に暮らしていた一般市民だよ


 私達が勝手に、怪物的なイメージを

 膨らませていただけで」



ユッキーが言った



「そうだね....そういえば、

 さっきからウメさんが言ってるヤキタコって

 一体、誰なの?」



「ん、タコ焼きみたいなおっさん」



「??」



ウメさんは、小袋に入ったヤキタ

バッグから取り出している。

そして、スミレとリサが、

人数分のカップを並べていた


3馬鹿少年とプリンスとヨッシーは、

スミレのショートパンツの尻の部分の、

わざとらしく裂けた部位を眺めていた


スミレは、少年たちに後ろ姿を見せたまま

少し前屈みになっているのだ。


2匹の犬たちは、お行儀よくお座りをしている



すると、ジジイが”マイスマホ”を片手に、

足早に『つぎはぎ丸』に入っていった。


目敏く気が付いたヨッシーが、

スクッと立ち上がってジジイの後を追う


『つぎはぎ丸』のブリッジ内の操舵室に

ヨッシーとジジイが入った


ジジイが言う



「ヤングジジイから連絡が入った。

 今から、奴と通話をするぜ」



ふいに、ドアが開いた


ちんかわむけぞうとマッシュルーム眼鏡に

ウメさんの、”リバーサイド同盟組”の3人が

入ってきたのだ。


ジジイは、4人を眺め回すと頷いた


そして、スマホをスピーカーモードにして

通話を始めたのだった



「こちらジジイ、聞こえるか?」



ジジイの持つマイスマホから、

ヤングジジイの声が聞こえる



「ああ、ヤングジジイだ....


 俺は今、ワクワクポートを見下ろす建物の

 3階にいる。

 ”漁協ビル”だ、知ってるだろ?


 とりあえず現状を言うぜ


 サブジジイが言ってたとおり、

 海賊どもの目当てはワクワクポートだった。

 今、ワクワクポートの浮桟橋には、

 1隻の海賊船が接岸している。

 例の、3隻の中では一番小型の、

 ずんぐりとした漁船だ


 ああ....星明りもあるし、

 海賊船も照明を付けているから結構明るい


それで、よく観察してみると、

 海賊船の接岸しているほうの舷が、

 大きく凹んでいるように見えるんだ


 そうだ、サブジジイの最期の根性だ...


サブジジイとの最期の通話の時、

 海賊どもに一泡吹かせると言ってたが。


 多分、『まんぷく丸』を衝突させたんだろう


 あっ!


 このことは、俺だけが自分のスマホで聞いて、

 子供たちには知らせていない。


 でも、あの漁船は鉄鋼船なんだろう。

 木造船を衝突させても、

 沈めるまでには至らなかったらしい、

 クソったれが!


 おっと、今、ワクワクポートの2階に

 明かりが灯った。

 海賊どもが中に入っているんだ!


 持ってきた携帯照明を置いたんだろう」



そして、しばらくヤングジジイは黙り込んだ



................



ジジイのスマホからは、ガサゴソという

衣擦れ音のようなものが聞こえている



................



操舵室には、5人の緊張感が漂っていた


窓からは、コンクリート土台に設置した

LED照明の光が入ってきていて、

それだけがこの場所の唯一の光源だった


と、沈黙を破って、

再びヤングジジイの声が聞こえた



「海賊船の中から、何かが引きずり出された!!


 んんっ、多分、人間だと思うが

 まるで人形のように動かない....


 クソ、クソが!あれは”サブジジイ”だ!


 なんてこった、サブジジイの死体だ!!」



/////////////////////////////////////////////



ヤングジジイが見たのは、恐るべき光景だった


ワクワクポートの建物のすぐ横には、

外灯のポールが立っている


高さ5メートル程のポールの天辺は

T字型になっていて、

両端に大きな投光器が付いていた。

夜間に外で荷役作業をするための照明だ


海賊どもは、そのポールの周辺に集まってきた


ちなみに、ワクワクポートは

半分が海に突き出したような建物になっていて、

陸側の広い客用出入り口は

鉄格子状のシャッターで閉められている。


しかし、業務用の出入り口があって、

そこは頑丈な鉄製扉だ


海賊どもは、浮桟橋から一旦、建物の中に入り、

業務用の扉を開けてワクワクポートの外に

出ていた。


海賊どもの中の1人が、

ロープをヒョイっと投げてT字の上に跨がせる


....何かを吊るす魂胆だ


他の連中は、持ってきた携帯照明を

周囲に置いた


そして、海賊船の中から引きずり出された死体


数人がかりで乱暴に地面を引っ張られていく


ヤングジジイのスマホを持つ手は震えていた



「ああ、神様....なんてこった」



浮桟橋に係留されている海賊船は

明々と照明を付けている。

なので、遠目からでも引きずられているのが

サブジジイだというのが分かった



///////////////////////////////////////////



やがて、ジジイのスマホからは、

かすかに銃声のようなものと

汚らわしい雄叫びが聞こえてきた


ヤングジジイの涙声が言う



「なんでこんな事をするんだ.....


俺には全く理解が出来ん。

 本当に、本当に汚らわしい文化だ、

 クソ野蛮人めが!!


 いいかジジイ、

 子供たちにはまだ言わないでくれ」



ジジイは顔を上げた


まるで氷のような無表情だった


それはヨッシーも全く同じだった


 

(あいつらには、慈悲は全く必要がない)



ヨッシーの中に黒々と巻き起こってきたのは、

”皆殺し”という強い欲求だった






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