ムケチン作戦~ブラコン
「にぃ、早く皆の所へ来てよね!」
そう言って、スミレは再びドアから出て行った。
ヨッシーも操舵室から出ようとしたのだが、
マッシュルーム眼鏡の技術者が
スミレと入れ替わりに入ってきた
「ちょっと、砲弾と大砲の口径の
確認をするから」
技術者はそう言うと、木箱から一発の砲弾を
取り出して再び出て行った。
フロントガラス越しに、技術者が大砲の所で
色々と確認しているのが見える
やがて、彼は再び操舵室の中に戻ってきた
「うん、バッチリだ!
大砲の尾栓の状態も、弾の口径も問題は無い」
そして、両手に持った砲弾をヨッシーに向けて
掲げて見せた。
それは、径120ミリ程、全長300ミリ程の
先端が円錐状になった細長い筒だ。
形状は一般的な現代式の砲弾に見える
しかし、下の部分に
”細い銅の帯”のようなものを巻いている
そして、マッシュルーム眼鏡は怒濤のように
喋り始めた
「君も知っての通り、
この砲弾は、発射薬の薬嚢と共に
砲口から装填するいわゆる”前装式”だ。
あの大砲は、尾栓を操作することは
出来ないからね。
アメリカ南北戦争とかの、前装ライフル砲と
同じように扱わないといけないんだ
さて、実はこの砲弾の口径は、
大砲の口径である120ミリよりも
若干小さく、
装填時には割とスルスルと中に入って行く
君はこう思うだろう?
その場合、砲身内部と砲弾の隙間から
発射ガスが漏れてしまうのじゃないかって。
しかし、この問題は、南北戦争当時と
同じ手段で解決している。
それは、下部に巻いたこの”銅の帯”が
ポイントなんだ。
この帯の内部は少し空洞になっていてね、
発射薬が点火されると、その爆発力によって
砲弾の底部が前進するんだ
その結果、硬い鋼鉄製の底部が、
柔らかい銅の帯を押しつぶす。
どうなるかわかるね?
押しつぶされた銅は、
グニャリと外側に広がって
砲身内部のライフリングに食い込んでくれる
つまり、発射ガスのエネルギーを
逃すことなく、その大部分を
砲弾の運動エネルギーに使える
さらに、ライフリングによって
回転を加えられた砲弾は、
ジャイロ効果によって真っすぐに飛ぶ。
結構な命中率を誇るだろう。
そして、必ずしも相手の船体にドンピシャと
命中させる必要はない。
なぜなら、この砲弾には”近接信管”が
仕込まれているからだ。
このテクノロジーは、
南北戦争時代はもちろん
この大砲が作られた19世紀後半にも
無かった技術さ!
この砲弾は、海賊船の船体に直撃しなくとも、
近くを通り過ぎただけで爆発する。
漁船程度なら、それだけでも大ダメージを
食らうだろう
........
思えば、僕たちがダムを破壊した時は、
”化学肥料”と”溶剤”を使ったお手製爆弾を
使っていたものだ。
それが今や、
現代兵器にも劣ることのないモノを
造りだすことが出来るんだ僕たちは!!
最終的には、
チョコボーラーの原発を直接攻撃できる
”長距離砲”も制作できることだろう
.....いや、
.....いや、今のは忘れてくれ、冗談だ
とにかく僕たちは、海賊船なら余裕で
倒せる力を今、ここに持ってるってことさ」
って....話、長っ!!!
しかし、ちょっと最後辺りの言葉が
気になったものの、
ヨッシーは目を輝かせていた
「本当に、本当に皆さんのおかげです!!
マッシュさん、ありがとうございました」
ドヤ顔のマッシュルーム眼鏡の技術者と、
目をキラキラさせて彼を見つめるヨッシー
そして、再びドアを開けて入ってきたスミレ
「ちょっと、にぃ!!」
しかし、2人の雰囲気を見たスミレは狼狽した
「え?技術者さん、何をしてるの?
もしかして、にぃが恋している相手って
あなたなの?」
無造作に後ろで結んだ長髪の黒髪に
こすからい鋭い目、
可愛らしいトレーナーに
ダメージドデニムのショートパンツ姿のスミレ
ヨッシーの妹は、
何気にトレーナーのポケットをまさぐりながら
続けた
「わずかな隙に、にぃを口説くなんて....
そりゃあ、にぃはこの短期間に
急激に”男ぶり”が増して、
魅力的に映るのは分かるけれども
でも、あなたのような
いい年こいてマッシュルームカットの、
ネガティブな青年を
演出している痛いおっさんに
私のにぃは渡さない!」
ヨッシーは困惑している
マッシュルームカットの技術者も困惑していた
スミレのこすからい鋭い目は、もはや
ビビるほどの殺意に溢れていた
「自意識過剰系インテリおじん....
危険性の無い外見はむしろ最大の武器か?
その恐るべき老練の手管によって
にぃの内に燃え盛る青き欲情を屈折させ
歪んだ愛欲の罠にかけ、
その甘い果実のような若い雄肉を
舐めるように貪り味わう魂胆とは
そんなの.....絶対に許さないから」
マッシュルーム眼鏡が言った
「スミレちゃんって、
重度のブラコンだったのか」
スミレは急に赤面するとクイっと後ろを向いた
「いいから2人とも、
早く皆の所へ来てよね!!」
バタンッと乱暴に締められるドア
操舵室に残されたヨッシーと技術者は
顔を見合わせた
「....まあ、兄想いの
いい妹ちゃんじゃないか?」
ヨッシーは少し微笑んだ
「ええ、あいつって、
目元とか俺そっくりでしょ?
俺やジジイならまだしも、曲がりなりにも
女の子のあいつがあんな....
だから、昔から不憫で仕方なくて
憐憫の情から、
ちょっと構い過ぎてしまったのかも」
しかし、続けて言った
「でも、あいつのさっきの顔見ました?
ちょっとドキッとするほど
クールでセクシーだった気がする
なんだかんだ言っても、俺の知らない内に
大人への階段を上っている途上なんですね
リナかリサが言ってたけど、将来的には
クールビューティーになれる素養を
十分に感じます
もう、俺の過保護はいらないのかも」
マッシュルーム眼鏡は、ヨッシーの肩に
手を置いた
「それでも、兄は妹を守ってあげなきゃね」
...と、ふいにブリッジ後部の小さな窓から、
眩しいライトの光が入ってきた
横顔を鋭い光に照らされ、目を細める2人
下流のほうから
一隻の機帆船がやってきたのだ
この『つぎはぎ丸』と同じく、帆とマストを
取り外しているが、
見間違える事の無い木造船だ
『おとこ丸』は、灯火を明々と灯して
こちらにやってきた