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ムケチン作戦~小さな島の日活スター

『ワクワクポート』を襲撃した海賊船は、

幅広のズングリとした船体に、

真ん中のブリッジを船尾まで延長させたような

不格好な船だった。

機帆船の『まんぷく丸』よりも一回り程大きく、

見た目通り鈍重だった


しかし、『まんぷく丸』も

決して素早い船ではない。

木製の船殻に、FRP製のブリッジと

鉄箱のエンジンルームを備えた、

”つぎはぎ機帆船”なのだ


サブジジイは、それでも卓越した操船術で

海賊船を翻弄していた



ズダダダン、ズダダンッ.....カァンッ、バシッ



絶え間ない銃声と、時々聞こえる命中音。

舵を切りながらサブジジイは悪態をついた



「くそが、一方的に攻撃しやがって

 気に食わねえ!!!


 にしてもお前ら、

この場所に一体どんな価値があるんだ?」



海賊どもにとって、ここは、

わざわざ襲撃する程の価値のあるものは無い。


考えられる可能性としては、やはり

ずっと留まっている2隻の機帆船だろう.....

日中に定時更新されるビーグルマップによって、

ここ数日常駐しているのが分かるのだ



「ここで、反撃の準備でもしてると

 思ったのか?」



ふと、サブジジイの脳裏に嫌な想像がよぎった



「 .....それとも、ムケチン作戦のことを

 どういう方法でか把握していて、

 阻止しようとしているのか?」



ズダダダンッ、ズダダンッ!!!



当然、サブジジイの疑問に答えることもなく、

めくらめっぽうに銃をぶっ放しながら

追いかけて来る海賊船


当然ながら、ここを襲撃される可能性は

見込んでいた


その場合は、『おとこ丸』と『まんぷく丸』は、

2隻とも港のすぐ側にある河口から、

川を遡って逃げる手筈だった


もしも、相手がそれでも追ってきたならば、

それこそが一矢報いるチャンスなのだ


狭く身動きが取れない川に

わざわざ入り込んできたアホ海賊どもに、

上流から火炎放射器で反撃するのだ



(しかし、それは出来ない.... 

 今は、海賊どもに川を登らせるわけには

 いかねえんだ)



”小さな島の日活スター”こと、サブジジイ


白髪になっても未だにポマードで

丹念にセットしたリーゼントヘア。

太い眉に、がっしりとした顎の、

古き良き時代の映画スターといった風貌だ


その外見が物語る通り、

彼にはつき通してきた『美学』があった



「弱きを助け強きを挫く」



もっとも美しくカッコいい生き方だ


しかし、ゾンビパンデミック発生によって、

サブジジイの美学は貫けなくなった。


だからこそせめて、これだけは....



「.....田舎派だろうが都会派だろうが、

 子供たちには、

 まっさらな世界で生きて欲しい


 罪を清算して子供たちに未来を与えるのは、

 俺達の世代の最期の仕事だ!」



サブジジイは、呟きながら船の舵を切る


そして、まるで挑発しているかのように

海賊船との距離を保ちながら、港から遠ざかる。

振り向くと、ブリッジの後部窓から

明々と照明を灯した海賊船が見えた


こうして、『まんぷく丸』は、

しばらく陽動&挑発を繰り広げて、海賊船を

引き付けた


やがて、

白髪リーゼント&太い眉&がっしり顎の

サブジジイは、

日活スターのような笑みを浮かべて呟いた



「ムキになって俺を追いかけてきやがるな!

 

 ....多分、ムケチン作戦を知っていて、

 それを阻止しようとしてるわけじゃない」



ムケチン作戦の阻止が目的ならば、

自分なんぞ放って真っ先に川に向かうはずだ。

てことは、目的は、2隻の機帆船か?

もしくはワクワクポートか?



ズダダダダンッ、ズバンッ、ズバンッ



バスンッ!!



ついに、海賊船の放った銃弾が、

FRP製(ガラス繊維強化プラスチック)

のブリッジ壁を貫いた



「ぐがっ、ちくしょう!!」



土手っ腹に鋭い痛みが走る


片手で舵輪を操作しながら、もう片手で頭上の

照明スイッチを付ける。

その手を、撃たれた腹のほうに当てた


まるで麻酔を打たれたかのように、

かすかな痺れしか感じないが....

しかし、腹に当てた手を

自分のほうに向けて確認すると....


手の平は”赤く濡れていた”



「なんじゃこりゃあああああああ!!!!」



サブジジイは、

おそらく人生最後になるであろう

”セルフボケ”をかました


日活全盛時代からは少し時代が下るものの、

往年の有名刑事ドラマの真似だ



・・・・・・・・・・・



目の前に薄い靄がかかっているみたいだ


腹からはドクドクと血が流れている


サブジジイは、スマホで最後の通信をした



「ヤングジジイ、俺は撃たれた、もうダメだ


 海賊船の目的は....

多分、このワクワクポートだろう....

 もしくは、俺達の船を狙ったか.....


とりあえず、子供たちを頼んだぞ


 .....俺は、今からスマホを海に投げ捨てて

 海賊船に一泡吹かせる....


んじゃあな、うちのユッキーとプリンスを

 よろしく頼んだ」



そして、情報を相手に与えないために、

スマホをブリッジのドアから

海に向かって投げた



//////////////////////////////////////



ズダダダダンッ、ズダダダダンッ、

ズバンッ、ズバンッ、ズバンッ



海賊たちが撃っているのは、

AK47のデッドコピーとFN-FALだ


こちらにまっすぐ突撃してくる木造船を

ハチの巣にする


照明に照らされ、窓ガラスが割れたブリッジの

操舵室が見えた。

中の人物は、血まみれで頭を項垂れている



海賊の一人が叫んだ



「疯狂肮脏的、日本鬼子!!!!!」



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