ムケチン作戦~チームデルタ
今、『シセⅢ型気動車』は、
窓から突き出した2本の鉄骨に
120ミリ艦載砲を吊り下げた恐るべき姿だ。
そして、車内には4人が乗り込んでいた。
ちんかわむけぞうは、
ポケットから通信機スマホを取り出した
「こちらチームアルファ、ちんかわむけぞう
無事、列車に大砲を積み終えたので、
チームブラボーと共に出発する
ゆっくりと走るので、
多分15分くらいかかると思う。
....ええっと、今が丁度9時だから、
チームチャーリーの鉄道橋への到着は、
午後9時15分を予定」
むけぞうの横の運転席には、
マッシュルーム眼鏡の技術者がいる。
そして、ウメさんは
運転席の後ろのロングシートに腰かけていた
列車は、出発した
通信を続けながらも、むけぞうの視線は、
ヨッシーの後ろ姿を追っていた。
車内の中央部は、
並んだ2本の鉄骨が両側の窓を貫通している。
ヨッシーは、鉄骨の下をくぐって
後部のほうへと向かった。
積み込まれた荷物や、4輪バギーの間を縫って、
最後尾の窓に張り付く
恐らくは、
列車の後を追っているであろう犬達を
見ているのだ。
.....このような少年の姿を見るのは
ツライものだ
釣り人のようなジャケットとカーゴパンツ姿、
革製ホルダーに収めたレバーアクション銃を
背負っている。
「................」
ヨッシーは、長い間、無言で
窓の外を見ていたが、急に振り向いた。
そして、サッと服の袖で目の辺りを拭った
2本の鉄骨を隔てて、ちんかわむけぞうに言う
「あのー、犬太郎と犬次郎が、なかなか
諦めてくれません....」
「ん?どういうことだ」
ヘルメットを被り、白装束姿に
サブマシンガンを背負ったむけぞうは、
2本の鉄骨の下をくぐって
列車の最後尾に向かった
『シセⅢ型気動車』は、
車体の両端に運転席があって
最後尾も最前列も同じ造りだ。
誰も居ない運転席の隣の正面窓を、
ヨッシーとむけぞうは二人して覗いていた
むけぞうは、困惑した表情で呟いた
「あちゃ~、すげえ余裕でついてきてんじゃん」
列車の灯りに照らされて、
後ろに流れていく線路がよく見える。
そして、普通に追いかけてくる2匹の犬だった
「だよなあ~、この列車、
今の速度は時速15キロとかだ
この速度なら、
普通に随伴できるよなそりゃあ」
ヨッシーが相槌を打った
「ですよねー、
しかも、あいつらは猟犬で
生来の優れた身体能力があるうえに、
3年間も自力で生きてきた
”ストロング犬”ですからねー」
「ま、まあ、彼等に、縄張りである神社を
離れる気がないなら、
その内諦めて帰って行くだろう」
しかし、むけぞうにも分かっていた
人間に飼われている動物は、
野生状態にある場合と比べて
2倍以上も寿命が違うと言われている
(結局、彼等も人間の側に居たいんだろうな)
そして、つい頬が緩んでしまった
(ヨッシー君....自分の姿を見せることで
犬達を煽って、
ついてくるように誘導しているんだろ?)
むけぞうは、チラリとヨッシーの横顔を見た
真剣な眼差しで
追ってくる2匹の犬を見つめるその顔は、
年相応の15歳の少年だ
というか、犬太郎と犬次郎は、
マイ・フェイバリット”むけぞう”の出現で、
ますますヒートアップしていた
そして、ついにチャンスが訪れた
線路の脇に、なだらかに切り立った
低い崖のような地形が出現したのだ
ヨッシーが叫んだ
「おおっ、犬太郎が動いたぞ!!」
なんと、猛ダッシュをかけた犬太郎が、
なだらかな傾斜を駆けのぼって列車と
並んだのだ。
そして、鉄骨が貫通している窓は、
ガラスが無く吹き曝しだった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うわあぁ、ちょっと何ぃ、マジでぇ!!」
普段は冷静なウメさんが、素っ頓狂な叫び声を
上げた
無理もない....吹き曝しの窓から、いきなり
”胡麻毛の弾丸”が飛び込んできたのだ
毛むくじゃらの弾丸は、
シートに座るウメさんに直撃した。
間髪いれずに、
”白毛の弾丸”も飛びこんでくる
「呆れた....本当にあんたたち、呆れたわ」
警察の出動服に、軍刀を脇に置いたウメさんの
目の前には、
ピンク色の舌を出してハアハアする
2匹の犬たち....
急いで駆け寄ってくるヨッシー
そして、むけぞうはヤレヤレ風に肩をすくめて
言った
「まあ、自分達の意思で決めたことだ。
彼等は、縄張りを捨てて俺達を選んだ」
ヨッシーが興奮気味に続けた
「犬太郎と犬次郎を、
島か、リバーサイド同盟の地に
連れて行ってあげましょう!!
大切に飼ってあげれば、恩義を感じて
絶対に、色々と役に立ってくれますから!
にしても、
ストロングな意思は勝利するんですね、
見事ですわ」
犬たちは、こちらにやってきた
ヨッシーとむけぞうの周囲を、
ポップコーンのようにポンポンと飛び始めた
ウメさんは、ヨッシーの笑顔を見て
頬を緩めてしまった
「まあ、走ってる列車からなげ捨てるわけには
いかないしね....
どうしようか?
この犬たち、”チームデルタ”にでもする?」
ヨッシーは、犬たちのペロペロ攻撃を
ブロックしている。
むけぞうは、甘噛みする犬たちに
悪態をついている
こうして、なぜか新しいチームが
『ムケチン作戦』に追加されたのであった