ムケチン作戦~大砲積み込み3
C4でワイルドさを呼び起こされたヨッシーは、
犬太郎の耳を噛んだ
「アウ、アウ、アウー」
と言いながら、
ピンと立った三角形の耳元をモグモグする。
「ヒーンヒーン」
続けて、犬次郎の耳も噛む
「キュンキュンキュウゥ」
両脇に抱いた2匹の犬と戯れた後、
納札所の裏から顔を出して大砲を覗いてみる。
LED照明に照らされた大砲は、パット見では
変化は無かった。
屋根付きのお堂の下で、台座に載せられて
砲口を海に向けている。
大砲に巻かれた2本のチェーンが、
列車へと続くワイヤーに繋がっていた
ヨッシーの後ろに居たマッシュルーム眼鏡が、
LED照明を片手に大砲のほうへと向かう。
彼は、大砲を固定している金属バンドを
点検して言った
「うん、見事に溶接面が剝がれている。
流石はウメさんだ!
よっし皆、ついに大砲を持ち去ろうぜ」
爆破は成功したみたいだ....
ちんかわむけぞうが言った
「それじゃあ、マッシュさんは
列車のほうへ向かってくれ!
ウメさんは護衛で一緒に行ってください。
俺とヨッシー君はここに残って監視だ!
.....あっ、ウメさん、二匹の犬たちも
連れて行ってくださいな」
ウメさんは、犬たちに”コイコイ”した。
尻尾を振りながらウメさんについていく2匹
神社の境内には、ヨッシーとむけぞうの2人が
残された。
むけぞうは、ポケットから通信スマホを
取り出すと、マッシュルーム眼鏡との
マンツーマン通話モードに設定した
「さてと、今から列車でこいつを引っ張る
あの灯篭の直前にまで行ったら、
一旦停止して
滑車からワイヤーを取り外すからね」
ヨッシーは頷いた。
もう、やることは分かっている
むけぞうは、続けて言った
「列車の準備が出来るまでに、
大砲の進路上に転がっている人型をどかそう
不快な作業かもしれないが、
大砲の移動に巻き込んで
線路まで持って行くのも不快だからね」
境内に転がっている人型の残骸.....
ヨッシーは、それらを注視するのを避けて
足で蹴って移動させた。
むけぞうも、同じようにしている
服はボロボロだったり、丈夫な物は
まだ残っていたりする。
髪も抜け落ちてはおらず、体格と合わせて
男女の区別もまだ可能だった
大体が、小ぶりな体格だ
まあ、
人口比から言っても、体格の良い男性よりも
女性と高齢者と子供のほうが多いのは
当たり前なのだ
「無心だ、ただただ無心でやるんだ」
凄まじい腐敗臭も、良心の呵責も無視、
そう、”完全無視”だ
傍目から見ると、銃で武装した二人の男が、
老若男女の死体を無下に扱っている光景だろう
やがて、むけぞうが言った
「それじゃあ俺は、あの鳥居のほうへ行く。
ヨッシー君は、あの灯篭の側で、
大砲が滑車のすぐ手前まで来たら
手を上げて合図してくれ」
2人は配置についた
やがて、【二の鳥居】の付近で、
スマホを耳に当てていたむけぞうが言った
「んじゃあ、列車が動くぜ!!」
ギュゴゴゴゴゴゴ....
下のほうから、
列車が動く機械音が聞こえてきた
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【灯篭】の側に立つヨッシーは、
【大砲のお堂】を眺めていた
ワイヤーはピンと張られ、
灯篭に巻き付けた滑車を通ってクイッと
曲がっている
列車の動きに連動して、大砲が動き始めた
まずは、
大砲に巻き付けてある2本のチェーンの内の、
灯篭から遠いほうのチェーンがピンと伸びて
大砲を引っ張った
ドスンッ!
全長5メートル近い鋼鉄の筒が、台座から
斜めにずり落ちる
やがて、2本のチェーンともにピンと張って、
大砲が地面を滑り始めたのだった
ズズズズ....
お堂の柱にぶつかることもなく、大砲は
地面を引きずられていく。
ズズズズ....
【大砲のお堂】から飛び出し、
ズンズンと自分のいる【灯篭】のほうへと
向かってくる大砲を見つめながら、
ヨッシーは独り言を呟いた
「なんか嬉しそうだな....気のせいか?
いや、嬉しいのはまさに俺だな
こちらが弱者だと思って
調子こいてる海賊どもに、一刻も早く
こいつをぶっ放してやりてえ」
こすからい鋭い目のヨッシーは、ニヤリと
口角を上げて笑みを浮かべた
.....やはり、目の前の鉄の塊も、ニヤリと
笑っているように思えて仕方ない
「....なんだか、魂が共鳴しあっている気分だ」
こちらに向かって引きずられていく大砲は、
日露戦争時に使われた120ミリ艦載砲だ。
夜の闇の中、
LED照明の光に照らされた”彼”の姿は
未だに健全な地肌と重量感を保っており、
十分に役に立ってくれるように見えた
やがて大砲は灯篭の手前、
参道の中心部にまでやってきた。
ヨッシーは、むけぞうに向けて片手を上げた
動いていた大砲がピタリと止まる
むけぞうが、スマホでマッシュルーム眼鏡に
指示して、列車を少しだけ前進させると、
ピンと張っていたワイヤーが緩んだ。
ヨッシーは、指示を待つまでもなく、
灯篭に巻き付けてあるスナッチ滑車の蓋を
開けてワイヤーを引っ張って外したのだった
大砲は、【参道】のど真ん中に居る。
そこから一直線に石段を下った線路には、
もう一台のスナッチ滑車が取り付けてある。
「さてと、後はあの石段を滑り落ちるんだ」
ヨッシーは呟きながら、ふと、目の前の大砲の
ほうへと向かった。
そして、屈みこむと
地面に横たわる”彼”に触れた
ひんやりとした金属の地肌、
表面は防錆塗装がしてあってツルツルだ.....
肌ざわりといい、見事な曲線といい、
どことなく”セクシー”に思えてくる
「こいつ、凄いイケメンだと思っていたが
実は、凄い美女だったりしてな、フフフ...」
急に目の前がグルグルとしだす
「ん?何が起こったんだ!!」
全身がフワッと宙に浮いた感じがして
空間の断絶を感じた
「ぐわああああああああ、なんだあああああ」
そして、気が付くと目の前に”金髪美女”が
立っていたのだった。
「お、俺は一体....」
混乱していて何が起こったのか分からない
....しかし、今までの世界とは違う、
どこかに飛ばされた感覚はあった.....
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こうして、
ヨッシーは『異世界転移』を果たしたのだ