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ムケチン作戦~ホープ・トレイン

神楽殿と社務所に設置したLED照明を、今度は

大砲のお堂と石段付近に移動することになった。


人型の襲撃から自分達を守ってくれた

『アラモ』を、ついに去ることになったのだ


そして、ヨッシーは神楽殿に来て初めて

”悪意の人型”の末路を知った。


ちんかわむけぞうと、マッシュルーム眼鏡も

驚きに目を見張っている


むけぞうが言った



「さすがは十文字流、スゲエな!

 見事に真っ二つだよ。

 ....にしても、悪趣味な人型だな」



神楽殿の舞台へ上がる短い階段、その麓には

おぞましい残骸が鎮座しているのだ


ヨッシーが言った



「ええ、完全に悪意によって造られた存在です。

 何らかの理由があったのかは不明ですが、

 それでも目的の為に人型を利用するなんて

 最悪だと思います!


 ....って、昨日、橋の上でバリケードを

 破壊して人型を侵入させた俺が言うか?

 ってことですよね、アハハ....


 いや、実は、 

 目的の為なら人型をも利用するって気持ち、

 理解できるんです」



自虐的な笑みを浮かべるヨッシー。

むけぞうとマッシュルーム眼鏡は無言だった。


3人は、設置してあるLED照明をそそくさと

運び出した。


照明を担いだむけぞうが、ふと呟く



「俺が居た東京でもね、かつて

 上級国民に対する反乱が起こったときに、

 下級国民は人型を利用したんだ。


 皆が命がけで造ったセルの壁を破壊して、

 安全地帯に人型を侵入させた。


 その結果が、今の東京地獄さ」



むけぞうとマッシュルーム眼鏡は、

足早にこの場を去ろうとしている


しかし、ヨッシーだけが、

照明を失って暗くなった神楽殿のほうを

振り返ったのだった


担いでいる照明からこぼれた光に照らされ、

高床式の舞台が見える。


そして、その奥には細長い『控室』がある


そこには、もはや存在すら

”最初から無かったことにされた男”が

眠っているのだ.....



「でも、俺の中では永遠に

 チームブラボーの仲間ですよ」



もう、二度とこの場所に来ることはあるまい



「さようなら、矢之板さん」



小さく呟いた後、ヨッシーは即座に

『アラモ』から立ち去ったのだった



・・・・・・・・・・・・・・・



神楽殿と社務所から、参道を挟んで

『大砲のお堂』がある


出迎えたのは、犬太郎と犬次郎だった


生きた人間に大勢出会えて嬉しいのか、

もしくは

”ちんかわむけぞう”が好きすぎるのか?


2匹の犬たちは、

むけぞうの周囲をまるでポップコーンのように

ポンポンと飛び始めた



「分かった、分かったから、

 だから噛むなっつの!」



悪態をつきながら、照明を設置するむけぞう


しかし、犬たちの好意は、

”たっぷりと肉をくれた少年”に対しても

未だに注がれていた


擦り切れんばかりに尻尾を振りながら、今度は

ヨッシーの周囲をポンポンと飛び回る2匹



「なんなんだよ、この新しいアプローチは?

 にしても、どさくさに紛れて噛むな!」



同じく悪態をつきながらも、

無邪気な2匹の犬によって救われる思いの

ヨッシーだった


ちなみに、ウメさんは周囲を警戒していたが、

ポップコーン・アプローチをはじめた犬たちを

興味深そうに見つめていた


やがてウメさんは、どこか呆れ顔で言った



「もしかして、ちんかわ君の事を

 お仲間だと思っているのかしら?

 モテモテねぇー、あなた」



なんと、胡麻毛の犬太郎が、むけぞうの

脚にしがみついて腰を振り始めたのだ



「フンッ、フンッ、フンッ、フンッ、フンッ」



この地方原産のその猟犬は、

柴犬に似た風貌だが、手足が長く精悍な印象だ。

力も強く身体も大きい


興奮した犬太郎を必死に引き剥そうとする

むけぞうと、

彼をただ見つめるだけの3人だった


・・・・・・・・・


しかし、あまりにもハイテンションな犬たちも、

微風が人型の腐敗臭を運んでくると

大人しくなった。

神社の境内には、26体もの人型の残骸が

転がっているのだ....


マッシュルーム眼鏡が言う



「よし、気を取り直して任務に戻ろうか」



.....さて、4台の照明は、

『大砲のお堂』と『参道』に1台ずつ、

『二の鳥居』の左右に2台設置された。


鳥居に設置された2台は、下りの石段を

照らしている。

4人は、一緒になって石段を下った



「おおっ、懐かしい列車がある!

 俺、こいつによく乗ってましたよ」



ヨッシーの眼下にあるのは、

見慣れた『シセⅢ型気動車』だ。

車内灯によって気車は光り輝いている


マッシュルーム眼鏡が言った



「この気動車の窓を貫通させるようにして、

 2本の鉄骨を突き刺すからね。

 そして、その鉄骨に大砲を吊るすんだ


 大砲は重量が2トンくらいあるから、

 4人では持ち上げることが出来ない。

 だから、滑車とワイヤーを使って、

 この気動車の力で持ち上げるんだよ」



常日頃から漁師として過ごしているヨッシーは、

なんとなくやることが分かっていた。


まずは、むけぞうが、高さ1メートルほどの

気車のドアから車内に入り、

窓越しに外に居る3人と対面した


むけぞうは、ジェスチャーで

この場から離れるように皆に指示した


ヨッシーとウメさんとマッシュルーム眼鏡は、

気動車から離れて

投下された資材のほうへと避難した



ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ!!



銃声が響き、

同時に気動車の窓がバーンッと割れる


すぐに、ガラスが割れた窓から

「バールのようなもの」が飛び出した。


それは、窓枠に残ったガラスをこそぎ落した


むけぞうは、反対側の窓も同じようにして、

続けて3メートルほど離れた別の窓ガラスも

割り始めたのだった


ヨッシーは、複雑な思いで

その光景を見つめていた



「この気車、多分、俺も何回も乗った奴だ....

隣の分岐駅の町へ買い物に行ったり、

 県庁所在市に遊びに行ったり、

 本当に沢山の思い出を作ってくれたな」



隣のマッシュルーム眼鏡が言った



「ああ、列車というのは、沢山の人たちに

 思い出を作ってくれる素敵な乗り物だ。


 そして、今から

 僕達に”希望”を与えてくれるのさ」






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