ムケチン作戦~騎兵隊
ちんかわむけぞうは、『シセⅢ型気動車』の
最前列から、正面の景色を見ていた
左側の運転室はドアが開けっ放しで、
マッシュルーム眼鏡の技術者が運転している
ガタン..ゴトン....ガタン..ゴトン...
列車は、時速40キロ前後で
ゆっくりと走っている。
広いフロントガラスから見える前方は、
列車のライトに照らされてよく見えるが、
それはとても怖かった
「植物が両サイドから迫ってきてるな。
それに、土砂崩れとかの災害があったらもう、
この路線は永遠に復旧することはないだろう」
むけぞうの言葉に、マッシュルーム眼鏡が
相槌を打つ
「整備や修理をする人が誰もいないからね。
自然災害や植物の繁殖で、近いうちに
この路線は通れなくなると思うよ
僕達が、ここを使用する
最後の人間になるだろうね」
この私鉄路線は、内陸から半島まで続く
山々の間を突き進んでいく。
半島の先のさらに小さな半島には、
チョコボーラーの『原発』がある。
余談だが、
この『県』も、日本全体のスケールで見ると
巨大な半島に位置しているのだ
「.......」
マッシュルーム眼鏡とむけぞうは、
しばらく無言だった。
線路の両側は鬱蒼とした森で、
目の前は、ただ怖いだけの面白みのない景色だ。
すると、通信機が振動した
2人は、ポケットから通信機を取り出して
ボタンを押した
空気を切り裂くような良く通る女性の声だ
「やっほ、これはリバーサイド同盟の内線だよ
島の人たちとウメさんには悪いけど、
しばし仲間内で秘密の会話をしよう!
さて、二人とも頑張ってるかな?」
フランクな口調のカナエの声だった
「もしも、他チームからの連絡が来ても、
それが優先されて自動的に切り替わるから
しばらくの間、古い仲間同士で
水入らずで話しましょう。
あっ、ヤキタコ、珈琲入れてよ」
十文字叶....彼女は、
リバーサイド同盟の創設者であり指導者だ。
むけぞうとマッシュルーム眼鏡とは、
ショッピングモール時代からの古い仲間だった
むけぞうは、ヤレヤレ風に言った
「カナちゃん、俺達は今、
緊張の中で列車運転中だ.....
やっぱり、3年間も放置された路線は
植物が生い茂っててちと怖い」
「大丈夫っしょ、
私のむけぞうは運がいい男だからね!」
むけぞうは、金のエンゼルマーク付きの
チョコボールの空き箱を思い出した
少し真面目な口調で言う
「そういえば、さっきもマッシュさんと二人で
少し話してたんだけどさ。
この作戦が成功したら、
ついに俺達は海に進出することになる。
列強どもの野望が渦巻く、弱肉強食の世界に
身を投じることになるわけだ
俺達はともかく、他の連中からは
それを不安視する声もあるんじゃないかね?」
応えるカナエの声は、ケロリとしていた
「ま、遅かれ早かれ
いつかは通らなければならない道でしょ?
リバーサイド同盟は今後、
人口が劇的に増加する見込みだからね。
内陸に閉じこもっているだけでは、
リスクのほうが大きくなる時が来てしまう
私達はね、次の世代の為に
道を切り開いてあげなければならないの」
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ここは、リバーサイド同盟の市の中心部にある、
『市役所』の建物だった。
かつては、それなりの規模の都市だけあって
かなり立派なビルで、
周囲にもかつての公共施設群が並んでいる
その最上階の『市長室』は、
今はカナエの執務室になっている。
彼女は、全財産を
”トランクケース一個ぶん+一振りの日本刀”
だけにまとめて、各地に設けられた執務室を
渡り歩いて過ごしていた。
しかし、まあ、とりあえず
ここが一応の本拠地だった。
「.....いやらしい話、島の人たちのほうから
こちらに接触を求めてきたわけだし、
まさに”渡りに船”ってわけね!
この状況を利用しない手はないわね
うん、海賊に襲われて
苦しんでいる人たちの心情を無視した、
冷徹な物言いなのは自覚してるわ」
大きな机と椅子に座ったカナエは、
通信機スマホを片手にしゃべっている。
先端が内側に反ったブラウンの長髪、
ビシッとしたスーツ姿だ
ちなみに、ムケチン作戦本部の人員は
当然、カナエだけでないが、
他の者たちは別室の会議室に居る
「お待たせしましたお嬢!
焼け焦げたマシュマロを入れた、
”特製ヤキタコ・ナイトブレンド”をどうぞ」
奥の給湯室のほうから、
作務衣姿&スキンヘッドの焼け焦げた大男が
出現した。
カナエの従者、ヤキタコだ
通信機スマホから、ちんかわむけぞうの声が
聞こえる
「まあ、俺は東京出身だから、ここでは
いわゆるよそ者なんだけど....
でもよ、チョコボーラーの連中の大部分は
皆にとっては、かつては隣町とかに住む
お隣さんだったわけだろ?
それが今や、警戒すべき、もしくは将来
戦うべき相手なのかね?」
応えたのは、マッシュルーム眼鏡の声だった
「それを言うなら、
チョコボーラーの自衛隊だって、
独立地方政権だって、北日本政府だって、
みんなかつては同じ”国民”だった。
僕達の世代までは、それを知っているし
覚えているさ....
でも、次の世代はどうだろうね?
かつてはお互いに同族だった事を
感じない世代が表舞台に立ち始めたとき、
一体何が起こるのだろう」
カナエは、静かに珈琲を飲んだ
焼け焦げたマシュマロの渋い甘みを
噛みしめる
そして、言った
「私たちには、タロちゃんが居るから」
・・・・・・・・・・
カナエの後ろに立つヤキタコが、ウンウンと
頷いている。
そして、通信機スマホからも
二人の相槌が聞こえた
「ああ、その通りだよ全く」
「うん、それだけは他には無いよね」
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話に夢中になっている内に、
いつの間にか列車は、トンネルを抜けていた
拍子抜けするほどに危険も何もなく、
ついにチームアルファは、チームブラボーの
神社に迫りつつあった
そして、暗闇でもかすかに分かる、
”真っ平な地平線”が確認できた
マッシュルーム眼鏡が言った
「ちんかわ君、十文字さん、海だ、
海が見えたよ!
もうしばらくしたら、神社に到着するぜ」
むけぞうが続けて言った
「待たせたな、ヨッシー君、ウメさん、
ついに騎兵隊の到着だぜ!!
それじゃあカナちゃんも、
普段の指導者口調に戻りたまえ
おおっと、
人型と間違われて撃たれないように、
通信機で報告しなければ」
むけぞうは、通信機の通話終了ボタンを押して、
秘密の内線通話を終えたのだった