ムケチン作戦~十文字流
レバーアクション銃の11.5ミリ拳銃弾は、
先端が鉛剥き出しのダムダム弾だ。
人体のような柔らかい標的に対しては
破壊力が大きいが、
金属のような固い標的への貫通力は非常に弱い
まあ、そもそもが拳銃弾に貫通力を
期待すべきではないのだ。
それを分かっているヨッシーは、
無駄弾を消費するよりかは、
出来るだけ他の人型を減らしておこうと思った
(ウメさんの9ミリパラベラムでも
あの金属頭は抜けないと思うが...
しかし、俺にはどうしようもない)
本当に、恐縮すぎて身体が中心部に向かって
ベコベコと圧縮される気分だが、
ウメさんに任せるしかないのだ!
ヨッシーは引き金を引いた
バアアァンッ!!
目前に迫って来た人型の額に穴が空き、
前のめりに倒れた
「これで、倒したのは6体、
消費した弾は確か11発、残り2発か」
もう一体の人型が、
倒れた残骸を踏みつけんばかりに
真っすぐこちらに向かってくる。
その背後には、世にもおぞましき”悪意の人型”
奥の鳥居からは、さらに3体も出現した
ガァンッ!
と、「グロック17」の銃声が響いた。
.....ウメさんだ!
唐突に、先頭の人型の頭部がのけぞり返り、
横向きに倒れた。
ヨッシーは叫んだ
「ウメさん、俺はリロードして
奥の3体を狙います!!
こいつをお任せします!!」
ウメさんの返事が聞こえる
「凄いのが来たね、了解!!」
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ウメさんは、神楽殿の舞台から
短い階段を降りて飛び出していた
神楽殿は、隣の社務所よりもやや奥まっており、
鳥居までは見えない。
先程倒した2体は参道を通ってきたが、
どうやら大変な人型が出現したらしい。
そいつは、鳥居から社務所に
まっすぐ向かっているのだろう
「見えた、あれね」
即座にグロック17を両手で構えて射撃
ガァンッ!
まずは、手前のノーマルな奴を排除する
頭上の社務所の屋根から、
こすからい鋭い目の可愛い少年の声がする
「ウメさん、俺はリロードして
奥の3体を狙います!!
こいつをお任せします!!」
「凄いのが来たね、了解!!」
.....なんて”悪意の塊”だ!
こいつは難儀しそうだわ
とりあえず、目の端で周囲をザッと確認する。
何体もの人型が、
鳥居から社務所までの間に倒れていた
「まるで、ベテランの警察官か、
白装束と一緒に戦っているみたい。
本当に大した少年ね、あなたは!」
無駄な気はしたものの、一応、
構えたグロックを”悪意の人型”に向ける
そいつは、
ターゲットをこちらに定めたみたいだ。
距離は約20メートル、
身体全体をこちらに向けている。
ウメさんは、円柱型の頭部に向けて発砲した
ガァンッ!
カンッ!
額の真正面に当たったはずだが、
円柱型の頭部は、僅かにのけ反っただけだった
「やっぱりダメか、それじゃあ特別に私が
マンツーマン指導をしてあげるわ!」
ウメさんは言いながら身体をクルリと翻して、
同時に右腰のホルスターに拳銃を仕舞った。
ウサギのジャンプのように、ピョンピョンと
短い階段を上がり、神楽殿の舞台に戻る
「あの頭部を撃ち抜くには、
7.62ミリ以上の大口径ライフル弾が必用だ。
私達の武器では無理ね」
グロック17の9ミリ拳銃弾は、
ダムダム弾と違ってフルメタルジャケット弾だ。
しかし、やはり拳銃では貫通力に乏しい
「相棒の出番かねぇ...」
ウメさんは、
左腰から突き出ている刀の柄に右手を添えた
3年前のゾンビパンデミック時に
頼もしい相棒になった、『95式軍刀』だ
それは、戦時中、下士官向けとして
当時の工業技術で造られた量産品ながら、
ごく稀に出現する超優良個体で
「魔剣」と称されている
左手で鞘を抑え、右手で金属製の柄を握る
「師匠....あなたのように
完璧に技を繰り出せるかしら?」
・・・・・・・・・・・・・
3年前のゾンビパンデミック時に、
突入した”老人ホーム”で偶然再会した師匠
彼の名は、十文字誠克
リバーサイド同盟の指導者、十文字叶の
大叔父に当たる人物で、十文字流の家元だった
彼は最後に自分をしげしげと見つめて言った
「ウメさんや、お前さんのような”若者”はの、
まだ死んではいかんぞい
ふふふ、
なぜならば、ワシの最後の雄姿を
語り継がなければならぬからじゃ!
とくとご覧あれ、十文字流の最強奥義を」
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親指で駐爪を押して、刀身を鞘から抜く
シャリンッ
照明の光を反射して、キラリと輝く刀身。
それは、一般的な常寸よりもわずかに短い
繰り出す技は、ただ一つ
十文字流最強奥義、『シャル ウィ ダンス?』
よりは強さは劣るものの、難易度はかなり高い
ウメさんは、まるで
野球のバッティングのような構えを作った
そして、出現した悪意の人型
LED照明の光を正面から浴びて、今やその姿が
くっきりと見える。
ウメさんは、元警官で
最終階級は『警部』だった
長年培ってきた習慣から、瞬時に分析する
....かなり体格の良い成人男性、そして
頭部には円柱型の金属の筒を被っている
おそらくは、径250、高さ300ほどの鉄管だ。
舞台の上から見下ろしているので分かるが、
丁寧にも天辺は蓋がしてあって溶接してある。
おぞましきは、円柱の真ん中からやや下辺り、
顔の左右を長いボルトが貫いている。
それは、両端をナットで締めてあった
さらに、円柱の口の辺りには、棘のような
悪意のある突起物が突き出している
さらに、両腕にも径120ほどの長い鉄管を
はめ込まれており、その先には
ノコギリの刃のようなものが取り付けてあった
頭部と同じく、腕もボルトで貫かれており、
両端をナットで締めて固定してある
「多分、ゾンビウイルスに感染してから
死亡した人間を使ったのね。
それも偶発的ではなく計画的に
そこまでして、相手が憎かったの?
どうしても滅ぼしたかったの?」
どことなく、そのいで立ちには
執念のようなものが見える。
ヒャッハー連中が自分の欲を満たす為の
手段として造ったものではなく、
「復讐」や「憎悪」の念を込めて
造られたものに思えた
ウメさんは、刀を構えながら呟いた
「師匠、あなたは早く死ねて、
ある意味幸運だった....
こんな地獄のような世界を
見ることなく済んだのだから....」