ムケチン作戦~悪意の人型
レバーアクション銃「アウトロー」
を構えた瞬間、気持ちが落ち着き、
思考が明敏になるのを感じた。
周囲の状況を脳が瞬時に処理していく
ヨッシーのすぐ目の前のやや左下には、
左側の森を照らすLEDバッテリー照明が
取り付けてある。
残りの3台の照明は、
ウメさんが神楽殿の周囲に取り付けている。
4台のLED照明は、境内をまんべんなく
照らしているわけではないが、
頭上の空は澄み切っており満点の星空だ。
頭上から降り注ぐほのかな星明りと、
周囲に拡散した照明の光のおかげで、
境内に侵入した人型の存在くらいは気が付く
銃には弾薬を装填済み、12発+1発で13発
「さあ、来るなら来やがれモンキー野郎ども」
社務所の屋根の天辺に跨ったヨッシーは、
身体を前方に向け、やや右の鳥居のほうに
狙いを定めている
鳥居の先は、森の木々と下りの石段なので、
闇の塊のように真っ暗だ。
ちなみに、彼の正面はほとんど広場だ。
年末や祭事の時はそこにテントを張っていて、
おっさんたちが参拝者に
酒を振舞ったりしていた。
他には、屋根付きのゴミ箱のような納札所に、
寂しげに佇む灯篭などがある
「来やがったな!!」
貧弱な木製の【二の鳥居】の真ん中、
渦巻く闇から唐突に出現したように思える
背後から、ウメさんの声
「ヨッシー君は、状況の把握と
遠距離から中距離までを担当!
私は、中距離から近距離を担当する!
主戦力は私で、あなたはあくまでも補助!」
「アイアイサー!!」
.....まるで、普通の参拝客のようだ
数体の、ボンヤリとした人の形のシルエットが、
こちらに向かってくる
しかし、それらは”ムケチン仲間”でも
”生きた人間”でもない。
万が一、生きた人間が普通に
参拝しに来たのだとしても知ったことか!
バアアァンッ!!
ガチャンッ、ガチッ、....バアアァンッ!!
ガチャンッ、ガチッ、....バアアァンッ!!
3発撃って、
30メートルほど先に迫った人型が一体倒れた
薄暗くて外見はまだはっきりしない。
しかし、腐敗臭でほぼ麻痺していた鼻が
さらにクソのような匂いを感じた
「くたばれルーズベルト、
くたばれカイザーヴィルヘルム、
くたばれホーチミン、
くたばれトージョー」
ユアチューブ動画の映画で見たような
謎のセリフを呟き続けながら、
「アウトロー」を撃ち続けるヨッシー
しかし、心の中は冷静だ
(能力が目覚めたと言っても、
特に銃の腕前が上がったわけじゃねえか。
やはり、鍛錬が必用なものは
そうそう都合よく...)
それでも、すでに倒れた人型は3体だ
2体の人型が、社務所のすぐ側まで迫っている
しかし、鳥居の暗闇の中から
続々と後続が出現してくる
「俺の役目は、近距離じゃない!!
それはウメさんにお任せする」
先頭の2体の人型は、参道を真っすぐに
進んでおり、社務所の横を通り過ぎた。
そして、クイッと曲がると
【社務所】より少し奥まった【神楽殿】に
向かった
やはり、直近の生きた人間を察知する能力を
持っているようだ
「ウメさん、来ます、お願いしますよ!!」
ヨッシーは、横を通り過ぎる2体を無視して、
自分のほうに向かって真っすぐ来る奴を
撃つことにした
バアアァンッ!!
ガチャンッ、ガチッ、....バアアァンッ!!
2体が倒れる、これで合計5体を倒した
ガァンッ!
ガァンッ!
ふいに、11.5ミリとは異なる鋭い銃声が響いた
ウメさんの持つ、「グロック17」の9ミリだ
「2体倒したわ!」
レバーをガチャリと操作して、
次弾を装填しながらヨッシーは思った
(うへっ、それぞれ1発で倒したのか?
さすがはウメさんだ)
そして、”その人型”に気が付いたのだった
「はあ?なんだありゃ」
前方には、2体の人型....
しかし、鳥居の暗闇から出現したそいつは....
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”人間とは『悪意』を持つ生き物だ。
そして、そいつはその悪意の産物だった”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その頭部は、球型ではなく、円柱型だ。
しかも、明らかに人工物...
ヨッシーは唖然とした
「は?頭に何かを被ってるのか?」
嫌な予感がしたヨッシーは、
こちらに向かってくる2体を無視して、
そいつに狙いを定めた
暗闇でまだはっきりとは分からないが、
金属製っぽい円柱を被っているように思える
バアアァンッ!!
左右の2体の真ん中を、11.5ミリ弾が
通り過ぎた。
その弾は、円柱頭のど真ん中に見事命中した
....ように思えたが
カンッ!
悪意の人型は、その円柱頭を
わずかにのけ反らせただけだった
銃を構えた姿勢を崩さずに、
再びレバーをガチャリと操作する。
空薬莢が飛び出し、次弾が装填された
丁度、真正面から向かってくるので狙いやすい
「当たるはずだ!」
バアアァンッ!!
カンッ!
.....全く同じ現象が起こった
そして、悪意の人型は、
わずかに照明の光を浴びる距離にまで
迫ってきた。
その姿を見たとたん、ヨッシーは諦めた
「ウメさん!!今からそっちに
トンでもない奴が来ます、頼みます!!」
大声で言いながら、
レバーを操作して弾を装填し、
もう15メートル以内に迫ってきた2体を
倒すことにする
時間がスローモーションになった気がする
銃口を動かす自分の動きさえ緩慢に思えて
苛立たしい
そして、ヨッシーは思った
(人間の悪意の産物だアレは....
生きた人間同士の争いで、
敵対者を滅ぼそうとして造ったのか?
一体誰が、あんなおぞましいことを)
しかし、敵対者を滅ぼすために手段を選ばない
その気持ちは分かってしまうのだった