チョコボーラー9
『超お下劣、ゴールデン・コバヤシの股間に
まっしぐらゲーム!!』
ふいに集まってきた数人の
古代ギリシャ風スタッフたちが玉座を移動する。
全身に金粉をまぶし、
股間に葉っぱ(の封筒)を付けたコバヤシは、
玉座に座ったまま運ばれていった。
そしてミヤモトは、
まるでコバヤシの付属品であるかのごとく
数人のスタッフに抱えられて運ばれていた
無表情の古代ギリシャ風コスプレ男たちに
運ばれながら、ミヤモトは思考していた。
(チョコボーラーの司令官コバヤシは、
海自の軍艦も多く傘下に従えているはずだ。
輸送船団と一緒に航行している数隻の
護衛艦はよく見る
そして、それより小型の高速戦闘艇のような
タイプも見たことがある
軍艦については詳しくはないが、
高性能レーダーとコンピュータを
組み合わせた何たら統制システムだっけ?
少なくとも、漁船を改造したあの海賊船とは
戦闘力の差は歴然としているだろう)
あの、例のボフォース57ミリ砲を積んだ
底引き網漁船は、ただ単に砲を無理やり積んで
それが撃てるというだけだ。
軍艦のように、索敵やら弾道計算やらを行い
遠距離から正確に当てる能力は無いだろう
つまり、チョコボーラーがたった一隻でも
軍艦を寄越すだけで、海賊どもは
アウトレンジで一方的に撃破されるだろう
「でも、それは別に
コバヤシやチョコボーラーが
凄いわけではない!
そう、”出来て当たり前”なんだよ
なぜなら、海自の軍艦ってのは、
その為に旧社会の国民の税金で造られた
特別で高価な船なんだからな!!」
思いを言葉に出しているのに気が付いて、
ミヤモトは口をつぐんだ
今、ミヤモトは四股を4人のスタッフに
抱えられて移動させられている。
(これは絶対にこの場所で
口に出すことは出来ないが....
結局、こいつらは『軍閥』なんだ....
国民を守るという義務を負う代わりに
与えられた強力な力を、
今や自らの野望の為に使っているだけの)
そして、軍閥であるチョコボーラーにとって、
島の為に即急に艦艇を差し向ける必用は
サラサラないのだ。
(むしろ、島が略奪され尽くした後のほうが
チョコボーラーにとって都合がいい....
先ほど、コバヤシが自分で言ったな、
欲しいのは臨海工業地帯の労働力だって。
それならば、島が略奪されて
自活能力を失った後のほうがスムーズに行く
生活が成り立たなくなった島の人々は、
自分から頭を下げてでも、奴らの条件を
飲まざるを得なくなるだろうから)
コバヤシは、それを知っているからこその
余裕なのだろう
どうしようもない無常感がミヤモトを襲う
「力こそが全ての無常の掟.....
こんな世界で生きる以上、
俺達はそれから逃れることは出来ぬのだ」
スタッフたちは、運んでいた玉座とミヤモトを
目的の場所に置いた。
そこはプールサイドの端で、
目の前は既に料理類などが撤去されて、
青いブルーシートが敷かれている
そして、長いブルーシートの端では、
ゲームに参加する若者たちが勢ぞろいして
待機していた
床に下ろされたミヤモトは、無力感から
ぐったりと寝そべってしまった
すると、1人のスタッフが親切にも
ミヤモトを抱き起した
どうやら、古代ギリシャ風スタッフに関しては、
特に外見や年齢などに制約はないようだ。
多分、原発近くの漁港町の住民なのだろう
彼は、どこにでも居るような、
しなびたオッサンだった
つい、ミヤモトは毒づいてしまった
「普通のオッサンじゃねえか!!」
大人気なく悪態をついて、
そのスタッフに八つ当たりしてしまった
しかし、古代ギリシャ風コスプレをした
そのオッサンは、無言のまま去っていった
・・・・・・・・・・
ミヤモトは、上半身を起こした状態で
座り込んでいたが、
振り向いて玉座のほうを見た
ゴールデン・コバヤシは玉座から立ち上がり、
両手を腰に当てて直立不動の状態だった
「コバヤシ1佐さん、あなた
まるで、AV男優みたいですよ」
そのミヤモトの言葉を打ち消すかのごとく、
コバヤシの朗々たる声が響く
「それでは諸君、ゲームのルールは簡単だ!!
私の股間に張り付けてある封筒を剥がすだけ。
ただし、それを成すことが出来るのは
たった一名のみ!!
つまりは熾烈なバトルロワイヤーーール!!」
ブルーシートの端に集結した若者たちから、
絶叫に近い歓声が湧き上がる
パフパフパフパフ、デンデンデンデンデン
下品な音のラッパホーンとデンデン太鼓の音が
追従する。
コバヤシは続けた
「さてさて、私の股間の封筒に
何が入っているのか?
それは何と、入浴回数ポイントのチャージが
20ポイントも入った
”ゴールデンカード”だあああああ」
再び巻き起こる大絶叫
「うおおおおおお!!!!」
「凄ええええ!!!」
「まじでぇ?入浴回数ポイントが
20ポイントもおぉ???」
「くっそ絶対に取ってやるうううう!!!!」
コバヤシはさらに続ける
「ただ、単なる競争では、
どうしても筋力に勝る男性が有利なのは必定
故に、ただの力技で押し切ることが
出来ぬように、
デビルたちからの贈り物があーーーる!!」
どこからともなく現れたのは、
悪魔のコスプレをした集団だった
それらは、「キーキー」と奇声を上げながら
両手にバケツを持っていた
デビルたちは、若者たちを取り囲むと、
バケツに入っていたモノを
彼等に思いっきりぶっかけた
コバヤシが、そっとミヤモトに告げる
「あのバケツに入っているのはね、
ローションなんです。
これから始まるのは、
テカテカとヌメッた若者たちの肉弾戦だ。
どうです?今の感想をどうぞ」
ミヤモトは、嬌声を上げる若者たちを
見つめながら答えた
「規制が緩かった時代の深夜番組を
彷彿とさせますね。
あの頃は私も若く、
長い漁を終えて家に帰った時に、
VHSで予約録画をしていたその番組を
見るのが楽しみでした」
コバヤシが相槌を打った
「さよう、あの頃の深夜番組だと
お気づきになるとは、さすが同年代ですな。
私も、防衛大学時代に、
実はこっそりとVHS録画をしていました。
教官に隠れて、仲間たちと観ておりましたよ」
ミヤモトは振り向いた
全身に金粉をまぶしたコバヤシは、それでも
その表情は人間的なものを感じる
(途方もない野望を抱く、
近寄りがたい人物だと思えば、
こういう人間的な一面もある....
やはり、俺はあなたが理解できない)
そして、気が付いたミヤモトは言った
「そういえば、ミズハ3尉さんはどこですか?」