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チョコボーラー6

それはまるで、太古の薄霧の中から出現した

神話の中の登場人物だった。


”全身が黄金色に輝く男”


まさに、あらゆる罪を許され、

あらゆる批判を超越する存在だ



「コバヤシ1佐、やはり俺は

 あなたという人物が理解できない....」



腰に絹タオルを巻いただけのミヤモトは、

ただ、ただ、絶句していた


『ゴールデン・コバヤシ』を乗せた小船は、

広大なメインプールの真ん中を進んでいった。


プールは冷水ではなくお湯なので、

湯気が丁度いい感じに薄霧のようになり

神秘的な光景を演出している


ミヤモトは、拳をギュッと握り締めて

独り言を呟いた



「ヤバい人物なのだろうと思ってはいたが、

 それが今日、確信に変わった


 ぶっちゃけ、あまり関わりたくはない....

しかし、そういうわけにはいかぬ。


小島のとっつぁんと同じく、

 俺も島を救うために

 使命を果たさなければならぬのだ!」



2日前、『わくわくポート』に3隻の機帆船と

1隻のフィッシングボートが集結した。


機帆船の1隻である『つぎはぎ丸』は、

川を上ってリバーサイド同盟を目指した。

そしてミヤモトは、フィッシングボートで

チョコボーラーの原発に来たのだ


自衛隊の能力は未知数で、

島の仲間たちからミヤモトへの通信は

密かに傍受されるかもしれない。

それでなくても、スマホを奪われて

無理やり通信を暴かれるかもしれない。


故に、ミヤモトへの通信は、

小島のとっつぁんからのみとし、

それも前もって決めていた暗号でなされていた



「当方、海賊から身を隠している最中なり。

 なんとか順調にいっている、以上」



と、昨夜、小島のとっつぁんから来た通信だ


つまり、リバーサイド同盟に向かった彼は、

何らかの成果を得ることに成功した

.....ということだ



(だとしても、俺は俺で、チョコボーラーと

 やりとりしなければならぬ。

 海賊どもをぶっ殺すために、打てる手を

 全て打つ必要があるからな)



やはり、ゴールデン・コバヤシとは話す必要が

あるのだ!


そのコバヤシの乗った小船は、ちょうど

こちらへと近づいてくる所だ


ミヤモトは、コバヤシの股間に注目した。


驚きのあまり、つい大声で言ってしまう



「なんと、フルチンではないだと?

 股間に付いているのは、葉っぱなのか?」



全身が黄金色に輝くコバヤシだが、その股間に

緑色の葉っぱが付いているように見える


と、聞き覚えのある声が

ミヤモトの独り言に応えた



「股間のアレは、葉っぱ型の封筒なんです。

 中には驚くべきモノが入っています


 ふふ、しばらくしたら皆が目の色を変えて、

 1佐の股間に群がることになりますよ」



「....ちょっと、意味が分かりません」



振り向くと、ミズハだった


ヒョウ柄ビキニのむっつりドS女王、

コバヤシ大佐の副官の少尉だ


あれだけのことをされても、

ミズハの顔を見たミヤモトの表情は

わずかに緩んでいた


しかし、ミヤモトは厳しく問うた



「ミズハ3尉さん、

 あなたは、コバヤシ1佐のあの恰好を

 どう感じておられるのか?」



コバヤシの乗った小船は、真っすぐに

こちらを目指しているように見える


古代ギリシャ風のスタッフ数人が船を漕ぎ、

黄金色に輝くコバヤシは、船のど真ん中で

堂々と立っている


ミズハは、人差し指を顎の下に当てるという

チャーミングな動作をして答えた



「んー、全身に金粉をまぶしていますねー、

 なんと、神々しい姿でしょう」



こちらに向かってくる小船.....

その船の真ん中で、全身に金粉をまぶした男が、

股間に葉っぱ(の封筒)を付けて立っている


ミヤモトは、ありのままの感想を述べた



「あのお方は、神にでもなるおつもりか?」



こちらにズンズンと向かってくる小船....


少し太った体型も、むしろその神々しさに

貫録というエッセンスを加えているのか?

しかし、金粉がまぶされた顔の表情は

まだ、あまり読めない


ミズハは、ミヤモトの耳元で囁いた



「ミヤモトさん、

 こんなになってしまった世界でも

 我々のように生き残り、

 さらに力を蓄えているコミュニティーが

 多々あります


 それらの指導者たちが皆、考えていることは、


 ”世界が元通りになった後”


 のことなんですよ


 あの、忌々しいモノたちが

 全て駆逐された後に訪れる世界を

 想像してみてください。


 それは、空白だらけの世界です


 生き残った者たちの使命は、

 その空白を埋めることです。


 その時には、もはや

 『自称・日本政府』の出る幕はありませんね。

 連中は、旧政府の後継を名乗っているだけの

 いちコミュニティーに過ぎません。

 はるか北の地で何とか命脈を

 保っているものの、何の権威も力も無い


 現状で判断するならば、

 パンデミック終了後に日本の大部分を

 支配することが出来るのは我々なんです


 地理的に見ても、我々は

 日本のほぼ中心部におりますし....」



目と鼻の先まで迫った小船を見つめながら、

ミヤモトは言葉を返した



「何よりも、最新式の原発と、

 太平洋ベルトの工業地帯を保っている。

 更に、アメリカ第七艦隊との関係も

 良好のようだ。


 そして更に更に、若くて優秀な男女が

 優れた子供たちを残してくれる....ですな」



いつの日か、全ての人型が駆逐されて、

人類が世界を取り戻す時が来るかもしれない。


やがて、彼の愛する者たちの子孫が繁栄し、

空白を埋めるがごとく満ちていく。

しかし、その時には、ここに居る誰もが

生きてはいないだろう。


数十年後、もしくは数百年後.....

人々は、コバヤシを

新しい世界の神と呼ぶことになるのだろうか?



(あなたの目には、そんな光景が

 映っているというのか?)



こちらに迫る小船、その真ん中に立つ黄金男、

ようやく読めた彼の表情は...


まさしく神のごとく達観していた


古代ギリシャ風スタッフ数人が漕ぐ小船は、

ズンズンとこちらに迫って来る


ミヤモトは拳を握り締め、黄金男を睨みつけた



「あなたにとっては、ご自身が生きておられる

 この時代ですら、単なる通過点なのでしょう


 コバヤシ1佐、あなたの秀でたその目は

 先を見過ぎておられる!


 今日という日を生き延びることが全ての、

 私のような凡人とは次元が違い過ぎるお方だ」



しかし、ミヤモトの拳は、

ダランと力なく垂れ下がった



「....まあ、俺がどう思おうが、

 何の意味もないかな...


 俺のような微生物なぞ、

 彼の目に映ってさえいないと思うからね」



しかし意外にも、ミヤモトのその言葉に

ミズハが相槌を打ったのだった



「そうですね、ミヤモトさん


 本当は、あの人の目には....


 多分、私も、ここにいる誰も、

 映ってはいないと思いますよ」



ハッと振り返るミヤモト


ヒョウ柄ビキニむっつりドS洗濯バサミ女王は、

どこか寂し気に見える



「少尉さんですら、こんな気持ちにさせるとは」



ミヤモトは再び前を向いた。


古代ギリシャ風スタッフが漕ぐ小船が、

ズンズンとこちらに向かって来ていた。


小船の真ん中に立つのは、

全身に金粉をまぶしたコバヤシ1佐。


股間に、緑色の葉っぱ(の封筒)が付いている


その姿は、神々しいと共に

”断絶”を感じさせるものがある



(しかし、神となられるであろうあなたは、

 その断絶すら受け入れておられるのか?)



ズンズンとこちらに向かってくる小船.....


ようやく、コバヤシの顔がハッキリと見える

距離まで近づいて来た。


そして彼の目は、真っすぐに

ミヤモトのほうを見つめていたのだった





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