表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/231

チョコボーラー5

ミズハは、どこからともなく洗濯バサミを

取り出して言った



「この公共浴場を利用するには、

 『メンバーズカード』を授与される必要が

 あります


 ミヤモトさん、すでにあなたも

 お気づきですよね?

 

 さよう....ご覧の通り、メンバーズカードは

 ”若くて健康で優秀な男女”に優先して

 与えられるのです

 

 彼等は、その優秀な能力に見合う仕事を

 任されるか、あるいは、高度で熾烈な訓練を

 受けなければなりません。

 結果として、社会に多大な貢献を

 もたらしてくれる彼等に対して、

 大いに報わなければならないのです」



今、ミヤモトは両手をロープで縛られて

トレーニングポールのような鉄棒に

吊り下げられていた。

なんとか床に足はついていて直立状態では

あるものの、まるで中世の罪人のような恰好だ


もちろん、腰に絹タオルを巻いただけの姿


ミズハの持つ洗濯バサミは4つあって、

全てが紐で繋がっている。

紐で繋がれた洗濯バサミたちを手で弄びながら、

淡々と語るヒョウ柄ビキニの美女



「ちなみに、メンバーズカードを

 持っているというだけでは

 公共浴場を利用することは出来ません


 カードには、消費される入浴回数ポイントが

 付与してありまして。

 例えば、

 ポイントが10だと、10回入浴できます


 そのポイントは、各々の功績により与えられ、

 メンバー達の日々のモチベーション向上に

 繋がります


 さらに、公共浴場の利用は、

 社会に優れた血統を

 残してくれるであろうメンバー達に、

 ”カップリング”を促す役割も

 果たしているのです」



ミヤモトは眉をひそめた



(カップリングねえ....

まるで、優秀な競走馬でも

 生産するかのような物言いだな)



しかし、鉄棒に吊り下げられた状態で

周囲を見渡すと、

若くて美しい男女のカップル群が、

くっつきあって仲睦まじく談話をしている。

それも、半裸の恰好で


まさに、輝かんばかりの光景だ



(コバヤシは、県知事ゴンドウの名を使って

 彼等をここに集めてきた。

 しかし、

 その行為の汚名を被らされたゴンドウは

 一体どこだ?

 最近は名前すら聞かないが)

 


目に入る美男美女たちがお互いに向ける、

”とろけるような”眼差し


今のミズハの瞳には、それに近い

怪しい輝きが灯っているように感じる



(いや、むしろ、

 肉食獣が獲物を追いつめた時の眼差しかもな)



しかしミヤモトは、気丈にも

キッ!とミズハを見返して言った



「ミズハ3尉さん、私の頭の中に

 浮かんできたのは”優生学”という言葉です。

 私はコバヤシ1佐というお方が

 少しわかった気がしています。


 そう、あのお方は優秀な人間が大好きなのだ、

 ご自身も優秀であるがゆえにね!


 ここいる大勢の優れた男女....

 それはあなたも含まれるでしょうが、

 あのお方は、

 ここの皆を心から愛しておられるのでしょう


 しかし同時に、

 県知事ゴンドウのような人間を

 散々、利用し尽くした後に

 切り捨てる冷酷さもおありだ」



そう、凡人、弱者、才無き者たち、年寄り、

他人の助けが要る人々.....

ミヤモトにとっては、自分が属するであろう

カテゴリーだ


コバヤシは決して、

彼等を愛することはないのだろう


向かい合うミヤモトとミズハ少尉


端から見れば、両手を縛られて

鉄棒に吊り下げられた半裸の中年オヤジと、

その前に立つヒョウ柄ビキニの美女だ


周囲の若者たちは、二人とは少し距離を置いて

思い思いに享楽に耽っている


そして、しばしの間の後....

ミズハは、少し首を傾げて答えた


 

「あのタレント知事は、

 勝手に居なくなったのです


この県の奥地に、リバーサイド同盟と名乗る、

 ”ならず者コミュニティー”がありますね


 ゴンドウは、

 県所有のヘリでそこに出向いたまま

 行方不明になりました」



ミヤモトの乳○に洗濯バサミが挟まれる



「ぐああああっ!!」



苦悩に満ちた表情を浮かべるミヤモト



「あなたが優生学だと感じておられるのなら、

 まあ、否定はしません」



そう言いつつも、ミヤモトの

もう片方の乳○に洗濯バサミを挟むミズハ



「があああっ!!ぐぐ...」



両方の乳○を、紐で連結された洗濯バサミで

挟まれたミヤモト


しかし、ミズハの手元にはあと二つもある!



「我々は、パンデミック初期に

 弱者を見捨てました、それは事実です。


 しかし、弱者保護に

 ”余計なリソース”を割くことなく

 復興に取り組めたおかげで、

 原発と工業地帯を稼働することが

 出来たのです


 その結果として、今現在、

 近畿と東海に跨る多くのコミュニティーで

 大勢の人々の命が救われている。

 これもまた事実なのです」



ハアハアと荒い息を吐きながら、ミヤモトは

それでも食いついた



「弱者を保護するのは、余計なリソースですか!

 少尉さん、お若いあなたが使いそうな

 言葉ですな

  

 おそらく、あなたが物心ついた時から、

 日本はすでに勝ち組と負け組にはっきりと

 2分されていたと思います


 そう、負け組は何の弁明も許されず、

 ひたすら非難を浴び続けていた。

 そんな世情の中を、地べたを這いつくばる

 地虫のような負け組どもを見下ろしながら、

 あなたは、エリート街道を進んでいった

 

 今の世界でさえ、あなたにとっては

 更に望ましいものなのでしょうな」



ミヤモトの玉袋に洗濯バサミが追加される



「おごぼええええええ!!!!!」



両手を縛られて鉄棒に吊り下げられながらも、

ミヤモトは全身を前後に激しく痙攣させた。



「おお、まるで釣り上げられた直後の魚ですね、

 面白い!」


「........」



一瞬、気を失うところだったが、

気を取り直したミヤモトの目の前には、

前屈みになってこちらを覗き込むミズハの姿


両乳首と両玉袋を紐で連結された4つの

洗濯バサミに挟まれたミヤモトおじんの視線は、

ヒョウ柄の生地に半分ほど包まれた二つの

球状の丘に釘付けだった


自分の胸元に視線を感じたミズハは言った



「ほー、余裕ですねー


 まあ、それはともかく。

 あなたは私を若いとおっしゃいましたが、

 ミヤモトさん、あなたもお年の割りには

 良い身体をしてらっしゃいますよ。

 さすがは漁師さんですねえ」



なぜか、ミズハの表情が和らいでいるように

感じる。



「私は、3年前は防衛大学の学生でした。

 パンデミックが発生し

 自衛隊員の人員が不足したために、

 私のような学生も士官候補生として

 現場に駆り出されました。

 その後、コバヤシ1佐の元で

 教育を受けさせてもらい、

 3尉に任官されたのです。


 しかし、防衛大学に入る前の私は、

 千葉県銚子市の居酒屋の娘だったのです


 高校生までは、両親の手伝いで店に入って、

 常連客である漁師のオジサンたちと

 交流を持っていました」



ミヤモトはちょっと驚いた



「ほう、漁師相手の居酒屋とは...

さぞかし評判の看板娘だったのでしょうな」



どことなく、

居酒屋の看板娘の面影を取り戻したミズハ少尉



「ですから、あなたが思っているような

 冷血なエリートでも何でもないですよ私


 むしろ、3年前から

 何も変わっていない人のほうが

 珍しいんじゃないでしょうか?」



ミヤモトはぐっと目を閉じた



(そうだ、俺達には、チョコボーラーを

 批判する資格は全く無いんだ!


 派手な内戦をやらかして、

 ゾンビパンデミックも防げず、

 島の人口の半分を死なせたじゃないか


 今でも、襲来してきた海賊どもに

 手も足も出ない状況だ)



そう、こんな世界になってから、

誰もが変わらずを得ないのだ。


だとすると、客観的に見たならば、

チョコボーラーは

この世界における唯一の希望に思える


と、ミズハは、ミヤモトの前に

ブランと垂れ下がる紐を手に取った。


そして言った



「さて、お仕置きも

 そろそろ終わりにしましょう。


 初日でこんなに弾けちゃあダメですよ

 

 ミヤモトさん、あなたは

 今後もここを利用できる可能性が

 あるのですから」



ミヤモトは驚きに目を見開いて言った



「なんだって!俺はここに再び来れ....」



ミズハは、手に持った紐を

思いっきり引っ張った。

連結された4つの洗濯バサミが勢いよく飛ぶ


さすがに今回は、ミヤモトも気絶したのだった



////////////////////////////////////////////



「気が付いたら全てが夢で、

 俺は、地獄の外界に

 置き去りにされているのに気が付いて

 絶望する.....ことは無かったな」



ミヤモトは、両手を縛っていたロープから

解放されていた。

柔らかい優しい素材の床から起き上がると、

目の前には巨大なプールのような風呂。


そして、相変わらず周囲で繰り広げられる

美男美女たちの狂騒


ミヤモトは、キョロキョロとしてミズハ少尉を

探した


すると、唐突に、プールサイドに若者たちが

集まりはじめた。


鳴り響く拍手....


男女の嬌声......


ミヤモトは、急いでプールサイドに駆け寄った



「なんだありゃあ?」



興奮する若者達とは対照的に、

ミヤモトは冷めていた



「コバヤシ1佐、やはり俺は

 あなたという人物が理解できない....」



広大なプールのど真ん中を、一艘の小船が

進んでいる。

古代ギリシャ風?の恰好のスタッフが数人、

オールで小船を漕いでいる


そして、小船の真ん中に立つ金ピカの男


一見、金メッキされた像のように見えるが

生きた人間だった。


それは、『ゴールデン・コバヤシ』だったのだ





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ