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チョコボーラー3

喫煙ロビーを出たコバヤシは、

ホテルのエントランスへと向かった


ミヤモトは、彼の後を黙ってついてきていた。


隣には、コバヤシ大佐の副官のミズハ少尉、

無表情ながらもなかなかの美人で

年齢は20代前半くらいだろうか?


出入り口に向かう3人の元に、

ホテルのスタッフらしき女性が2人、

そそくさとやってきた


彼女らは、コバヤシとミズハの外套と帽子を

持っている。


ミヤモトは、少し離れて待っていた


二人の自衛隊将校の服装を見ていると、

自分のみすぼらしい身なりとの格差を思い知る


・・・・・・・・


外に出ると、セダンタイプの車が

待ち受けており、

車の側に立つ自衛隊員がピシッと敬礼していた


すると、コバヤシは言った



「3曹、今日はいい、

 麓まで歩いて行こうと思っている。

 健康の為に、たまには身体を動かさないとな」



こうして、3人は麓まで歩くことになった


ミヤモトは思った



(一体、俺をどこに連れていくつもりなんだ?)



泊まっていたホテルの一室から呼び出され、

最上階のスウィートルームまで来て

なぜか、そのままずっとコバヤシの

後を追ってきているわけだが....


3人は、自衛隊員たちの敬礼に見送られ、

設置されていたゲートも通過し

ついにホテルの敷地外に出た


そして、車道ではなく、遊歩道のような

小道を下っていった


ようやくコバヤシは振り返って言った



「ミヤモトさん、今宵は少々冷えますね。

 だが、しばらくの辛抱ですよ。

 今から我々が向かうのは、公共浴場だ

 

 気持ちのいい湯に漬かりながら、お互いに

 腹を割って話そうではありませんか」



ミヤモトはキョトンとした



「公共浴場ですか?」



なんとなく、おっさん同士が

銭湯の湯舟に浸かる絵が浮かんでくる


まあ、こうして見ると、

チョコボーラーの司令官コバヤシも

少し太った気の良さそうなおっさんだ



「ホテルのお風呂も

 なかなかに良かったですけど....

 ふむ、わざわざ別の場所の風呂屋に

 連れて行ってくれるんですね」



ミヤモトは言いながら、麓のほうを見た


つい、驚嘆の言葉が出てしまう



「いつ見ても驚きですねえ....

かつてこの辺りには、原発と、少し離れて

 小さな漁港町しかなかったというのに」



そう、今や、原発の側に新しい工場群が出来て、

漁港町の隣にも、新しい住人たちの居住区が

出来ていた。

それらが繋がり合って、

まるで一つの巨大な町のようになっている


圧倒される風景だ


空は夜なのに、眼下の”町”はまるで

昼間のように煌々と輝いているのだ。


旧世界では特に珍しくもなかったものが、

今や驚きに感じる。


そんなミヤモトの心情を見透かしたように、

コバヤシが言った



「ここで消費される電力なぞ、

 原発が生み出す豊富な電力の

 ほんの一部でしかない


 我々は、高圧送電網を通じて、

 遠方にある様々なコミュニティーに

 電力を供給しているのです」



ミヤモトに後ろ姿を見せながら、淡々と

丘の小道を下るコバヤシ



「我々は、悪意のある風評により

 かなりの誤解を受けている。


 しかし、現実を知って欲しい


 私の部下たちは、原発だけでなく

 高圧送電網や変電所をも維持して

 守っているのです。

 大勢の生存者たちの為にね」



今、3人は、コバヤシ、ミヤモト、ミズハ

の順に一列になって道を下っていた。


先頭のコバヤシは、なおも力説する



「ミヤモトさん、あなたは体験なさっていて

 ご存じでしょう、

 かつては当たり前にあったものを、

 今の世界で手に入れる苦労を!

 

 実際に、そういう苦労を

 なさった方達の中には、

 我々に手紙を書いて励ましてくださる人も

 おられます」



しかし、ふいにコバヤシの口調が強まった


 

「しかし、運が良いのか、

 中には苦労もせずに生き残った人々が

 おってですなあ!


 大抵、そういう手合いというのはね、

 周囲の人たちに助けられていたのに、

 それに全く気が付いていないのです


 我々の事を、無償でサービスを提供する

 ボランティア団体のように見ているのです」



ミヤモトにも覚えがあった.....


そう、3年前、都会から島に逃げてきた連中だ


奴ら『都会派』は、まるで自分達『田舎派』を、

無償でサービスを提供する

ボランティア団体のように扱っていた


こちらは、命がけで

内地の廃墟から物資を調達したり、

船の燃料も少ないのに

大人数の腹を満たす為、

漁に出かけていたというのに.....


コバヤシの話は続き、3人は丘を降りていった



///////////////////////////////////////



丘を降りて結構すぐに、原発のほど近い場所に

それはあった


たどり着いたのは、『文化ホール』だった


そう、”文化ホール”だ


周囲から浮くくらい異様に立派でモダンな建物。


ミヤモトの脳裏によぎったのは、

大洪水によって壊滅した漁港町の


『わくわくポート』


まあ、あそことは違って、この文化ホールは

国と電力会社からの補助金によって

建てられたものだった。

つまりは、原発の建設を受け入れる代わりに

与えられた恩恵というやつだ...


コバヤシは、ミヤモトのほうを向いて微笑んだ



「ふふふ、異様に立派な文化施設があるのは

 田舎アルアルですなー


 しかし、我々はかつてとは違い、

 この建物を有効に活用していますよ」



入口は、増設された照明によって明々と

照らされている。

そして、なぜか蝶ネクタイにタキシードの男が

2人立っている。



「ここに入るには、”メンバーズカード”が

 必要なんだがね、

 もちろん、私は顔パスだ」



得意げに語りながら、入り口に向かうコバヤシ


タキシード男たちは、コバヤシに深く一礼した。

そして、ジェスチャーで招き入れる動作をする


ミヤモトは問うた



「あの、ここ、公共浴場なんですよね?


私、”銭湯”のイメージだったんですけど


 おっさん同士が背中を流しあって、

 湯舟に浸かって語り合うものだと....


 その後、脱衣場でビールかコーヒー牛乳でも

 飲んだりとかして....」



ついに、無表情だったミズハが噴き出した



「ブッ!....コバヤシ1佐と銭湯ですか?

 すごい光景ですねある意味」



3人は、中に入っていった


ずんずんと奥に進む2人の将校の後ろで、

ミヤモトは狼狽していた



(なんだこりゃあ?)



まあ、一応は地元民なので、

この文化ホールには来た事はあった。

しかし、記憶よりもはるかに豪勢になっている


床に敷き詰められた高級絨毯、

さりげなく配置してある高級調度品、

頭上には高級シャンデリア....

甘い果実のような匂いさえ漂っている


ふいにコバヤシが言った



「私は準備に時間が掛かるので....


ミズハ3尉、ミヤモトさんを

 案内して差し上げなさい」



そして、どこかへと消えていくコバヤシ


ミヤモトとミズハは、連れ立って

広い部屋に入った。



(そういえば、建物の中に入ってから誰にも

 会っていないが.....!!!??)



部屋の中は、ペルシャ絨毯を巻いた箱のような、

小さくも豪華なテーブルっぽいものがいくつも

置かれている


ミズハは、その一つの前で立ち止まると、

帽子と外套を脱いだ。

さらに、スーツの上着も脱いで、

白シャツとタイトスカートの姿になる


テーブルっぽいものの上に積まれる衣服たち



「え、何してんすか、ミズハさん!」



ミズハは、結んでいた髪をほどいた。

そして、頭を軽く振る


フワリと膨らむゴージャスな髪が解き放たれ、

お堅い自衛隊将校だった彼女の印象が

みるみると変わる


少し前屈みになり、片足を上げて靴と靴下を

脱ぎながら、

ミズハはミヤモトを上目遣いで見て言った



「衣服は、この上に置いたままで構いませんよ。

 スタッフがこっそりと回収して、

 帰るときには、またこっそりと

 戻してくれますから


 先ほど、1佐が申しあげていたと思いますが、

 基本、ここはメンバー制なので

 紛失とか盗難はありませんからね」



しかし、ミヤモトは答えずに

ただ、ただ固まっていた


ついに、ミズハはタイトスカートを下ろした。

白シャツの裾から伸びるのは、

しなやかで力強くも、色白で細く長い生足


ミヤモトの凝視に臆することなく、

ミズハはネクタイを解いてから

シャツをバサッと脱いだ


ミヤモトは、言葉に出さずにはいられなかった



「何と、ヒョウ柄ビキニとは!!!」



制服の下は、煽情的なヒョウ柄ビキニとは!!!


ビキニの上下姿になったミズハは、

黙ったまま歩み、

大きな鏡のある場所に行った。


カツカツではなく、ペタペタと裸足なのがミソ


やはりミヤモトの凝視を気にすることなく、

身体をくねらせて横を向いたり

少し後ろを向いたりして

鏡に映った自分の全身を確認している



「実は、がっかりしてません?

 裸の付き合いだと思っていたでしょうか?」



ミズハの言葉に、ミヤモトはキョドリまくって

応えた



「いや、その、がっかりとかいう次元じゃなく


 本当に、銭湯でのおっさん同士の

 付き合いかと思っておりましたので!!!


 それにしても、この部屋、

 ちょっとしたパーティーを開く場所だと

 思っておりましたら、脱衣場だったのですね


 あ、あっ、当然ながら自分も脱ぐんですよね?

 あなたと違って、私は、

 下に水着は付けてなくて....

フルチンはまずいっすよね、どうすれば」



ミズハは、鏡を見ながら答えた



「台の上に、薄い絹タオルがありますから」



ミヤモトは気が付いた。

ペルシャ絨毯のようなテーブルっぽい台の上に、

薄い絹タオルが小さく折りたたんで

置かれていた


結局、

腰に絹タオルだけを巻いた姿になったミヤモト



「では、参りましょう」



ヒョウ柄ビキニのミズハが、再び歩き出した


広い脱衣場を出て、長い廊下を歩く


やはり豪華な内装だが、床に敷かれているのは

吸水性のあるカーペットだった。

ようやく、自分たちが

風呂に向かっているというのが実感できる


それにしても、ミヤモトの目の前には、

歩みと共に左右に振れるヒョウ柄の生地....

と、その下の筋肉を帯びた白い肌



「あ、そういえばコバヤシ1佐さん...

準備に時間が掛かるとか

 おっしゃっていたような


 一体、何をしておられるのだ?」



ミズハは答えなかった


そして、ミヤモトは

少し前屈みになっていたのだった


 



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