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ムケチン作戦~壊れやすいもの

時刻は午後7時過ぎ、まだ微妙に

真っ暗ではない天文薄明と言われる時間帯だが、

空には明るい星々が輝いていた


社務所の屋根の上のヨッシーの元に、

ウメさんがやってきた


梯子を登り、屋根の縁からヒョイっと顔を

覗かせるウメさん。

四つん這いの姿勢で、慎重に屋根を移動する。

警察の出動服に、左腰には軍刀を差し、

右腰にはホルスターに入った拳銃を

装備している


そして、ウメさんはヨッシーの隣に座った


ヨッシーは、何かを言おうと口を開きかけたが、

結局は黙ったまま空を見上げた


ウメさんも、しばらくは一緒に

空を見上げていたが

やがて、ボツリと口を開いた



「....矢之板智を処刑した根拠はね、受刑者は

 許可なく警察官及び防衛隊の管理する銃器の

 1メートル以内に接近してはならない

 っていう、私たちの法に抵触したから。


 でも、これは、第三者による検証を

 必要とせず、要するに恣意的なのね」



黙ったままのヨッシー

ウメさんは続ける



「うん、私たちのリバーサイド同盟はね、

 かつて存在した独裁国家も真っ青になるほど

 警察の権限が強い。

 マーケットでの囮捜査を思い出して。


 囮捜査というのはね、

 今はまだ犯罪を犯していない、

 もしかしたら未来永劫

 犯罪を犯すことはないかもしれない人間を、

 犯罪に誘導する行為なの。


 かつての社会では許されていなかった


 あの十文字叶も、見た目では分からないけど、

 その持つ権限はとんでもなく強い」



ウメさんらしくなく、淡々と弁明をしている。

ヨッシーは黙って聞いていた



「でも、それは、私たちの暮らしている社会が、

 あまりにも脆弱で壊れやすいから


 反乱分子だけでなく、個人テロですら、

 壁を壊すことで社会に壊滅的な打撃を

 与えることができる


 それを未然に防ぐために、

 犯罪因子を前もって刈り取る必要があるのよ」



ついに、黙ったままだったヨッシーは答えた



「分かりますよ、ウメさん。

 俺達の島だって同じことをしたから。


 あの時、田舎派は、都会派がまだ何も行動を

 起こしていなかったにも関わらず、

 先制攻撃を行ったんです。

 

 ジジイは、その事で、

 心に永遠に癒えない傷を負いました」



ふと、ヨッシーの肩に

ウメさんの片腕が回された


少年の肩を抱きながら、ウメさんが言った



「つい、リバーサイド同盟の、

 君と同じくらいの年齢の子に話すように

 してしまったわ.....


 あそこでは、ほとんどの子供たちは

 大して苦労はしていないの。

 言っちゃあなんだけど、大人たちの

 背後で守られてて、

 今では、かつての社会と同じような生活を

 営んでいるわ


 そうよね、ヨッシー君、

 君はすでに地獄を見てきたのよね」



ヨッシーは、ウメさんに肩を抱かれながら、

レバーアクションライフルを抱えるような

姿勢で答えた



「...んなこたぁないっすよ、

 結局、俺とスミレも、リナとリサも、

 なんだかんだと、大人たちに

 守られていました。


 ウメさん、そして、矢之板さんみたいに....

 本当の地獄を経験してきたことは無いです」



しばらく二人は無言だった


ヨッシーは、自分を包む暖かい体温を

感じていた。

隣のウメさんは、ヨッシーよりも小柄だろう


しかし、彼女の温もりは、

自分と、さらにもっと大勢を包んでいるのだ


...と、同時に、二人のポケットの中が振動した


ウメさんとヨッシーは、

同時に通信機を取り出した


聞こえてきたのは、リナの声だった



「あー、聞こえますか?

 こちら、チームチャーリー

 こちら、チームチャーリーです。


 ちょっと、ジジイがふさぎ込んでしまって

 私、美月理奈が代わりにやってます


 チームブラボーの、ウメさんとヨッシー、

 その、ご愁傷様でした。


 こちらの状況は、非常に平穏、

 心配はいりません。

 列車が来たときの準備もすでに万端、

 いつでもどうぞ....」



ウメさんが、隣のヨッシーに目で合図した


ヨッシーは、スマホ型の通信機を耳に近づけ、

通話ボタンを押した



「あ、あ、こち..ら、チーム...ブラボー」



気持ちとは裏腹に、言葉が詰まって

まるで泣いているようだ。

ヨッシーは驚いた


すぐに、スミレの声が言った



「にぃ、しっかり!!

 大変な思いをしたね、でも、仕方ないよ。

 正直、私はあの人を好きではなかったけど、

 それでも、こんな事は予想してなかった


 でも、でも、にぃなら、大丈夫だよね!

 マジ、しっかりしてね、頼むよ


 ウメさんも、にぃを本当に頼みます!!」



スミレなりに、本当に心配しているのだろう。

ヨッシーは苦笑いをした


すると、唐突にチームアルファが

割りこんできた



「こちら、チームアルファ、

 ちんかわむけぞうだ


 毎回ながら、割りこんでスマン


 こちらの状況は、後30分ほどで

 試運転までこぎつけそうだ


 要するに、上手く行けば約1時間後に出発、

 直した『シセⅢ型気動車』を、

 チームブラボーの神社に向かわせる予定


 それで、人型なんだが....


 こちらで、かなりの数を倒した。

 しかし、ここしばらく

 パッタリと人型の出現が止んでいる


 放浪型については

 あまり詳しく解明されてないけど、

 なんとなく嫌な予感がする


 こちらに来たのとは別の団塊が、

 チームブラボーの神社に向かっていると思う


 あくまで俺の予感だが、

 ウメさん、ヨッシー君、警戒してくれ」



ヨッシーは答えた


今度は、言葉に詰まることは無かった



「こちら、チームブラボー、小島洋一


 皆の御心配、及びに御忠告、感謝します。


 こちらの状況ですが、

 私とウメさんが拠点にしている建物には、

 矢之板さんが作ってくれた鉄条網が

 張り巡らせてあり、それらは非常に堅固なり


 列車の到着まで、警戒を続けます


 .....以上!」



通信が終わり、ヨッシーとウメさんは

再び静寂の中に居た


眼下は、数台のLED照明によって照らされており、

屋根の上にも、一台のLED照明が設置されて

裏の森を照らしている


そして、鉄条網の外側の参道では、

犬太郎と犬次郎の2匹の犬が走り回っている


参道の向こう側、

かすかに届く照明の光のおかげで、

大砲の櫓がボンヤリと確認できた



ヨッシーは思った



(今から、全ての元凶になった連中が

 ここにやって来るだろう


 そう、こんなクソの世界の元凶だ


 だから、俺はもう振り返らない!

 来るなら来やがれ、モンキー野郎ども)





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