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タオル

ジジイは、ランヤードから拳銃を外して

手に取ってしげしげと眺めた


それは、『SAKURA』と呼ばれるリボルバーだ


小型で短銃身のズングリした奴だが、

グリップの部分は指の形に凹みがあって

なかなかにカッコいい


シリンダーラッチを引いて、レンコン型の

シリンダーを横にズラす


中には38スペシャル弾の空薬莢が5発、

つまり全弾を撃ち尽くしていた。

空薬莢を取り出してシリンダーを元に戻し、

銃が動作するか確認してみる



....引き金は引けなかった



どうやら、部品の隙間にゴミが

詰まっているようだ。

銃口も、泥のようなもので塞がれていた


ジジイが言った



「でも、こいつを分解清掃したら

 再び動くかもしれねえぜ!

 予備弾はプラケースに入ってたから多分、

 大丈夫だろう」



ジジイは懐から手拭いを出して、

拳銃と弾の入ったプラケースを包み

再び仕舞った。


そして、人型を左手の義手で引っ張っていって

波打ち際まで持っていった



「潮が満ちたら、波がさらっていくだろう。

 頭部を破壊した人型は、

 体内のゾンビウイルスが不活性化して死滅し、

 やがて自然分解されるから

 脅威はねえはずだ」



頭部がボロボロになった人型は、

打ち寄せる波に洗われている



ヨッシーとジジイは

波打ち際の人型に手を合わせた後、

淡々と帰り支度を始めた


2人は、服のままで外のシャワーを浴びた


丹念に全身を洗う


ゾンビウイルスは外界に対してとても脆弱で

人型や人間の体内でしか生きられないのだが、

念には念を入れた


もちろん、矢も丹念に洗った


今日は3月にしては暖かい日だが、

それでも水はとても冷たい


合羽を脱ぎ捨て、服ごとシャワーを浴びながら

ヨッシーは思った



(リナにリサにスミレ、

 さっきは、3人ともこんなに冷たい水を

 喜んで浴びてたからな....

 やはり、寒さよりも

 身体を洗える嬉しさのほうが

 勝っていたんだな。

 ....女の子なんだなやっぱり)



ヨッシーの中には、この3人を

守ることが出来たという達成感があった。

しかし、同時にどこか重たいものを

背負ってしまったという感じもあった


要するに複雑な心境だったのだ


最後にジジイが、

人型によって変形したフェンスの金網を

3本指の義手で直した



ダダダダダ.....



エンジン音を響かせる「つぎはぎ丸」に

戻る2人



////////////////////////////////////



船の上では、切り立った崖の下の低い岩

を伝ってこちらに向かうジジイとヨッシーを、

リナとリサが見つめていた


2人の少女の胸はバクバクと鳴っていた


2人とも、競泳水着の上に

Tシャツだけを羽織り

それぞれのマイ.タオルを首に掛けている


船から取水場まではそれなりに距離があり、

向かってきた人型も詳細に見たわけではない。

しかし、双子姉妹の3年前の記憶には

人型の恐ろしさが

しっかりと刻み込まれていた


大都市では、人型はまるで容赦のない嵐の

ように人々を飲み込んでいった


フワリとしたセミロングの髪に、切れ長の目の

リナは思った



(あの恐ろしい怪物に3年間も

 会わずにいられたのは

 結局、島の人たちのおかげ...

 ええ...わかってはいるんだ)



フワリとしたボブショートの髪に、

パッチリとした目のリサが言った



「お姉ちゃん、やっぱり皆で協力し合わないと

 ダメなんだよ。

 私たちも、過去に囚われてちゃあダメなんだ。

 これから生きるためにも....」



妹のリサの言葉に、

姉のリナは俯いたまま無言だった



やがて、ジジイとヨッシーが

船に乗り込んできた



”ありがとう”



と言いたい....しかし、その代わりにリナは

首に掛けたタオルを手に取った


そして、ヨッシーのほうに

それを差し出して言った



「酷い顔だよヨッシー、ずぶ濡れだし。

 ほら、風邪を引くから」



ヨッシーは、こすからい目を一瞬

驚いたように見開いたが、

黙って差し出されたタオルを取った


そして少年は、タオルに顔を埋めると

大きく息を吸った


まるで、気分を落ち着かせるかのように

顔をタオルに埋めて何度も息を吸っている



”かなり変態チックな風景だった”



しかし、リナはそんなヨッシーの姿を黙って

見ているばかりだった


ふと、背後でリサの声が言った



「あの、総一郎さん....全身が濡れているので

 このタオルを使ってください」



リナが振り向くと、ジジイに向かって

自分のタオルを差し出すリサの姿


長身に禿頭と白い髭のジジイは

少し戸惑っているかのように見えた。

しかし、すぐに輝くばかりの笑顔になって

言った



「ジジイでいい、ありがとうなリサ」



長身を屈め、差し出されたタオルを取るジジイ


少し上目遣いにジジイを見上げるリサ



リナは驚きの目で二人を見つめた


ヨッシーはリナのタオルに顔を埋めて

スーハーと息を吸い続けていた



と、ブリッジの操舵室からスミレが出てきた。

そして、言った



「あの、大変だよ皆!

 島から通信が入ってさ」



全員がスミレのほうを向いた


ストレートの髪を無造作に束ね、

Tシャツとショートパンツ姿だ。

そして、小島家特有のこすからい目は

どこか不安な色を帯びている


スミレは、一度深呼吸してからこう言った



「島には戻らないほうがいいってさ」




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