ムケチン作戦~夢
『神楽殿』の細長い控室の中は、
小さなLEDランタンだけが光源だった
座禅を組んでいるかのように座り込み、
奥の壁のほうを向いてじっとしているウメさん
そのすぐ右後ろにLEDランタン、さらに後ろに
本革製ホルスターに入った「グロック17」が
無造作に床に置かれている。
サトシの注意は、グロックだけに向いていた
一応、左側に軍刀とショットガンが並べて
壁に立てかけられているが、
それは眼中にはなかった
(もしも、俺の存在を把握しているのなら、
当然、拳銃のほうに向かうはずだ)
サトシは自分の身体能力に自信があった
(元警官だし、武器を持てば相当強いらしいが
でも、こんなババア、
俺が力づくで押さえれば
一瞬で片が付くはずだ)
軍刀なぞ、所詮は人の力で振るうものだ。
ショットガンは脅威だが、
床に置かれている弾帯ベルトを確認するに、
6発の弾全てがそこに収められたままだ
サトシは、ホルスターに入った拳銃を
視界の片隅に入れながら、
両手で持った風呂敷を引き延ばした
目の前のウメさんの後ろ姿は
とても姿勢が良く、
とてもセクシーに見える
(すぐに、俺が、思い知らせてやる)
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周囲には白いモヤモヤのようなものが
立ち込めている....
悪しき者たちは全て滅び去り、
”ムケチンの英雄たち”は一堂に会していた
ウメさんに、ちんかわむけぞうに、
マッシュルーム眼鏡が、
にこやかに微笑んでいる
そして、満足気な表情のジジイの前には、
矢之板智が居る
妹のスミレが、こすからい鋭い目で、
そのサトシを睨みつけている。
後ろのリナとリサも同じような顔つきだ
ヨッシーは、握りこぶしを作って
スミレの頭頂を小突いた
「こら、スミレ、矢之板さんは、
俺達の島を救ってくれた英雄なんだぞ!!
あの時、矢之板さんが我が身の危険を
顧みずに神社に来てくれなければ、
俺とウメさんはもっとヤバい目に会っていた
ちゃんと礼を言うんだ」
ヨッシーの言葉に、3人の少女たち以外の者が
うんうんと頷く。
スミレは、少しバツの悪そうな表情を作ったが
サトシに向けて頭を下げて言った
「あ、あの、矢之板さん....
本当に、ありがとうございました
加えて、これから私たちの島に
住んでくださるそうで
我ら一同、大歓迎です...
これからも、どうぞよろしくお願いします」
リナとリサも、スミレと一緒に頭を下げている。
ヨッシーは、ちらりとサトシのほうを向いた
そう、これから”島の住民”となるサトシだ
受刑者から一転して島の英雄となった男は、
晴れやかな表情だった。
つい、ヨッシーの頬も緩んでしまう
(やっと、本当のあなたと付き合える)
少しモジモジしながらサトシが言った
「あ、ああ、別に、礼なんていらないよ、
俺のほうこそ、島の人たちに感謝しないと。
うん、これから俺は島に住むことになるけど、
微力ながら島の発展のために力を尽くしたい
だから俺は、君たちと同じく漁師を目指すよ」
ヨッシーが言った
「矢之板さん、あなたはとても優秀な人なので、
絶対にいい漁師になれますよ!
俺が保証します。
ほら、ジジイも教える気マンマンだし
うん、都会出身のあなたにとっては、
小さな島の生活は少し退屈かもしれないけど
でも、そんなあなたに
是非とも聞いて欲しいことがあるんです」
サトシが、不思議そうな表情でこちらを
見ている
ヨッシーは、ついに打ち明けた
「実は俺、夢があるんです!!
島の連中に話したら、現実を見ろとか、
悪人面のくせに、とか言われそうで
ずっと黙ってたんですけど
実は俺、長い航海に耐えうる船で
世界中を周ってみたいって、ずっと.....
大冒険をしながら、七つの海を制覇して、
世界中で生き残っている人たちに
会ってみたいって.....」
あまりにも非現実的な夢だ。
ヨッシーは言いながら俯いてしまった
しかし、サトシの驚嘆の声が聞こえる
「ヨッシー君、なんて素敵な夢なんだ!!
ああ、
きっと世界中に、リバーサイド同盟のように
前向きに生きている人たちのコミュニティーが
あると思うんだ。
そこの人たちと実際に会って、
連携を取り合って
そしたら、素晴らしい事が起こると思う」
ヨッシーは、ハッと顔を上げた。
そして、饒舌になった
「そうですよね、そう思いますよね?
ええ、航路の探索とか交易とか使節とか。
そういった前向きな目的で
世界中を航海できたらなーって、
ずっと夢見てたんです!
島の造船所で、いつか立派な機帆船を造って。
矢之板さん、あなたが船長で俺が航海士でも
いいんです。
退屈とは程遠い大冒険の日々が待ってますよ
究極的には、あの本場ロサンゼルスでさえ、
この目で見る機会があるかも。
その時、もしも、ロサンゼルサーたちが
太平洋を越えてきた俺達を見て驚いていたら、
英語でこう言ってやりたいんです
”ロスでは日常茶飯事なんだろ?”って!
だから、だから、
二人で夢を追っかけましょう」
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どんどんと暗闇が迫り、
肌寒くなってきた社務所の屋根の上
レバーアクションライフルを握り締め、
1人孤独に周囲を警戒しながらも、
ヨッシーの頬は緩んでいた
小さく独り言を呟くヨッシー
「えっ?世界中を航海する夢を、
俺と一緒に追いかけてくれるんですか?
マジっすか、やった、やったぁー」
打ち捨てられ、朽ちるがままの神社。
玉砂利の隙間には草が生え、やがて
全てが自然に飲み込まれてしまうのだろう。
その建物の屋根の上でポツンと佇む彼の姿は
とても寂しげであり、狂気すら感じさせた
神経を研ぎ澄まし周囲を警戒しながらも、
それでも、ヨッシーの独り言は続く
「約束っすよ、矢之板さん!
絶対に、二人で世界を周りましょう
まずは、お互い頑張って航海術を身に付けて、
島の連中を説得して、
リバーサイド同盟も巻き込んで、
大きな船を造るんです。
3本くらいマストがある立派な船を....」
ちょうど同時に、神楽殿の控室にて
ついに、ウメさんが動いたのだった。
「!!!!!」
それは、一瞬の出来事だった。
ウメさんの左後ろの壁に立てかけてある
「95式軍刀」、
日本刀の形をした全金属製の軍刀だ
唐突に繰り出された左足のキックによって、
軍刀はウメさんのほうへと倒れた
身体を僅かに捻って、
左手で落ちていく金属製の鞘を上からキャッチ。
ほぼ同時に、
右手で柄を握りながら親指で駐爪を押す
神速で身体を右方向に回転させながら、
鞘にロックされていた刀身を抜いていく
おぞましい強姦魔の姿を眼前に認め、
ウメさんは確信した
”完璧な間合いだ”
戦時中の製作ながら、未だに爛々と輝く刀身。
それは、まるで光の帯のような軌跡を描いた
その帯の中に飲み込まれるサトシの両足首
「ぐがあああああああ!!!!」
今ままで、常人には耐えられないような
苦行を乗り越えてきたサトシでも、
初めて味わう感触だった
身体の奥底まで破壊された痛みだ
バタンッ!!
全く成すすべもなく、
無様に床にぶっ倒れるサトシ
(俺は、終わった....)
何が起こったのか目では捉えることは
出来なかったが、ハッキリと理解できた
「ぐああ、あああああ!!!」
心の中の諦観とは正反対に、
肉体は情けない悲鳴を上げ続ける.....
こうして、
ついに連続強姦魔は成敗されたのだった