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ムケチン作戦~別れ

神社の『チームブラボー』の二人が

ヤキタコ弁当を食べていた頃、

鉄道橋の『チームチャーリー』の面々も

同じく弁当を食べていた


川岸の土台に接岸した「つぎはぎ丸」


帆とマストを外した木造の機帆船で、

隣にはプラスチック製のモーターボートが

繋がれている


「つぎはぎ丸」の船首部には少女3人が

集まっていた。


”少し焼け焦げたタコ風ウィンナー”を

箸で摘まんで掲げながら眉をひそめているのは

リナだ


皮ジャンにジーンズに革ブーツの

バイカースタイルで、

ふわりとしたミディアムロングの髪に

少し切れ長の目。

天才水泳双子姉妹の姉で、15歳だ


そのリナが言った



「この弁当ってさ、あの、少し焼け焦げた

 ヒャッハー風のオッサンが作ったんだよね?

 めちゃくちゃ美味しいんだけど、

 この、あえて焦げ目を付けている

 タコ風ウィンナーって、

 自分を模しているのかな?


 外見に似合わず茶目っ気がある所を見せて、

 私たちに感心でもさせたいのかな?」

 


ロングTシャツに黒のレギンスに革ブーツで、

ふわりとしたショートボブの髪、

パッチリとした目の双子の妹のリサが言った



「確かヤキタコだったっけ?

 作務衣姿でスキンヘッドで焼け焦げた大男の


 私たちにとって、あの人フツーに怖いからね。

 残念ながら、ギャップ萌えを感じるほど

 私たちはフレキシビリティブではないから」



可愛いトレーナーにデニムのショートパンツに、

実用的なスニーカー。

長髪を無造作に後ろで束ね、

こすからい鋭い目をした13歳のスミレが

言った



「なんか見た感じ、

 十文字さんには可愛がられている風だけど

 

 ....って見てよ、いやねぇ~

 このタコ風ウィンナーの目の部分、

 焦げかと思ったら

 黒胡麻をめり込ませてあるじゃない!


 この、いかにも狙ったガジェット感丸出しが

 すげーうざい。

 奴のドヤ顔が透けて見えてきて悔しいわ」



少女たちにボロクソに言われるヤキタコだった


しかし、リナとスミレは、

箸で摘まんだヤキタコ風ウィンナーを口に運び、

美味そうにモグモグした。


重箱に入った弁当は、

白飯の上に肉がこんもりと敷き詰められていて、

まさにスタミナ弁当だった。

少女たちにとっては、

たっぷり2食分くらいはあるだろう



・・・・・・・・・・・



ひと時の安らぎの時間を過ごす少女たちを、

鉄道橋の上に設置されたバッテリー照明が

照らしている。


そして、鉄道橋の上で一人、

見張りをしているのはジジイだった


長身に禿頭に白い髭のジジイは、

ずっと独り言を呟いていた



「照明は付けたし、

 腐敗臭もしてこねえから大丈夫だと思うがな。

 でも、気を緩めちゃあなんねえ、

 しっかりと、目を光らせておかねえとな」



分かってはいるが、

つい、3人の少女たちの姿を見つめてしまう



「この子たちと過ごすことの出来る時間は、

 後、何時間残っているんだろう....


 話すべきことは

 丸一日かけても足りないと思える。

 でも、不思議なことに

 考えるほど話す言葉は何も出てこない」



ポンプアクション式のショットガンを

両手に持ち、再び周囲を確認する。


線路縁の鉄骨には、頑丈な金具が

取り付けてあり、川下ろし用のワイヤーも

そこに繋いで線路わきに伸ばしてある。

バッテリー照明も、うまい具合に配置して

周囲を照らしている。


人型の気配はみじんも無く、平和そのものだ



「万事順調、異常なし!」



しかし、ジジイの視線は再び、

眼下の「つぎはぎ丸」のほうへと

向かったのだった



「リバーサイド同盟と接点を持つことができた。

 あそこは、想像通りに

 希望に溢れた場所だった。

 子供たちに未来を与えることが出来たんだ


 もう、俺の役割は大方終わったようなもんだ


 後は、海賊どもを道連れにして.....

 死にぞこないの俺は、

 ようやくお前たちに会いにいくだろう」



ジジイは空を見上げた


ダークブルーの背景にぼんやりと

浮かんでくるのは、かなり昔に死んだ妻の顔


そして、結婚して都会に住み、

ゾンビパンデミックで

音信不通になってしまった娘たち、孫たち


.....最後に息子の顔



「本当に...本当に、俺からごっそりと

 奪っていきやがった....

 この世界のクソめが!!」

 


ジジイは空を見ながら息子に告げた



「でも安心しろ、ヨッシーとスミレは、

 絶対に俺が守るからよ!

 

 スミレはともかく、

 あの、アホヨッシーは心配だが...

 まあ、全力で守ってやるから」



ジジイの視線は再び、

3人の少女たちのほうへと向かったのだった



////////////////////////////////////////////



そして、チームブラボーの神社では、

社務所の屋根の上のヨッシーが、

背負った銃を取り出したところだった。


冷たく、ずっしりと重い

レバーアクションライフル『アウトロー』


地獄の外界で唯一、自分を守ってくれる武器だ


一応、カーゴパンツの膝ポケットの中にも、

警察用の短銃身リボルバーM360J『SAKURA』と、

腰のベルトに鞘に入ったサバイバルナイフを

挿しているのだが


ふと、サトシの声がした



「ヨッシー君、俺、ちょっとトイレに行きたい。

 許されるならば、

 部屋の中で少し休憩もしたいわ」



ヨッシーは横を向いて答えた



「あ、矢之板さん、全然いいっすよ!

 本当に、お疲れさんでした

 

 少し寒くなってきたし、

 しばらく社務所の中で休んでいてください。

 俺はちゃんと見張ってますから!」



一応、念を押しておく



「隣の”神楽殿”にはウメさんが居て

 休んでますから。


 俺達は、

 ここ”社務所”の大部屋で休むんすよ。

 間違って、

 隣には行かないようにして下さいね」



「ああ、もちろんだとも。

 この弁当空、俺が持って行くよ。

 こんな世界でも、

 ゴミはちゃんと片付けないとね」



サトシは、空になった重箱を二つ、

風呂敷に包み背負った。

そして、屋根の傾斜を下ると、

立てかけている梯子を降り始めた


姿を消す直前に腕を伸ばし、

ヨッシーのほうへと小さく手を振る


 

この世界では、別れは唐突にやってくる



ヨッシーもそれは知っている。


しかし、自分たちの身に

それが降りかかってくるなんて、

思いたくもないものだ


ヨッシーは、

姿の見えなくなったサトシに向けて、

手を振り返したのだった

 




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