性犯罪者の物語 最終回
そして3年後.......名古屋の外れにある、
その小さなコミュニティーは
それでも、人口3千人程度にまで増えていた
他県にある”チョコボーラー”の原発から
鉄塔を渡る高圧線による電力供給を受けて、
なんとか成り立っている
海まで到着するトンネルを掘り、
チョコボーラーの為に工業製品を作り、
その代わりに軍票を手に入れる毎日
月に1、2回くらいは、名古屋中心部の
大規模コミュニティーに定期船で行けて、
軍票で物が買えて多少の贅沢ができる。
それが皆の唯一の楽しみだった
ルミは、
チョコボーラーの司令官”コバヤシ”に
手紙を書いたことがある
「.....国や他の自衛隊が東京以外の地方を
見捨ててしまったのに、
あなた方は原発を守ってくれて
結果、こうして私たちに命をくれました。
いくら感謝してもしきれません
あなた方は私たちの英雄なのです、
その事をお忘れにならないように願います。
結局、東京さえも見捨てて逃げてしまった
かつての政府は、あなた方のことを
非難しております。
また、あなた方に助けられている人の
中にさえ、それに同調する者がおります
しかし、私をはじめとする大勢の心が、
命を救われた人々の感謝の心が、
常に小林様と原発の自衛隊の方々の
側にあるのです......」
なんと、コバヤシの直筆で返事が返ってきた
カカオ豆を使用した本物の”チョコボ―ル”を
添えられて
「あなたが下さったお手紙は、私だけでなく、
麾下の自衛隊員全てが読ませて頂きました。
間宮留美様、あなたのお言葉が、
我々にどれほどの勇気と力を
与えてくださるか想像できますでしょうか?
我々は批判を受けることもあります。
しかし、批判無き政体は、独裁だと
個人的に思っています
~(以下略)
PS 個人的なお願いです。
もしも、お贈りしたチョコボールの
黄色いクチバシ状のフタに、
金か銀のエンゼルマークが
付いていたなら、私に送ってください
小林 渉」
ルミは、沈みゆく夕日を見ていた
チョコボーラーの司令官コバヤシに、
性犯罪者のサトシ.....
二人は罪を犯したと言う者がいるだろう
「でも、私は彼らのおかげで命を救われて
今も生きているんだ
.....ってアレ、なんで?」
ふいに、目の前の景色がぼやけたのだ。
それは、次々と溢れだす涙だった
そして、思い出されるサトシの顔
オレンジ色の光が、ルミの頬を伝う涙を照らす
「絶対に、あの人は生きていると思ってた。
性犯罪者だったのがバレて
ここを追放されたとしても、あの人なら
絶対に生き延びているって!
その確信だけは揺るがなかったのに」
そう、その確信が急に揺らぎ始めたのだ
「絶対に、また会おうねって!
その時は、お互いに昔を笑い飛ばそうって
あの人は、そう約束してくれた」
ルミは両足を曲げて崩れ落ちると
地面に両手を付いた。
その肩に優しく手を置いたのは先生だった
「ああ、サトシさんは僕達を許してくれた。
いや、それどころか、僕達の今後を
最後まで気に掛けていてくれたんだ
絶対に、あの人は生きていて再会できるって。
僕も、そう思っていた」
ルミは振り向いた。
先生は、ポニーテールにしていた。
そして、ルミは先生と被らないように
髪を結ばない長髪だった
その先生の頬もやはり涙で濡れていた
彼もまったく同じことを感じていたのだ
・・・・・・・・・・・
『凄腕ハッカー』の先生と、
『連続強姦魔』のサトシ。
警察がネットに流した情報で
2人が犯罪者だったということがバレても、
コミュニティーの人々は先生は許した。
しかし、性犯罪者のサトシだけはダメだった
サトシは追放されてから、ネットでの連絡も
すぐに断った。
それでも、ルミと先生は、
サトシがどこかで生きているという確信を
持っていたのだ
オレンジ色の夕日が、遠く海の向こうに
沈んでいく......
二人の確信が揺らいでいく......
ルミは、肩を震わせながら
絞り出すような声で言った
「サトシさん、どうして....」
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ヨッシーは、隣でじっと
落ち行く夕日を見つめているサトシが
気になっていた
「あの、矢之板さん.....
何か、思い出している事でもあるんですか?」
サトシは、隣のヨッシーのほうを向いた
すぐに人懐こい笑みを浮かべて答える
「ああ、ヨッシー君、
いや、夕日がとても綺麗で....
ちなみに俺は、
過去にはこだわらない主義でね!
常に未来のことを考えていきたい
つまり、これから
忙しくなるかもしれないってこと」
こすからい鋭い目をした少年が答える
「そうっすよね、
まだ、鉄条網は完成してないから
もうひと頑張りしないと
暗くなったら、
人型が襲来してくるかもしれないし」
しかし、サトシはもう一度、
水平線に消えていくオレンジ色の夕日を
見つめたのだった