変わり始めた日常
〜朝日奈紬〜
洗面所にある鏡の前で何度も前髪をいじっていた。
いつもなら、直ぐに終わるのに今日は何故か、なかなか決まらない。
昨日、勘違いされたとはいえ、告白したから普段より前髪が気になってしまうのだろうか。
「そろそろ、行かなくていいの?」
お母さんから言われて、スマホで時間を確認する。
えっ⁉︎ 集合時間に10分過ぎてる。急がなきゃ。
慌てて自分の部屋に戻り、鞄を取ると、小走りで玄関に向かう。
「いってきます」
リビングにいるお母さんに聞こえるようにいつもより大きめの声で言った。
お母さんが「いってらっしゃい」を言う時には玄関のドアを開けて、外に出ていた。
「遅くなってごめん」
「集合時間早いくらいだし、遅刻することはないから少し遅くなっても全然平気。なぁ、晴翔」
「そうだね、気にすることないよ」
これぐらいのことで怒ったり、関係が悪くなったりすることはないって分かってるけど、やっぱり遅刻すると申し訳なく思う。
霜月とは昨日あんなことがあったけど、いつも通りでいられるかな。
そんなこと考えながら、私は霜月たちと一緒に駅へ向かう。
駅に向かう途中や電車の中でも、いつも通りだった。
普段と何ら変わりなく、しゃべれたと思う。
霜月とは少し、ギクシャクするかなって昨日の夜、悩んでたけど、杞憂だったみたい。 良かったぁ。
これからもこれまで通りの日常を送れそう。
今日は学校いつもより20分遅く着いた。
いつも、同じ電車に乗ってたから知らなかったけど、時間が変わるだけで乗り継ぎが上手くいかないんだね。
でも、まぁ遅刻はしなかった。ギリギリだったけど。
自分の席に座ると後ろから明るい雰囲気の女子高生から話しかけられる。
「紬、今日遅かったけど、なんかあった?」
彼女は中務明璃。
私の好きな人が霜月だということを知っている唯一の友達、いや親友だ。
誰にも話したことはなかったのだが、何故かばれてしまった。
最初の頃は、「そんなわけないよ」とか「霜月のことはただの幼馴染、恋愛対象としては見てないよ」みたいな感じで誤魔化そうとしていたのだが、かえって疑われる事になってしまったので、素直に自白した。
「別に、ちょっと前髪をいじってたら遅くなっただけ」
「流石は恋する乙女だね。けど、昨日まで気にしてなかったことを気にするとか、霜月となんか進展あった?」
誤魔化しても無駄だろうなと思った私は、昨日の告白のことを伝える。
「告白を買い物の付き合いと勘違いする霜月も大概だけど、そこで引く紬もやばいわね。何で勘違いを正さなかったの?」
「だって、勘違いされるってことは私のことを恋愛対象として見てないのかなって思っちゃって」
「よくもまぁ、その容姿で弱気になれるわね。あなたが告白して振る男子とか滅多にいないわよ」
容姿なんて好みがあるんだから、どれだけ良くても、その人が気に入ってくれるかなんて分からないじゃない。
それに、明璃の言う事が正しかったとしても、滅多にいないってことは、たまに振る男子がいるってことじゃない。
その少ない方に霜月が入っていないっていう保証ないじゃん。
「明日、霜月と2人きりで買い物に行くだけでも、私にしては凄い進歩だよ」
「まぁ、確かに、長年進歩なかったもんね。それに、2人きりで買い物とかデートって言っても過言じゃないし。」
「HRも始まるし、この話ここで終了」
正直、今日は遅れてきて良かった。
明璃と話せば話すほど揶揄われる気がする。
明璃にも、そういう人がいれば、仕返し出来るんだけど、いないからな。
いや、私が知らないだけでいるのかな。
いたら、今までの仕返しをしよっかな〜。
そんなことを考えているとHRが始まった。
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