告白⁉︎
「失礼しました」
提出するのを忘れていた課題を、放課後の教室で幼馴染に手伝ってもらい、なんとか終わらせた。
それを提出しようと職員室に来たが、担当教師はおらず、渡せなかった。
「はぁ。仕方がない、明日提出するか」
放課後、頑張ってやった課題が提出できなかったことを残念に思いながら、幼馴染が待っている教室に向かって、足を踏み出した。
職員室のすぐ横にある階段を登り、教室のある階の廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。
「あ、あの、ちょっといいですか?」
振り向いてみると、そこには知らない女子生徒がいた。
「えっと、君は?」
「私は1年の姫乃琴弓です」
綺麗なセミロングの黒髪に、可愛らしい容姿、何とも庇護欲をかき立てる、モテそうな子だ。
頰を赤く染めているが、それも彼女の可愛さを引き立てる要素の1つになっている。
「その──1つお願いがありまして……」
頰がより一層赤くなっていき、より可愛らしくなる姿にドキッとしてしまう。
そんな頰を染める彼女を見ていると、俺に告白してくれるんじゃないかと勘違いしそうになる。
いや、勘違いではないのではないか。
このシチュエーション、告白でもおかしくない。
そう考えてしまった俺はおかしくないと思う。
「これを天瀬先輩に渡してくれませんか?」
ラブレターと思わしき物を渡してきた。
これが俺宛てのラブレターなら幸せの絶頂期にいただろう。
しかし、俺ではなく、俺の幼馴染兼親友である天瀬晴翔宛てだ。
何が悲しくて親友宛てのラブレターを受け取らないといけないのか。
しかし、彼女は勇気を振り絞って、俺にこれを渡そうとしている。
その証拠に、今日一番、顔を真っ赤にしている。
この勇気を無下に扱うわけにはいかないので渋々受け取る。
「あとで、晴翔に渡しておくよ」
「ありがとうございます」
礼を言うと、恥ずかしさゆえか、俺から逃げるように離れていった。
そして、彼女の姿が見えなくなると俺はぼそりと呟く。
「……また勘違いしてしまった」
そう、このような状況に陥ったのは初めてではない。
かれこれ、片手では足りない回数は経験した。
それなのに、このような状況になれば、勘違いしてしまう。
俺は自意識過剰なのかな。いや、でも、こんな状況、誰でも勘違いするだろ。
俺だって男子高校生。可愛い女の子に惚れられる妄想をしてしまうのは仕方ないじゃないか……
そんなことを考えていると後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
「廊下の真ん中で、立ち止まってどうしたの?」
振り向くとそこには教室で待っているはずの幼馴染がいた。
彼女の名前は朝日奈紬
ハーフの母親譲りの綺麗な金髪もさることながら、スタイルも凄く、制服越しでも分かるほど立派なものをお持ちだ。
「ちょっと考え事をしてただけ」
「ふーん、そう」
彼女の顔を見てみると、少し機嫌が悪そうに見てる。
待たせ過ぎたのだろうか。
ここは素直に謝っておこう。
「ごめん。待った?」
「べつに」
やっぱり少し不機嫌だ。
俺何かしたっけ。
課題を手伝わせたのが良くなかったのかな……
「霜月、さっきの可愛い子、誰?」
さっきの可愛い子?あー、俺に晴翔宛てのラブレターを渡した女子生徒のことか。
「えっと、確か1年生で、名前は姫乃琴弓──」
女子生徒の名前を言った時に、ある事実に気づいてしまった。
いや、待て。何で朝日奈があの子の存在を知っている。
まさか、さっきの場面を見ていたのか。
話していた場所から朝日奈が待っていた教室は近いから、俺の声が聞こえて、教室から出てきたのだろうか。
「その後輩、顔を真っ赤にしてたけど、まさか告白された?」
悪気はないのだろうけど、告白されるんじゃないかと勘違いしてしまった俺には、その質問は大ダメージだった。
「さ、されてない。晴翔にラブレターを渡して欲しいってお願いされただけ」
「そうなんだ。じゃあ、今から晴翔に渡しに行く?」
大ダメージを受けた俺とは裏腹に朝日奈は機嫌が良くなっていた。
意味がわからん。
結局、何が朝日奈の機嫌を悪くしてたのだろうか。
そう疑問に思ったが、言葉にはしなかった。
「晴翔は部活中だし、渡すのは明日にするよ」
「そっか。じゃあ、帰ろっか」
そう言うと彼女は下駄箱がある方に足を進めた。
そして、俺も彼女の後に続いた。
今日も霜月湊という物語の1ページに何の変哲もない日常が書き綴られ、終わろうとしている。
この時はそう思っていた。
面白ければ、ブックマーク、評価お願いします。




