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02 お前も雑種犬にしてやろうか。



 俺は小さい頃、犬が大好きだった。

 とてもモフモフで見てるだけで癒される。だから将来は絶対動物関係の職に就きたいなんて思ってた。

 でもいつからかそんなことは忘れていて、気づいたら今年中には大学に行くか就職するか決めなきゃいけない年になっていた。

 特になりたいものも無かったしとりあえず大学に進んで大学生のうちに考えようなんて思ったりしていた。

 でもなんでこんな事を急に思い出したんだろうか?


「…。」


多分あれだな。昨日変な悪夢にうなされたからだろうな。うん。きっとそうだ。

 俺はふと横を見ると昨日見た悪夢に出てきた犬が隣で寝ているのを見て、あれは悪夢ではなくて現実に起こった事だということを叩きつけられた。


「はぁぁぁ……。」


 俺は大きくため息をついてから俺は昨日のことを思い出した。



       ~昨日の出来事~


「じゃあこの世界は犬が仕切ってるって事か?」


 俺は動揺を隠せずにいた。

 それもそのはずである。誰だって異世界転生したら動揺すると思う。まあそれは案外早めに飲み込めたし、むしろ少しワクワクした。

 そうじゃない!犬ってなんだ!この世界は犬の世界で犬に転生するってなんだよ!


「しかも獣人みたいなやつじゃなくて本当にただの犬ってなんだよ!ただの犬が二足歩行でしゃべるってなんだよ!怖すぎるわ!」

「おい途中から心の声ダダ漏れだぞ。」

「そりゃあこんな状況になったら声も出るって話だよ!」

「まあ少し落ち着け。後お前さっき勝手に獣人タイプはいないと思って言ったんだと思うがそれなりにはいるぞ。」


 いやいるからなんだよ…。


「急のことで、不安や受け入れがたいこともあるとは思うがとにかく落ち着けって…。順を追って話すからまずは落ち着け。話はそれからだ。」

「いやでも…。」

「いいから落ち着け。」


 俺は二足歩行の全力ダッシュ犬のいう通りとりあえず落ち着こうと深呼吸をして少し冷静さを取り戻した。


「はぁ…。」

「少しは落ち着いたか?」

「…それなりにはな。」

「じゃあ話を続けるぞ。」

「さっきも言ったがここは犬だけの世界、ワンダーワールドと言う。まさしくお前がさっき言ったように犬がすべてを動かしている世界だ。」


 冷静さを取り戻したといえ改めて言われると流石に笑いそうになる。あきれた笑いだけどな…。

二足歩行の全力ダッシュ犬は話を続ける。


「本来であれば、お前のような人間も犬になってここへ来るはずなんだがな。お前は、人間のままここに飛ばされてしまった。」

「それはこの世界にとっては、あってはならない事なんだ。」

「それは何故か?簡単だ。この世界では人間はいない存在。この世界の住民からしたらお前は恐るべき者。」

「侵入者。」

「駆逐すべき対象でしかない。」

「!?」


 俺は、いきなり聞かされる事に息をのんだ。


「俺は…!?俺はじゃあこの世界で殺されるのか!?ふざけるなよ!!」

「異世界にきていきなり殺されるって!?冗談じゃない!!俺は…!!俺は今日さっきこの世界に来たばっかでしかも…さっき死んだばっかで来て…!!なんなんだよ!!」

「だから落ち着けって。何回も言わせるなよ。話が進まん。」

「自分が殺されるかもって話されてるんだぞ!!落ち着いていられるかよ!!」

「だから話を聞けって。」

「だから自分が…!!」

「シィ…静かに。」


 俺が頭にきて思い思いの言葉を並べているのを他所に二足歩行の全力ダッシュ犬は急に耳を立てて口元に前足をやり喋らないよう促した。


「… …。」

「近いな…。」

「近いって何が…ムグゥ。」

「いいから黙って耳を澄ませ…。」

「…?」


 二足歩行の全力ダッシュ犬はどうやら何かを察知したらしく、とても真剣な表情?で辺りを見回していた。

 俺も犬に言われた通り耳を澄ましてみたが、風で揺れている木々の葉の音しか聞こえない。


「…2、3。4匹か。厄介だな」


 二足歩行の全力ダッシュ犬はそういうと俺に後ろに隠れるようにジェスチャーして来た。

俺は言われるままに二足歩行の全力ダッシュ犬の後ろに隠れた。

 しばらくすると微かにではあるが俺の耳にも葉の音に混じった違和感をとらえることができた。

 だが遅かった。俺が気づいた時にはすでに真横にいた。

そいつは明らかにこちらに向かって大きな口を開けて今にも俺の首に噛みつこうとしていることが分かった。

 何故かわからないが俺はその相手の行動がわかるくらい景色がゆっくり見えていた。

もしかしてこれが…死ぬ前に景色がスローモーションになるってやつかな?この後走馬灯も見れるのだろうか?あぁ…。今日俺はまた死ぬのか。一日?に二回死ぬなんてことめったにできない体験だ。

 すると急に目の前にいた奴が思いっきり遠くへと吹っ飛んでいった。


「え…?」


 訳も分からず俺は呆然としていた。すぐにハッとした俺はさっきまで隣にいた二足歩行の全力ダッシュ犬が前にいる事に気づいた。


「何!?今いったい何が起きたの!?」

「まったく…。人間は本当に鈍い。そして弱い。」


 二足歩行の全力ダッシュ犬は前足を上に上げ後ろ足で絶妙なバランスを取って奇妙な構えをしていた。

ちょっと可愛いと思った。


「お前はとにかく俺の後ろから離れるなよ。」

「お…おう。」


 俺は今の一瞬で何が起こったのかわからなかったが今目の前の状況を見るあたり、俺の横にいた何かを吹っ飛ばしたのは、どうやらこいつらしい。


「おいマジかよ…。こいつ伸びてやがるぜ。」

「ったく…。”俺が一番乗りだ”なんて言ってたのに一発でダウンとは使えねぇな。」

「まぁ。そのおかげで俺たちの楽しみは残ってるわけだが…。」


 さっき何者か吹っ飛んでいったほうから何人かの声が聞こえてきた。

どうやら仲間らしい。


「来るぞ。気を張っておけ。」


 二足歩行の全力ダッシュ犬は俺に一言告げた。

俺は先ほどから緊張と恐怖で高鳴っている鼓動を少しでも落ち着かせるために深呼吸をした。

 ほんの少しすると声が聞こえてきたほうから少しづつこっちに何かが近づいてきていた。

ある程度近くに来た辺りではっきりと姿が分かった。


「…あれって、シュナウザー犬?」

「そうだ。あれはミニチュア・シュナウザー。お前らの世界でもよく知られた犬種だ。」


 ミニチュア・シュナウザーは、俺の祖母が飼っていた犬種だったためすぐわかった。

特徴としては毛がすごく長くて結構しっかりした髪質であること。


「ミニチュア・シュナウザーは、お前たちの世界ではドイツという国で生まれた犬種だ。シュナウザーとは、ドイツの言葉で口髭という意味を持つらしい。元々はスタンダード・シュナウザーという犬種を基礎にプードルなど色んな犬種を混ぜて小型化した一種だ。奴らは農場のネズミなどを狩るために生まれた犬種だ。小型化したとはいえその狩りの実力は、ほかの狩猟犬にも劣らない素早い動きと判断力だ。その頭の良さからお前のいた日本国でも飼いやすく主人にとても忠実で比較的人気の高い一種だ。」


 …。さっき俺が言った特徴は忘れてほしい。


「なんであいつら俺を狙ってきたんだ。」


「おそらくだが、お前をすぐさま狙ったのは不意打ちを狙っての行動だ。俺のように同じ犬よりお前のような得体のしれない者を先に狩ろうとしたのはとっさの行動だろう。犬であれば特徴を見ればある程度分析して行動に移せるが、お前のようにこの世界ではいない生物を見たんだ。不意をついて狩っておけば手探りで相手の力量を図るより後から大分楽になるからな。」

「な…なるほど。」


 確かに知っているものであればどうすればいいか分かるがわからないものに対しては学んだりしなければいけない。それをやらなくてもいいのであれば確かにそれは楽であると思う。

 ミニチュア・シュナウザー3匹は、ある程度の距離まで歩いてくるとピタッと止まりこちらを鋭く睨みつけてきた。


「雑種犬が一匹に化け物が一匹。なるほどなぁ。こいつらが頭が言ってた使いって奴とニンゲンって奴か。頭にしか毛が生えてねぇが禿げたのか?」

「ぷふっ!傑作だな!」

「キャンキャンキャン!」


 変な笑い方だな。後なんかむかつく。


「も、元から毛は頭ぐらいだ!後…眉毛とまつ毛!あとちょっとずつ至る所!」

「あ?聞いてねぇよ。てめぇみたいな気持ちわりぃ奴のことなんかよ。」


 シュナウザーの一匹が俺が言った事が気に食わなかったのか、すごい重たい声で俺に言いながら睨みつけてきた。

 俺はその目を見て身体が震えた。

するとそれを察したのか、二足歩行の全力ダッシュ犬は俺の目の前に立ちシュナウザーたちに向かって話し始めた。


「お前たち、少し聞きたいことがあるんだが…今さっきお前たちは俺たちのことを誰かからような口ぶりだったが何故俺たちのことを知っているのだ?」

「あ?お前バカか?俺たちがそんなこと話すわけないねぇだろうが。」

「まあそう言うなって。どうせこの後お前たちは俺たちを殺す予定なんだろう?ならいいじゃないか。少しでもいい。俺たちを狙う理由だけでも教えてくれないか?」


 二足歩行の全力ダッシュ犬は大分落ち着いた話し方で相手を刺激しないように俺たちを狙ってきた目的を聞いていたが相手のシュナウザー達の顔は、今にも襲い掛かってきそうな剣幕だった。


「だから…。話すわけねぇって言ってんだろうが!!!」

「!!」


 シュナウザー達はそう言い放つと、いつの間にか俺たちの前に詰め寄っていた。

すると次の瞬間俺は思いっきり上に引っ張られる感覚に見舞われていた。


「すまない。少しの間上で待っていてくれ。」


 どうやら上に投げたのは二足歩行の全力ダッシュ犬らしい。

今更気づいたが俺の腕を掴んで投げたらしく肩と二の腕辺りが滅茶苦茶痛い。

相当な力で投げたのか、森のでかい木の高さよりも少し上まで投げ出された。


「うわ。めっちゃたけぇ。」

「……。」


 まあお気づきだろうが上に投げ出されたのだ。少しずつ勢いが無くなってきて次に待つのは…。


「だよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


 そう。落下である。


「ヤバい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬってばぁぁぁ!!!」


 俺は落下する恐怖の中で、また景色がスローに見えてきた。

そのスローで見える景色の中で下に見える光景に目を奪われた。


「…!?あれって!!」


 俺の目に映るその光景は、異世界系のアニメでよく見た”魔法”を使っていたのだ。

 シュナウザーの一匹は口から火を吐いていた。ほかのシュナウザーも前足から氷のような物を飛ばしている。

 俺はゆっくりと見えるその景色から目を離せなかった。

 その後のことは正直覚えていない。

どうやらあの後俺は気絶したらしい。

 俺が目を覚ますとそこには、縄のような蔓で縛られた4匹と焚火をしながら座っている二足歩行の全力ダッシュ犬がいた。


「ん?どうやら目を覚ましたようだな。」

「あぁ…うっつ!頭が…!」

「無理をするな。俺がキャッチしているとはいえ高いところから三回も落ちてるんだからな。」

「え…?三回?」


 俺はどうやら気絶した後も上に二回投げられていたらしい。


「てかこいつらお前一人でやったのか!?」

「まあな。俺は女神ドッグ様の使いだぞ?こんな奴らに後れは取らないさ。」


 まず俺は女神ドッグ様とやらがどんな人?なのか知らないが…。

口にして言うと怒られそうだし言いはしないけど。


「…。とりあえず、ありがとう。助けてくれて。」

「礼など要らん。お前を守るのも俺の使命の一つだからな。」

「それでも助けてもらった事には変わりないし…。とにかくありがとう。」

「…そうか。であれば素直に受け取ろう。」


 俺は二足歩行の全力ダッシュ犬に礼を言った。

それから俺は縛られているシュナウザー達を見ながら二足歩行の全力ダッシュ犬に俺たちが狙われていた理由を聞いた。


「それでこいつらはなんで俺たちを狙ってきたんだ?」

「さあな。」

「さあなって…。聞かなかったのか?」

「もちろん聞いたさ。だがこいつらは主人の命令は必ず守る。多分こいつらのボスに口止めされているんだろう。」

「…なるほど。」

「それにお前を守りながら聞き出さなければいけなかったからな。そこまで問い詰められるほど余裕があったわけでもない。」

「それは…。すまない。」

「別に謝ることじゃないだろ。…まぁいい。それよりもだ。」


 二足歩行の全力ダッシュ犬は焚火に新しい木を足しながら話し始めた。


「これから俺たちは女神ドッグ様のいるドッグラン神殿へ向かう。」

「え!?ちょっと待て!先にこいつらの頭ってのを見つけて俺たちを狙った目的を聞くんじゃないのか?」

「それは俺の使命ではないし、そもそもこいつらが口を割らない以上どうすることもできん。それよりも女神ドッグ様の所へ行った方が安全かつ情報も集まりやすい。ドッグラン神殿は情報伝達も早いからな。」

「な…なるほど。でも、また狙われたりしたら…。」

「安心しろ。その為に俺がいる。さっきも言ったが俺はこいつらのような奴らに後れは取らん。お前は心配などしなくていい。」

「…わかった。」

「それにいつまでも人間の姿でいたら狙ってくださいと言ってるようなものだぞ?ドッグラン神殿に戻れば犬転生してもらえるし好都合だろ。」

「…あぁ。それなんだけどさ。やっぱ犬になんなきゃダメなの?」

「当たり前だろう…?。何を言い出すんだお前は。」


 何ってそりゃ出来るなら人間のままでいたいと思うだろう普通。

俺は何とか人間のままでいられないか聞いたが答えはノーだった。


「さっきも言ったが犬に転生したほうが狙われないと思うしこの世界は犬の世界だ。犬の世界で一匹だけ人間が混じっていたら溶け込めるはずもないし、命を狙われ続けるかもしれないんだぞ?」

「うっ…。」

「だったら転生して新しい生活をこの世界で謳歌するほうがよっぽどいい。」


 いやでも犬になるって抵抗がない人間はいないと思うが…。


「そんなに心配するな。ちゃんとそこら辺の抵抗や女性への関心もこの世界に合うように転生してもらえる。」

「…。」


 そういう問題ではないと思うんだが…。そう思ったがこいつに言うと怒られそうなんで心に留めた。


「ハァ…。それでそのドッグラン神殿にはここからどのくらいで着くんだ?」

「そうだな…。俺なら走って半日ほどで着くんだが…お前はいるから歩いての移動だろうしな。多く見積もって4日ってところだろうな。」

「4日かぁ…。結構歩くな…それ。」


 つーか走って半日ってこいつどんだけ速いんだよ…。

やっぱこいつは怒らせないほうが良さそうだ。


「そういえば、お前の名前を聞いてなかったけどなんて名前なんだ。」

「俺達天の使いは特に決まった名前はない。呼び出される時も音によって呼び出される者を分けている為名前など必要ないんだよ。名前がいただけるのは神や女神になった血統種のみだからな。」

「…。なんかさみしいな。それ。」

「そういうもんなのか?俺は気にしたことはない。お前の好きに呼べばいいさ。」

「うーん…。じゃあ”ダッシュ”で。」

「ダッシュ…。何故だ?」

「えーっと…。なんとなく。」

「ほう。」


 絶対に心の中で二足歩行の全力ダッシュ犬て読んでたからなんて言えない。


「ダッシュ。悪くないかもな。」

「じゃあこれからよろしく、ダッシュ。」

「短い間ではあるがその名前でよろしくな。犬太郎。」

「…。あれ?俺名前教えてないよね?」

「教えてもらってないが普通に考えてお前を迎えに来たんだから名前くらい知ってるにきまってるだろう?」

「じゃあもしかしてだけど俺の苗字も…。」

「知ってるに決まっているだろう。”犬牙犬太郎いぬきばけんたろう”。まさしくこの世界に来るために来たような名前じゃないか。」

「…。まさかこの世界に来た人間は皆犬の名前がついてるとかないよね?」

「あるわけないだろう。多分。」

「多分て何!?えっ!?可能性あるの!?」

「冗談だ。真に受けるな。」

「本当に冗談だよね!?信じていいんだよね!?そんなくだらない事で俺こんな世界に来たとか切ないんだけど!!」

「こんな世界とは何事だ貴様!!」

「いやごめんなさい!!ちょっと口が先走っただけです!!微塵も思ってないです!!」

「ええい許さん!!貴様にこの世界がどれだけ素晴らしいかみっちり叩き込んでやる!!」

「勘弁してくれーーーーーー!!!」


 めっちゃ遅くなったけど俺の名前は犬牙犬太郎。

これからこの世界でどんなことが待っているのか。期待1。不安9の冒険が幕を開けちゃう。






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