第3話
少し遅れましたが、よろしくお願いします。
小さな子供が居た…。
近くには母さんが居たからきっと僕なんだろう…。
『エイム、今日は魔法をお勉強しよ?』
『?まほお?』
『そう、魔法。
こんなものよ。』
そう言って母さんが庭の池に手を向けて…。
『水の玉!』
と言うと母さんの手のひらから、小さな僕の顔と同じ水の玉が庭に着水した。
『!!』
『どう?エイムもやってみたい?』
『うん!やってみたい!』
『じゃあ、まずこの水晶玉に手を当ててみて。』
『きれい~。』
『フフ、そうね。』
母さんが出した水晶玉は透明で向こうの景色まで見えるほど透き通っていた……。
小さな僕が水晶に触ると、水晶玉が小さな光をうつした。
『エイムは明属性が得意なのね。』
『めうぞうせい?』
『フフ、明属性よ。』
『おかあさんのとおなじ?』
『残念だけど違うわ…。』
そう聞くと、小さな僕は拗ねた顔になって下を向いた。
『あらあら、そんなに拗ねなくても、エイムもお母さんみたいな魔法が使えるから安心して、ね?』
『…ほんと~?』
『本当、本当。
でも、今は明属性の魔法を覚えてみようね?』
『うん!』
そう言って、母さんに教わって魔法を使っている僕の姿があった……………。
また、懐かしい夢から覚める……。
荷馬車に乗って来ているときの野宿のときもそうだったが村を出てからずっと、小さな頃の僕の思い出を見る……。
……今日は学園の外に出るから、手紙も書いて出しておこう…。
ベッドから出て、寝室を出て部屋に備えてあった"手紙セット"から便箋を取り出して、村を出てからの事や学園での事を書いていく…。
書き終わって窓を開けて外を見るが、まだ暗く冬季の風で少しだけ冷たい……。
でも、魔力を身体中に循環させると、その寒さも少しだけ和らいだように感じた……。
とりあえず、今日も日課の素振りと昨日からやっている魔力循環の訓練をこなしに行くついでに手紙を出しておこう。
確か、一階の廊下に出す場所があったはず。
剣と手紙を持って、部屋を出た……。
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一階に降りて木の箱に手紙を入れて、裏庭に出るが昨日と同じように誰も居ない。
とりあえず昨日と同じ位置に立って剣を振りつつ、魔力循環を速くするが、昨日より少しだけ魔力の量が少なく感じた。
そういえば、昨日キビト先生が……。
『……外の明系統……空気中にある日の光や光を発するものによって変化した魔力を体の内と外で循環させているだけだから……。』
て言っているのを思い出した…。
確かに今は光が街灯しかないから、空気中の明属性の魔力が少ないのかな?
今のままじゃ、魔力が少なくて循環しにくいし、どうすればいいんだろうか……。
キビト先生の言葉を思い出しながら考えていると、1つだけ案が浮かんだ。
今は暗いから空気中の魔力はほとんどが暗属性のはず、だからその魔力を身体中に循環させればいいんだ!
と、思い付いたはいいものの…実際どうやればいいのかは全く分からない…。
カガ君がここにいればすぐに聞けるけど…それは迷惑だよね。
そういえば、キビト先生は今の循環は不完全で明属性が混ざっていて、無属性になっていない…て言ってたような……。
ということは、今は明属性がほとんど無い状態で、さっき循環していたときの少なかった魔力の中にはほとんど無属性の魔力だった?それとも暗属性の魔力だった?
「むぅ……全然分かんないけど、少しだけ循環の方に集中してみようかな…。」
一旦、素振りを止めて、近くにあった長椅子に座って考える……少しだけ冷たいけど…。
「…確か、魔力の循環はとりあえず基本は身体の中でやって、それに外の魔力を出し入れしてやる……。」
口に出しながらやってみるが、それでも少し遅くて、身体の中の魔力が減っているのを感じた……気がする…。
それに、まだ暖かくなっていない…。
そういえば、カガ君が僕に循環を教えてくれたときに……。
『暖かいものを探して、それを体の中で循環してみろ。』
って言ってたけど、今思うと外は冷たくて、暖かいものが身体の中以外全く感じない。
体外循環をしていたときは感じていたのに…
「あ!そうか!」
静かな裏庭に少しだけ僕の声が響いてしまった…。
少し反省しつつも、理由が分かった。
あのときは日の光があってずっと明るかったから、空気中の魔力はほとんど明属性で、たぶんだけど、カガ君は魔力眼で僕の得意な属性が明属性って分かったから、そのまま外でやったんだと思う。
つまり、今は暗属性ばかりで暗属性の魔力は冷たいもので、明属性は暖かいものだから、無属性はそのどちらでもないもの!
「……て、分かっても肝心のそれが分からないんだった……。」
う~ん……とりあえず、空気中の無属性の魔力を感じてみよう……無属性……暖かくなくて……冷たくなくて……。
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しばらく空気中の無属性の魔力を探していると、誰かがやってくる足音が寮の方からした。
一旦、探すのを止めて、いつの間にか閉じていた目を開ける。
「あら?おはよう、エイム君。
今日は素振りしないの?」
「おはよう、シャインさん。
先までやってたけど、ちょっと休憩中~。」
「フフ、そうなのね。
…横、失礼するね?」
「全然、問題ないよ。」
シャインさんは微笑みながら僕の座っている長椅子の横に座る。
「休憩中でもちゃんと魔力を循環しているのね。」
「あれ?シャインさんは魔力眼を持っているの?」
「フフ、さてどうでしょね…フフフ。」
はぐらかされてしまった……。
「でも、エイムの周りは暖かいわね。」
「う~ん…でも今は暖かい明属性より暖かくも冷たくもない無属性を探しているんだけどなぁ…。」
「そうなの?
……私は勇者の一族の血を継いでいるおかげで全ての属性が得意ですけど、無属性ですか……。」
そう言うとシャインさんが少し間を開ける。
「今、無属性の魔力を循環させていますが、何か感じますか?」
「そうなんですか?
う~ん…………。」
シャインさんの周りに何かあるのは感じるけど、よく分からない………ん?
シャインさんの周りが暖かくも冷たくもない?
「!!」
「何か分かったようですね。」
「はい!ありがとうございます、シャインさん!」
「フフ、喜んでいただいて良かったです。」
そう言って、シャインさんは立ち上がって、昨日居た位置で素振りを始めた………相変わらず、速くて、静かだ……。
とりあえず、今はさっきの感覚を頼りに無属性の魔力で循環をするために、無属性の魔力を探す。
シャインさんのおかげで先ほどまで冷たかった身体がいつもの暖かさに戻ってきた。
しかし、昨日より暖かくはなってない事を考えると、今やっている魔力循環はたぶん完全なものなのかもしれない!
無属性の魔力は確かに明属性や暗属性のように温度が関わっているものでもあり、たぶん全て属性にあるものなんだ…と思う…。
だから、シャインさんのやっていた魔力循環は何か感じるけどよく分からなかったんだ…。
その後は無属性の魔力循環の感覚をつかむために魔力循環をやって、なれてきた頃にシャインさんの横で素振りをしながら魔力循環をしていた……。
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しばらく素振りをしていると街灯の灯りが消えて、小鳥の声が少しずつ聞こえてきた。
シャインさんは素振りを止めて、こちらを向いて……。
「そろそろ、終わりにしますかエイム君。」
「そうですね。」
そう言って、シャインさんはシャワー室に向かったので、僕もシャワー室に向かった。
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「さっぱりした~」
「フフ、そうね。」
シャワー室を出てすぐ横にシャインさんが立っていた。
「あ、シャインさん。
…待たせてしまいましたか?」
「いいえ、全然。
私もさっきでたばかりです。」
「そうでしたか。」
「それに、先ほどララト君達から伝え鳥が来ましたから。」
「?」
伝え鳥?
聞いたことがない鳥だったので頭を傾げていたら、シャインさんが空を指していたので、その方向を見ると小さな鳥が飛んでいた。
「あの鳥が伝え鳥です。
近い距離だとあれくらいの大きさですが、
遠い距離になると体力のある大きな鳥が担当するようです。」
「へ~、すごいなぁ。
クルなら遠くまで飛べるから、そういった大きさの鳥が飛ぶんだね。」
「フフ、そうですね。」
「そういえば、ララト様達は何を伝えたか聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろんです。
と言っても今日の朝食は寮にて食べるので、その後に合流する、とのことですけどね。」
「なるほど。」
「エイム君は今日も寮で朝食をとるのかしら?」
「はい!
と言ってもその前にクルやカガ君、カイ君を呼びにいきますけどね。」
「そうなの、なら、一緒に朝食を頂いても?」
「もちろん!」
「では、先に食堂にてお待ちしてますね。」
そう言ってシャインさんは寮に入っていくので、僕も部屋に戻るために寮に入っていく。
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部屋に戻ると、着替えを済ませたカガ君とカイ君が居た。
「おはよう!カイ君、カガ君!」
「おう!おはよう、今日もやってたのか?」
「うん!」
「ふむ……。」
カガ君が興味深く僕を見ている。
「昨日の魔力循環より精度が上がったな…。」
「うん!何となくだけどシャインさんのおかげでコツがつかめたよ!」
「ほぉ…それは良かったな…。」
「ん?……おお、確かに昨日より明属性が減って無属性の魔力が多くなってるな!」
「クク、感心している場合か、カイよ…。
お前もしっかり鍛練を積まんとすぐに追い付かれるぞ…。」
「そうだな…俺も頑張るか…。」
「それより、今日の朝食はどっちで食べる?
聞いた話によると校舎の食堂は一杯人が居るみたいだよ?」
「私はもちろん寮だがな。」
「俺は…まあ、寮で良いかな。」
「うん、それとシャインさんに誘われてるから、一緒に食べよ!」
「私は構わん。」
「俺も問題ないが……シャインは問題ないのか?」
「問題ないって言ったてよ!
じゃあ、クルを起こしてくるね!」
「おう!」
自分の部屋に入るとクルが気づいて、僕の肩に乗った。
その後、3人で部屋を出て食堂に向かう……。
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食堂の入り口に着くとシャインさんが待っていた。
「すいません、シャインさんお待たせしました。」
「フフ、そんなに待ってないから問題ないわ。
さあ、行きましょ?」
「はい!」
シャインさんは優しいなぁ…さすが勇者様の血を受け継いでいる人だ…。
食堂に入って僕とカガ君は"日替わり料理"、クルは"魔物用の料理(鳥型)"、シャインさんは"サンドイッチ"を2枚、カイ君は"焼き魚定食"を選んでエリさんに渡す。
しばらくして、みんなの朝食がお盆に置かれて空いている席に座って食べ始めた…。
ちなみに、今日の"日替わり料理"はオーク肉を入れた野菜炒めだった。
「それにしても、今日もこっちは人がいないね。」
「まあ、冒険者ギルドに行くついでに外で食べてるんだろ。
稼いでるやつはな。」
「へ~」
「クル~ク!」
クルは嬉しそうな声をあげて料理を食べている。
そんな風に話しているとあっという間に朝食が終わってしまった。
今日も美味しかった!
朝食を片付けてシャインさんと別れて、僕たちは最低限の荷物を取りに部屋に戻っていった。
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部屋に戻ったけど……何を持っていこうか……。
「何か必要な物って何かな?」
「ん?そうだな…とりあえず武器と財布くらいか?」
「そうだな、別段必要な物は無い。」
「分かったよ。」
そう言って、カバンの中に中身がほとんど無い財布を入れて、父さんに貰った剣を腰にさして準備ができた。
カイ君たちを待っているとカイ君が自分の部屋から出てきた。
綺麗な剣を2本腰にさして、黒いマントを着けていて、カッコいい!
カガ君もちょうど部屋から出てきて透明な宝石が先端についている杖を空中に浮かせて、綺麗な茶色のローブを纏って出てきた。
「2人ともカッコいいね!」
「はっはっはー、そうだろうそうだろう。」
「これくらいは普通だ。
では、行くとしよう。」
そう言ってカガ君が玄関を開けて出ていったので僕たちも着いていった。
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寮から少し歩いて、2日前に見た学園の正門まできた。
カガ君とカイ君が正門近くにある硝子のついた小屋に近づいたので、僕もついていく。
「すみません、冒険科の者です。」
「ん?おお、分かった。
3人だな、何をするためか聞くぞ。」
「はい、冒険者ギルドに登録するのと簡単な依頼をいくつかこなしてきます。」
「よし、分かった。
通っていいが、夕刻の鐘がなる前に帰ってくるように、それと危険な事はしないようにな。」
「「「はい」!」」
返事をして学園を出る。
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学園を出てからしばらくすると人の通りが多くなってきた。
「ここだ…入るぞエイム。」
「あ、うん。」
カガ君が大きな建物に入っていった。
……ここが冒険者ギルドか……頑張ってカッコいい冒険者になるぞ!
そう心に誓いながら、建物に入ると中には人がそこそこ居て、老若男女、多種多様な種族が掲示板の前で立ってたり、席で話していたりしていた。
「エイム、こっちだ。」
「うん、ありがとうカイ君。」
「まあ、俺も最初はキョロキョロしたがあまり視線をとばさないようにな、変なやつに絡まれるから。」
「う、うん。」
話していたカイ君の顔が少しだけ疲れていた。
カイ君の忠告通り、キョロキョロせずカイ君たちについていって、"相談所"と書かれた板が掛かったカウンターに着いた。
カウンターの向こうには女性が居て、こちらに気がつくと……。
「あら?カイ君にカガ君じゃない。
今日はどうしたの?」
「キュイルさん、今日は学友のエイムの登録に来ました。」
そう言って、カイ君が僕を前に来るように手招きする。
「エイムです!おはようございます!」
「フフ、元気なお友だちね。
おはようございます、私はここの職員のキュイルよ。
よろしくね、エイム君。」
「はい!よろしくお願いします!」
「登録だったわね。」
そう言うと、キュイルさんがカウンターの下から少しだけ分厚い資料と色々な項目のある紙を出してきた。
「とりあえず、重要な事だけ説明するわね。
そこに座ってね。」
「はい、ありがとうございます。」
「エイム、俺たちは向こうでゆっくりしてるから、終わったらよんでくれ。」
「うん!ありがとう。カイ君、カガ君。」
そう言うと、カイ君とカガ君はテーブル席に向かっていった。
「エイム、冒険者について知っていることを教えてくれるかしら?」
「はい。
冒険者は色々な人からの依頼を受けて達成して、冒険者としてのランクをあげる。
と言うのを父さんから聞きました!」
「あら、エイム君のお父さんは冒険者だったのね。
それなら、ほとんど言うことは無いかしら。」
「あ、いえ、父さんから、規則が変わっているかもしれないから、しっかり聞いてこい。
と言われているのでお願いします!」
「フフ、分かったわ。
と言っても冒険者についてはエイム君が言った通りの事だから、次にランクについてね。
ランクは下位から極位まであって最初は下位1から始まって、下位9まで行くと、中位ランク試験を受けられるようになるの。」
そう言ってキュイルさんは資料をめくった。
そこには、文字がびっしりつまっていた。
「次に依頼を受ける際の注意点ね。
普通の依頼を受ける時は"依頼受付"で受け付けて、受付の人から、あとで渡す"ギルドカード"に依頼を受注してから出るようにね。
たまに、受付をせずに行って報酬が無いって事があるから。」
「分かりました。」
「後、常時受けられる依頼は受付を通さなくて問題ないから。」
そう言って、次のページをめくる。
「最後に冒険者同士でパーティーを組む場合ね。
パーティーを組む場合の傾向としては、冒険者が作る"クラン"の冒険者同士で組むか、臨時で組む場合が多いわね。」
「そうなんですか。」
「ええ、ちなみに臨時で組む場合は報酬をどうやって分けるかをしっかり話し合うことと、パーティーの平均のランクの依頼しか受けられないから注意してね。」
「はい!」
「他に質問がなかったら、この紙に名前、種族、年齢を書いてね。」
「分かりました。」
特に聞きたいことはないから、立ててあったペンを取って紙に書いて、キュイルさんに渡した。
「書き終わりました。」
「ありがとう、少しだけ待ってね。」
「はい。」
そう言って、キュイルさんが少し席をはずして奥に行って、戻ってくると手には手のひらサイズの白色のカードを持っていた。
「はい、これがエイム君の"ギルドカード"ね。
ちなみに、紛失した場合は言ってくれたらすぐに発行するから。」
「分かりました。
でも、紛失しないように気をつけます!」
「フフ、じゃあこれで登録は終わりね。
困ったことがあれば、ここに相談にきてね。」
「はい!そうします!」
席を立って、キュイルさんにお辞儀をしてからカイ君たちの元に向かう。
「お待たせ。」
「おう!じゃあ、パーティー登録もしとくか。」
「そうだな…エイム、カードを出せ。」
「?うん。」
カードを出すとカイ君とカガ君もカードを出して重ね合わせると、カードの色が赤色に変わった。
「よし、これでパーティー登録完了だ!
とりあえず、簡単な依頼をこなすか。」
「そうだな…これらでいいか?」
カガ君がそう言うとテーブルの上に2枚の依頼が出てきた。
内容は"ゴブ討伐"、"クリア草採取"だった。
「クリア草は常時貼られているが、ゴブの方は受付しないとな。
エイムは問題ないか?」
「うん、問題ないよ。」
「じゃあ、受注してくるな。」
「ああ…頼んだ。」
「僕も行くよ。」
そう言ってカイ君に着いていく。
カイ君が手早く受付を済ませて、カガ君と合流して、冒険者ギルドを後にして門に向かう。
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門に着くと相変わらず人が一杯居た。
門を出ようとしたら門番の兵士に止められた。
「君たち学園の生徒だね?
…ってカイにカガじゃないか!」
「おお、セプテンさん。
いつものですね。」
そう言ってカイ君とカガ君はギルドカードを出したから、僕も出して見せる。
「ああ、そっちの君も冒険科の生徒かい?」
「はい!エイムです。」
「エイム君か…私はバー=セプテン。
この門の担当をしているから、困ったことがあれば相談してくれ。」
「はい、分かりましたセプテンさん!」
「ああ、よろしく。
ちなみに、君たち学園の生徒が外に出るときは必ず身分を証明できる物を持って私たち門番の兵士に言ってくれ、安全上必要なことだからね。」
「はい!」
「じゃあ、通っていいがあまり遅くならないうちに戻ってくるようにな。」
「分かってますよ、ではまた。」
カイ君がそう言って外に向かうので、僕とカガ君はそれを追いかけて外に向かう。
門を出ると整備された道に荷馬車がずらりと並んでいた。
少し道なりに進んで適当な場所で森に入っていく。
森の中は村の森と違って獣道が多く、低木が生い茂っていた……少し通りにくい。
「とりあえず、回りに警戒しつつ、クリア草を探すぞ。」
「うん!」
「では、私が警戒を任されよう。」
「ああ、頼んだぞカガ。」
「お願いします、カガ君。」
カガ君にお礼を言いつつ、クリア草が生えていそうな日当たりと風通しの良さそうな場所を探す。
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「あったよ!こんなに一杯!」
「おお、すごいな……。」
森を探索してクリア草の群生地を見つけた。
一応、採りすぎないように所々採っていく。
「あ、それは採らないでカイ君。」
「?何でだ?」
「えーと…それまだ黄色が残っていて育ちきってないから、その横のクリア草を採ってね。」
「なるほど…詳しいなエイムは。」
「父さんに教えられたからね。
大抵の事なら分かるよ。」
「なるほどな~……そう言えばエイムの父さんは元冒険者だったんだよな?」
「うん!」
「なら、ランクは「魔物が来るぞ、武器を構えろ!」おっと、了解。」
「「GIIIIII!!」」
カガ君が言うと同時にゴブが2体現れて、カイ君が腰に差していた2本の剣を取り出した。
僕も剣を抜いてゴブ達に向ける。
「エイム!そっちの1対は頼むぞ!」
「うん!」
「では、私は援護にまわろう。」
「了解!行くぞ!」
「「GIIII!!」」
カイ君の合図とともに、2体のゴブが声をあげる。
村では1度しか戦ったことがないが、あの時よりかは怖くないし、このときのためにいつも鍛練してきた!
自分を誇示して少しだけ震えた手を押さえながら、相手に斬りかかる。
「ていや!」
振り下ろした剣はゴブの右肩から斜め左に流れていき、ゴブは怯んで少し後ろに下がるとすかさず…。
「クルーー!!」
「GIGYAGGYAGA……」
クルが追撃を与えて、ゴブは倒れた。
「お!そっちは終わったか。」
「うん!クルのお陰だよ。
ありがとう、クル。」
「クック~♪」
お礼を言うとクルは嬉しそうに翼を広げた。
「見事な連携だったな。」
「そうなのか?俺も見たかったぜ!」
「なら、もっと頑張るね!」
「クル~!」
そう雑談しながら、ゴブの体にある小さな魔石を取り出して納品用の袋に入れる。
その後は、依頼に書いてあった数のクリア草を採取しつつ、道中に居たゴブを狩っていたらいつの間にか依頼分の討伐が終わっていたので帰ることにした。
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森を抜けて道に出るが、入ってきた場所より離れた場所だったから都市の壁が見当たらない。
そろそろ日が真上に来るから、早く報告して昼食を食べたいなぁ…。
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道を歩いているといくつかの荷馬車や馬車が通りすぎていった。
そして、行きより少し歩いたけどようやく戻ってこれた。
入り口でセプテンさんに帰ったことを報告してから冒険者ギルドに向かう。
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冒険者ギルドに着いて、中に入ると朝より人が少ないけど、それでも賑わっている。
カイ君が依頼の報告をして報酬を貰って戻ってくる。
「これが、今日の稼ぎだ。
3等分するから、1人辺り1205コルだな。」
そう言って予め分けられていた袋を貰った。
……中身はそこまでないはずなのに、とても重く感じた。
「腹も減ってきたしさっさと戻って食べるか。」
「そうだね、僕もお腹ペコペコだよ~。」
そう言いながらお腹をさすってみた。
「ははは、じゃあ帰るか。」
「うん!」
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学園に戻ってキュロスさんに挨拶して中に入り寮まで戻ってきた。
すると、カイ君が正面玄関に向かわず裏庭に向かった。
「入らないの?」
「ああ、汚れたまま入ったらエリさんに起こられるからな。
シャワー室で綺麗にしないとな。」
「そう言えばそうだね。」
そう言って裏庭のシャワー室に入って体を洗った。
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体を綺麗にして
食堂に入ると昨日より人が居た…校舎の食堂が多かったからかな?
昨日と同じものを選んでエリさんに渡して料理を受け取って、カガ君たちが先に座っていたのでその辺りに座って食べ始める。
「午後はどうする、また依頼でも受けるか?」
「いや、そんな時間もない。
昨日と同じように学園を見て回るくらいでいいだろう…。」
「僕も見て回りたいかな。」
「んじゃあ、午後はそうするか。」
そんな話をしながら昼食を食べ終えて、一旦部屋に戻って荷物を置くことにした。
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荷物を置いた後、外に出てカイ君が"校内地図"を開いた。
「昨日は庭園に行ったから、それ以外の場所に行くか…。
エイムはいきたい場所あるか?」
「う~ん……あ、ここに行ってみたい!」
そう言って地図に書いてある"訓練場"を指差した。
「訓練場か…カガはいいか?」
「私はどこでも構わんぞ…。」
「なら、決まりだな。」
そう言ってカイ君が地図を畳んで"訓練場"がある校舎に向かったので着いていった。
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地図にかかれた場所まで来ると校舎と同じ高さの石造りの建物があった。
「大きいね。」
「ああ、コロッセオみたいだ。」
「コロッセオ?」
「あ、いや、ははは、何でもないよ。」
ドゴーーーーーーーーン
「「!?」」
「どうやら中ですでに訓練しているようだな。」
「え?」
「いや、何があったらこんな音が出るんだよ!?」
「普通のことだ…行くぞ。」
そう言ってカガ君が"訓練場"に入っていくから、慌てて僕たちも着いていく。
訓練場の長い廊下を抜けるとかなり広い場所に出た。
「広いね!」
「ああ、そうだな。」
カイ君と話ながら周りを見ていると、先ほどの音の痕跡があった。
地面が黒く焦げ付いていて周りに煙があがっていた…。
「おい、エイムこっちだ。」
「え、あ、うん、分かったよカガ君。」
カガ君の声がする方に着いていくと色んな大きさの的が地面に刺さってあった。
「カガ君、ここは?」
「ここは遠距離用の訓練場だな。
主に弓や魔法を使う者が訓練するところだ。」
「へ~。」
「今日は昨日教えた魔力循環の応用を教えよう。」
「応用?」
「ああ、無属性の魔力循環ができてきたからな、次はその魔力を放出してあの的に当てるだけだ。」
「放出?」
そう聞くとカガ君が的に向かって手を向けると手のひらから光の玉を出した。
「これは無属性の初級の魔法の1つだ。
一般的には"魔力玉"と言われていて極めればこれ以上大きくもできるがこれくらいでも。」
そう言いながら"魔力玉"を的に向かって放つと
バン
勢いよく的に当たった。
的の方は少しだけへこんでいた。
「…このように便利な攻撃方法になる。」
「すごいね!」
「ああ。
では、やり方を教えよう。」
「うん!お願いします!」
「俺は、そこら辺でぶらぶらし「お前もやるんだよカイ。」……分かったよ…。」
「では、始めるぞ。」
「お願いします!」
「はぁ……。」
「そう落ち込むな……今日はエイムも居るから簡単なやつでやる。」
「?」
「……ならいいか…。」
「では、今度こそ始めるぞ。
まず、循環している魔力を一ヶ所に集める。
カイは前教えた無属性以外の属性を使って極めろ。」
「あいよ。」
そう言ってカイ君が返事をして、的に向かって色々な色の玉を当てる。
「エイムはとりあえず片方の手に魔力を集めてみろ。」
「うん!」
言われて通り片方の手、左手に魔力を集め……そういえばどうやって集めたらいいんだろう?
「カガ君、どうやって集めたらいいの?」
「そうだな…手を閉じると力が入るだろ?」
「うん。」
言われた通り左手を閉じると確かに力が入った。
「そんな感じだ。」
「いや、どんな感じだよ!?」
「う~ん、分かんないけどやってみるね!」
たぶんだけど今、循環している魔力がいつもの状態と考えたら、一ヶ所に集めるというのは手を閉じた時の力が入った状態のことなんだと思うから、それをイメージして………。
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ずっとイメージをしていると左腕が暖かくなってきた。
「ふむ……無属性ではないが少しできているな。」
「本当!あ。」
「だが、集中が切れたらダメだな。」
カガ君の言うとおり左腕の暖かい魔力?が感じなくなった。
カガ君が空を見ながら…。
「時間もいいし今日はこれで終わりだな。」
「う~……。」
「クク…そう拗ねなくとも、ゆっくり覚えていけばいいさ。」
「そうそう、俺だって覚えるのにかなり時間をかけたからな!」
「うん…。」
「さ~てと、寮に戻って腹一杯夕食を食べて風呂に入って、明日に備えるぞ!」
「……うん!」
カイ君の言葉に力強く応えて訓練場を後にした。
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寮に戻って食堂に入るとお昼の時より人が居た…そこそこ賑わっている。
「どうやら、依頼に出てたやつがほとんど帰って来たっぽいな。」
「…私は静かに食事をしたいんだがな……。」
「僕はどっちでもいいかな?」
そんな話をしながらいつも通り料理を選んでエリさんに紙を渡して料理を受け取った。
料理を受け取ったのはいいけどカイ君とカガ君はまだ料理を受け取っていなかったから先に座ることにしたけど……。
「席、どこに座ろうかな…。」
そんな風に独り言を呟きながら周りを見るとカイ君達と座れるほどの空いている席を見つけたからそこに向かった。
…でも、何で他が一杯で座れていない人もいるのに空いてるのかな?
そう思いながら席に座ってカイ君達を待っていると……。
「ね……ねぇ………。」
「?」
空いている席に唯一座っていた、片目を包帯で隠した人に話しかけられた。
他に人は居ないから、僕に話しかけているよね?
「何ですか?」
「あ、いや……別に……何でも…。」
「?」
不思議な人だ……でも、僕と同じ制服を着ているからきっと冒険科の人だよね。
なら、自己紹介しておかないと。
「僕はエイム、こっちはクルって言うんだ。」
「え?」
「?僕は冒険科だけど、君も冒険科の人だよね?」
「え、あ、はい……ぼ、僕はシャクテラリス=ウルファです、はい…。」
「シャク…テラリス……ウルファ君…カッコいい名前だね!」
「え……あ、ありがとう…その……ウルファで…いいよ。」
「うん、分かったよ。
僕のこともエイムっていってね。」
「うん……エイム…。」
そんな風にウルファ君と話しているとカイ君達が来た。
「待ったか?」
「ううん、全然待ってないよ。」
「そうか?ならよかった。
……それで、そっちは知り合いか?」
「あ、紹介するね、ウルファ君って言ってさっきまで話してたんだ~。」
「そうか、なら俺も自己紹介しないとな。
俺はカイ、よろしくな。」
「え、あ、うん。
よ、よろしくお願いします。」
「ははは、そう固くなるなよ。
同い年なんだから、気楽に話そうぜ。」
「う、うん…ぜ、善処します……。」
「…カイよ……食事中は……あまり……話すな……。
マナーがなって………ないぞ。」
「そう言いながらお前だって話ながら食べんじゃねえ。」
「あははは…カイ君、落ち着いて落ち着いて…。」
そんな風にウルファ君も加えて夕食を食べた。
カガ君が食べ終わるとウルファ君の方を向いて話し出した。
「…ウルファだったな…。」
「え?あ、はい。」
「私はカガという、少し聞きたいことがあるんだが…。」
「…な……何でしょうか……。」
「言いたくなければ答えなくてもいいが……なぜずっと魔法を使っているんだ?」
「え!?」
カガ君が聞くとウルファ君が急に立ち上がって驚いた表情をして、声をあげた。
幸い他の人はほとんど食事を終わらせて食堂を出ていたお陰で僕たち以外誰も居なかった。
「な、何で分かったの!?」
「私位になれば分かる…。
…しかも、よく見れば特殊な魔法だったから聞いてみただけだ……。」
「?どういうことだカガ?
別に、特殊な魔法でも普通じゃないか?」
「ああ、だが特殊な魔法でも、一般的には禁術だがな…。」
「!!」
カガ君の言葉にウルファ君は更に驚いた。
「…別に気づかないふりでもよかったが、これも縁だ…。」
「…………」
「言いたくなければ言わなくてもいいぞ…少し興味があっただけだ…。」
「……誰にも言いませんか?」
「ああ、構わんぞ。」
「エイム君達もいいかな?」
「僕はいいけど、ウルファ君…顔色悪いよ?大丈夫?」
「俺も構わんが……ヤバイのか?カガ?」
「ヤバイ、ヤバくないって言うのは本人次第だ…。」
「……じ、実は…僕……呪われてるんだ…。」
「やっぱりか…」
「呪い?」
「うん…。」
「…どういう…呪いなんだ?」
「この呪いは…」
そう言うとウルファ君が腕を捲った。
そこには黒い紋様がいくつもあった。
「これは…」
「ふむ…"異獣化の呪い"か…。」
「異獣化…の呪い?」
「ああ、その名の通り呪われたものは呪った相手の姿になってしまう呪いだ…。」
「うん、カガ君が言った通りだよ。
…この呪いは、僕が子供の時に誰かからかけられたんだ……しかも、目立つように…。」
そう言って片目を隠していた包帯を外すと腕と同じように黒い紋様があった。
「顔にまで侵食するほどにまで…。」
「…治すことはできなかったのか?」
「いや、カイそれは無理だ。」
「な、何でだよ!?」
「いいか、呪いってやつは術者以外解くことはできないんだ。」
「で、でも、神殿で解いてくれるはずだぜ!?」
「ああ、だが、それにはかなり金がいる。
ウルファほどの呪いとなると普通の倍以上な…。」
「うん…僕の両親も神殿に掛け合ったり、知り合いの魔法使いに掛け合ったりしたけどお金が思った以上にかかるから諦めたんだ。
これでも、僕の家はそこそこ有名な商人なんだけどね…。」
「そうだったのか…。」
「……そう言えば、その呪いで何に変わるんだ?」
「…分からない。」
「?どういうことだ?1度くらいは呪いが発動してもおかしくないんじゃ?」
「僕もそう思ったんだけど……何故か発動しなかったんだ……だから、いつ変わるのか分からないし、どんな姿になるのか分からないから怖いんだ。」
「……確かに得たいの知れない恐怖って言うのは怖いな。」
「ああ……だから、学園長にお願いして1人部屋にして貰って、何時変わっても他人に迷惑をかけないようにしているんだ……ごめんね…こんな話を言って…。」
「謝ることはない…私達が聞きたかったから問題ない…。」
「そうだぜ。
でも、他のやつには言ってないんだろ?
なら、何でここだけ空いていたんだ?」
「実は…人の居ない時間帯を狙って入ったときに誰かに見られてしまって、それで…。」
「なるほど…噂になったのか……しかも、その感じじゃ根も葉もない噂になった感じか…。」
「うん…だから……エイム君達には悪いけどあまり僕と関わらない方が良いよ…。」
「?何で?」
「え、だって、僕と一緒に居たら、エイム君達にまで迷惑をかけちゃうよ…。」
「???」
迷惑ってどういうことだろう?
呪いが移っちゃうのかな?
「ねえねえ、カガ君、その呪いって移るの?」
「?いや、そんなことはないぞ。
…病気じゃあるまいし…。」
「????
ウルファ君、迷惑ってどういうことなの?」
「え……ぼ…僕と一緒にいるとエイム君達にも根も葉もない噂が広まっちゃって……それが…。」
「う~ん…根も葉もない噂なら気にすることないよ、だって…。」
「だ…だって…?」
「僕たち、もう友達でしょ?
そんなことを心配してくれるなら、なおさらほっとけないよ!」
「エイム君…。」
「そうだな、エイムの言うとおりだぜ!
噂だろうがなんだろうが、実害が無かったら問題ないぜ!」
「私はその呪いについて興味があるからな…。」
「カイ君……カガ君………みんな…ありがとう…。」
そう言ってウルファ君がお礼を言った。
「そんなことより、そろそろ風呂に行かないと閉まるぞ。」
「おっと、もうそんな時間か、急ぐぞ。」
「うん!」
「ぼ、僕もいい…かな?」
「もちろん!さあ、行こ?」
「う、うん!」
その後、ギリギリ大浴場に着いて、みんなでお風呂に入った。
・
・
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大浴場から寮に戻ってウルファ君と別れて部屋に戻ってきた。
その後、いつも通り日記を書いてベッドに入った。
…今日も良い1日だったな………。
クレア歴1380年 冬春季 29日 晴れ
今日も昨日と同じように小さい頃の思い出が夢に出た。
やっぱり、村が恋しいのかもしれない。
けれど、頑張って父さんのような冒険者になれるように学園で頑張る。
昨日と同じようにシャインさんと一緒に素振りをしていると、シャインさんが魔力循環のコツを教えてくれた。
そのお陰で、無属性の魔力循環ができるようになった。
その後、学園の外に出て冒険者ギルドに入って冒険者登録をして、依頼まで受けた。
初めてだったけど、冒険者になれて嬉しい。
学園に戻って探索して訓練場でカガ君に魔法を教えてもらったけど、うまくできなかったから、明日こそ頑張って覚えたい。
後、新しく友達ができた。
明日からはウルファ君と一緒に行動したいな。
日記はここで終わっている。
お金について
一般的な冒険者(中位の5)の稼ぎはだいたい8~10万コル。
1日宿に泊まるなら500コルで済む。
ありがとうございました。
次回も遅れます。