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化学は嫌いな科目だった

化学は嫌いな科目だった。


本当は嫌いではなかったのだが、高校2年に担任になった先生がダメダメで、まるでやる気がなくなってしまったんだ。

(先生のせいにするとは酷い奴だ。誰だ!そいつは!   私だ!)



で、その先生のあだ名が「ぼうふら先生」だった。

何で、ぼうふら先生だったのかな?

ビン底めがねに、ラッキョウ型の異常に細い顔つき&体つき。でもって、サンダルで歩くときの前かがみの格好と、ペタンペタンとした音。それらが絶妙にミキシングされて、ぼうふら先生になったのではないかと思う。



ぼうふら先生は、ジョークが下手で妙なジョークで笑わそうとするのだが、そいつが常に「とほほ」だったので、しらけるのが常だった。

ネクタイの付け方が変だったので、ちゃんと縛っているのか不思議で仕方なかった。付けたネクタイの先端が軽くズボンのベルトのバックルの位置よりも遥か下、ズボンの股の付け根のところまで垂れていた。それは彼流のファッションだったのだろう。

先生は、教科書の進行速度が適当すぎて、しかも話の流れに必然性を感じないものが多かった。声も「ボソボソ」だったので睡魔との闘いになった。

私は教科書に先生の似顔絵を描いて、眠気を飛ばそうとして(遊んで)いた。

時々エスケープもした。それはいけないことです。

しかし、クラスの大半がエスケープすると言う異常事態にまで発展した。

だから、彼には嫌われていたかもしれない。きっとそうだ。そうに違いない。

友人達は「ぼうふら先生」を、

そのうち「ぼうふら」と呼び捨てするようになり、

仕舞には簡略して「バウ」と呼ぶようになってしまった。



夏の中間テストがやってきた。

私はそんなに成績の悪い奴だとは思っていなかったのだけど、その中間テストは頗る難しかった。先生にたてついたお返しとばかりに、難問を私にぶつけてきたに違いないと思った。バウに悪意を感じた。



後日、採点が終了した答案用紙をバウは教壇から生徒の名前を呼びながら渡していく。

私の順番が来た。

教壇へ向かう私。

じっと答案用紙を見ながら、決して私の顔を見ないバウ。

「はい、どうぞ。」

決して私に視線を向けないバウ。

回れ右して、自分の席に戻りながら答案用紙に目を落とす。




3点




のけぞった。




答案用紙を持っている私の手がぷるぷる震えた。

私は振り返ってバウを見た。

彼は下を向いたままだったが、不適な笑みを浮かべていた(と思う)。



それは今までの人生において、一番強烈な得点だった。

そりゃ確かに0点の時もあったし、24点なんてのもあったが、3点という、なんだか、全然潔くない得点に膝が笑ってしまった。


私の隣の席には、クラスで最も得点と縁が遠い友人がいる。

更にその後ろには2番目に縁遠い友人がいる。

彼らは、私の答案用紙を覗き込んで、


「お!・・・お前、極めたなっ♪」


と、話しかけてきた。

ちなみに、本来1番出来ないヤツは7点で、2番目に出来ないヤツは10点だった。

私は記録更新でペケになった。


本来2番目の奴が私に言う。


「お前、全然おばかじゃん♪オレなんか、2桁得点だぜ、なんだよそれ、オレの3分の1も取れて無いじゃん♪」


確かに仰るとおり。私は確かに君の3分の1も出来ていない。


ええ、ええ、そうですとも。

くそったれー!


むちゃくちゃ悔しかった。



その友人たちの言動というよりも、「してやったり」的になったバウのそれが気に入らなかった。(おそらく被害妄想が働いていただけなのかもしれないけど、本気でそう思った。世が世なら犯罪に…それはないか。)



そこで珍しく気合と根性で私はヤケになって勉強した。


「点を取ればいいんだろ!取れば!」


取ってやろうじゃないかと言わんばかりに思いっきり勉強した。

休み時間にも教科書を広げた。これは非常に珍しいことだ。

あまりにも珍しいので、友人達は私にちょっかいを出す。


「3点君、やるだけ無駄だよ、それより僕と遊びませんか~?」

「お!極めた君がナニを今更頑張っているのだ~い?もはや取り返しのつかないことをしたのだから、潔く非を認めたまえよ。」


無視無視。


「あれ~?らしくないじゃん?」


私はそこで口を開いた。


「放っておいてくれ、私は忙しいのだ」

「お!そうか!がんばれ3点」

「僕も応援しよう、負けるな3点」




思えば、ろくな友人がいなかった。




そんな中でもノートを貸してくれたりする有難い友人もいた。有難い友人に「なった」やつもいた。

期末テストがやってきた。

私は意地の98点をゲットした。

中間と期末の平均点。かろうじて50点超を確保した。


賜物。

この得点は中間テストの得点とセットで、暫く学年の伝説となった。(ほんとだよ)

で、他の教科は化学に力点を注いだ分だけ、エネルギーが不足した。

化学以外は酷い結果になった。

古典の先生からは「どうした?遊んでいたの?」と聞かれた。

英語の先生には「進級できなくてもいいのか?」と聞かれた。

物理の先生には「もう一度、一から出直せ」と言われた。

その度に私は彼等に言った。


「文句があるなら化学に言ってよ。私は他をかまっていられなかったのだ。」


それなりの説得力はあった(と思う)。


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