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その匂いが気になる

見知らぬ女性とのすれ違いざま、彼女のつけていた香水らしきものが香ってきた時、思わず振り返ってしまいたくなることがある。中々、そういうシチュエーションってのは少ないけれど、それだけにそういう瞬間に遭遇するとかなりトキメいてしまうものだ。いやほんとに。


今回ばかりはドキッとしてしまった。


実は、私のウィーク・ポイントのひとつに『匂いの記憶』というのがある。そいつををくすぐられてしまうと、かなりクる。

すれ違いざま、彼女から香ってきたそれは、有名ブランドの香水でもなければ、物凄くレアなそれでもない。纏っていた香りは、…そう、コスメではなかった。


『文房具』の匂いだった。


そういう仕事場にお勤めなのかどうかは定かではないが、インパクトが大きかった。


今でこそあまり感じることはなくなってしまったが、昔は文房具が好きで好きでたまらない時期があった私。収集マニアではないのだけど、文房具屋さんに出かけては、何かを買うのがとても好きだった。ある日は定規、ある日はインク、ある日はガラス棒、ある日はスケッチブック…とまぁ、こんな感じの日々(あれ?文房具オタク?)。

なんでそうなってしまったのかは分からないけど、学校帰りに最初に遭遇するお店が文房具屋さんだったことも要因のひとつかもしれない。状況は違うけど、今のコンビニに立ち寄るのと同じような感覚を私は持ち合わせていた。


私がよく覗いたそのお店には、文房具に限らず色々なものを店頭にラインナップしていた。基本的に学校用品を扱うと言うコンセプトだったのかな?上履き、ナワ跳び、体操服、紅白の帽子のように「体育」で必要とされるアイテムも並んでいたし、ガチャポンとかちょっとした「くじ」なんかも置いてあった。

私はそのお店に入ると、駄菓子屋さんのような、おもちゃ屋さんのような、そんな文房具の匂いに酔ってしまっていたんだ。


変な話だけど、新品の匂いってあるじゃないですか。文房具に限らず、服とか車とか、畳とか・・・。そういうのって、押しなべて気持ちいいものですよね。

私の場合は特に文房具のそれがたまらないのですわ。


例えば、まっさらのスケッチブック。

買ってきては、最初のページを開いて、思わず匂いを嗅いでしまう(笑)。

消しゴムの匂い、定規の匂い、鉛筆の匂い、インクの匂い、…いやぁ、どれひとつとっても、たまらない。

敢えて文房具の中で気に入らない匂いといえば、木工用ボンド・糊などの接着剤系か。


そうそう、文房具と言えば「書くツール」にこだわった時期があったっけ。

そもそもの基本は鉛筆だった。

執拗に鉛筆にこだわった頃があった。

シャーペンよりも「使っている感」があるから、鉛筆にこだわったんだと思う。「MONO」なんてブランドが好きだったけど、それよりもお尻に消しゴムがついているヤツがお気に入りだった。


それが、何かのきっかけで興味はボールペンにシフトする。これもインクの減りを目で確認できることから楽しさが出てきた。銘柄にもこだわりがあって、ゼブラの「ハードクリスタル」ってのがお気に入りだった。ペン先のフォルムが好みだった。


そしてまた嗜好の変化が訪れる。今度は万年筆が好きになった。伯父から頂いたのがきっかけだったが、シェーファーの万年筆が好きになった。ヘッドの部分のカタチが気に入ってしまったのである。(カタチから入るという私のスタイルはこの頃に既に出来上がっていたんだな)取替え用のカートリッジインクを眺めながら減りを確認して楽しむ…。


いずれにしても、共通して言えることは、「減り」を視認できること。

実感が伴うということが、気持ちを高揚させてしまうんだろうね。

減りを目で確認することの楽しさと、カタチの魅力…これ、極めてしまうと、「付けペン」に帰着する。


そしてとうとう、漫画家が使うようなペン先でインクをつけて書くようになってしまった。

丸ペン、スプーンペン、Gペン・・・ペン先の種類に応じて書き味が変わる。そして、インクの匂いが机の周りに立ち込める。ちょっと書いただけで、インクが切れてしまい、またペン先をいちいちインクビンに差し込まなければならない。

全てにおいて私の欲求を充分に満たしてくれるではないか。


さぁ、そうなるとエスカレートするぞ。

ペン先に満足したら、ペン軸に満足したい。カンペキにしたい。


これにもまたいろんな種類がありまして。ちょっとした柄にもこだわりを追求すると収拾がつかなくなる。グリップしたときの感触・質感・品位…などなど。

その頂点に君臨したのは「羽」であった。昔じゃ、羽そのものの先を割って、ペンにしていたのだろうが、そのやり方では線が太くなってしまうばかりか、重心がアンバランスである。時代を経過して今では加工技術が進歩。ペンの軸は羽だけど、グリップする部分やペン先のジョイント部分などには手心が加わるようになった。これが中々かっこいい。

孔雀のそれはかなりに高価だけど、そいつで「サラサラ~」と書き物をすると、何とはなしに中世紀の気位の高い立場になったような、音楽家になったような、パイプを咥えたくなるような、そんなどーでもいいけど「ぞくぞくぅ~っ!」な感情に支配される。


そんな「ぞくぞくペン」で問題を解こうとすると、何だか急に頭が良くなったような気がしてくる。問題が単なる「戯れ」程度に見えてくるのだから不思議だ。

「問い1…ふむふむ、…(サラサラ~)」みたいな。

とりあえず解りそうなところまでペンを走らせて見る。なんだかこのまま最後まで行けてしまうような気になってくる。でもそのうち止まる(問題、解けてない)。


いいのだ、要は如何に成りきれるかが問題だった。

私は問題を解くと言うよりも、解こうとしているその「カタチ」が気に入っていた。


文房具の威力はすごいと思うよー。

昔は使っている文房具でその人となりを判断する「文房具占い」なんてできると思ってさ、これを体系化したら一儲けできるんじゃないかと思ったくらいだった。


どんな形のペンを使ってるか、その色は何か、大きさはどうか、種類はどのくらい持っているか、かわいらしいか、かわいらしくてもそれはフェイクか、…それはすなわち〇〇の性格を内包している。なんてねー。

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